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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第3章 羅刹の鬼達
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第132話 闘仙流 朝の稽古編2





――――室内演習場





「ハッ!」



「っ!?」



繰り出された掌打を流し、呼気と共に肩から当身を入れる。

魔力の流れを読む闘仙流において、通常の打撃は流れを読み取られ、流される為、有効打になり難い。

それを掻い潜るにはいくつか方法があるが、最も実践し易く、効果的なのが今のような零距離から体ごと放つ当身である。



「今のは少しヒヤッとしたぞ、ゾノ」



当身を食らって倒れたゾノに手を差し伸べる。

ゾノは悔しそうに、俺の手を掴んで立ち上がった。



「久しぶりに一本取れると思ったんだがな…。この二ヶ月はそれなりに修行に励んだんだが、俺もまだまだだな…」



「いや、ゾノは良くやっていると思うよ。少なくとも、二か月前の俺だったら今ので一本取られていた」



「…成長したのは俺だけでは無い、という事だな。確かに、今のトーヤからは以前には無かった手応えを感じた。上手く言えないが、勘が良いと言うか…」



…確かに。それは少しあるかもしれないな。

曲がりなりにも戦場に身を置いた経験と、文字通り死にかけたという経験が、俺に危機感のようなものを植え付けたように思える。

これも一種の戦闘勘のようなものかもしれない。ゾノの攻撃を流せたのもそのお陰だ。



「まあ、今のを捌けたのはそれが理由かもな。以前だったら間違いなく剛体で受けようとした筈だし」



「そう、正にそれだ。全く、この日の為に隠していたのに、容易く防がれようとはな…」



「以前のゾノだったら、あのタイミングだと掴みに来ていたからな。何となく嫌な予感がして無理やり流した。それにしても、今のは『破震』だよな? まさか、使えるようになっているとは思わなかったよ」



『破震』は闘仙流における打撃技の1つで、相手と魔力を同調し、触れた部位から浸透させ、揺さぶる内部破壊の技である。

フィクションにおける発勁を実現させたような技だが、相手に触れる直前までは通常の掌打と変わらない打ち方をする為、見た目ではそれと判断し難い特徴を持つ。

闘仙流の打撃技は俺の開発が進んでいない為、現状数が少なく、『破震』は中でも基本技とも言える存在なのだが、実はそこそこ習得難易度が高かったりする。

これは、自分の中の魔力の流れを感じ取るのに、ある程度魔力の扱いに慣れている必要がある為だ。


魔力の扱いについては、幼少の頃が一番習熟し易いと言われている。実際、ある一定時期を過ぎると急に覚えが悪くなるらしい。

ゾノの年齢はライと同じだと言っていたから17か18辺りであり、その一定時期を過ぎている。

幸いな事にゾノは術士でもある為、魔力の扱いについては慣れていたのだが、それでも内精法や外精法とは異なる魔力運用となる為、習得は困難と思われた。

実際、同じく闘仙流の稽古に参加している15歳以上の術士達は、誰も『破震』の習得に至っていなかった。

これには、レッサーゴブリンの中でも類稀なる戦闘センスを持つ、ライすらも含まれている。


ゾノの魔力操作技術は、お世辞にも優れているとは言えない。

そのゾノがこうして『破震』を習得したというのだから、その背景には並々ならぬ努力を感じさせた。



「…俺は色々と他者に比べて劣っているからな。トーヤを真似て色々と取り組んでみたのだ。だから今日はその成果を見せようとしたんだが…このザマだ。技を隠してまで挑んだというにな」



それでわざわざ改まって組手の申し出なんかしてきたのか…


それなりの覚悟を決めていたらしいゾノは、どことなく沈んだ様子である。

全く、自分がどれだけ凄い事したか理解してないのか? やれやれだな…



「なあゾノ、お前の努力と実力は俺も認めているし、他のみんなも認めていると思うぞ? 認めているからこそ、お前が部隊長である事に誰も文句を言わないんだ。そんなお前が自分を卑下するようだと、他の者達にも影響が出るからやめてくれ。それから、技を隠すのに後ろめたさを感じる必要も無い。敵に手の内を隠すのは戦略上当然の事だし、お前が真剣だって事が伝わってくるから、むしろ好ましいと思う位だ」



「…いや、俺が部隊長である事に何も文句が上がらないのはトーヤのお陰だ。俺の実力ではない」



かーっ! このネガティブ君め! どんだけ卑屈なんだよ!

なんか、俺が言った事すら慰めだと捉えている節がある。

どうしたもんか………、あっ! 丁度良い機会があるじゃないか!



「…よし、ゾノ! この後の集会でちょっとした発表があるんだが、お前は選手として強制参加! これ一応、命令だから宜しく」



「せ、選手!? なんの事…」



「トーヤ様! ゾノ様とイチャついていないで、早く私の相手をして下さい!」



げ…、そういえばゾノの組手の申し出を受ける際、アンナにも便乗されたのであった。

熱が入っててすっかり忘れていた。逃げる予定だったのに…



「じ、じゃあそういう事で、後で宜しくなゾノ!」



「ま、待ってくれトーヤ! 選手とは一体…」



「あぁっ!? 待って下さいトーヤ様!! ズルいです! 約束したのに!!」



ゾノの制止を無視してそそくさと逃げ出す俺。

それを凄い速度で追って来るアンナ。

いやぁ…、逞しくなったなぁ…


でも済まない。組手は勘弁して欲しい。だって勝てないし…

俺が居ない間、ソウガが何を手ほどきしたのかは不明だが、アンナの実力は以前とは比べ物にならない程跳ね上がっていた。

以前ですら結構危うかったと言うのに、今では完全に俺の方が下である。


それはそれで、まあ仕方ないと言えるのだが、こんな場所でボコボコにされるのは勘弁である。

先程の俺とゾノのように、組手として成立するならまだしも、残念ながら組手と言える内容にすらならない自信がある。

その自信の根拠は、俺が帰って数日間の実体験からくるものだ。

アンナは俺が居なかった二か月間の鬱憤を晴らすが如く、俺を容赦なく攻撃するである。

稽古なのに…

まさか、戦場から帰って、戦場以上の戦慄を覚えようとは思いもしなかった…



「待って下さい! トーヤ様!」



アンナの速度が上がる。

ああ、駄目だ。これは追い付かれるね。うん。

ぐ…、せめて、せめて人気のない所まで逃げさせて! 後生ですから!



俺は心が読まれるのを前提に、心で泣き言を言いながら室内演習場を飛び出したのであった。












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