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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第3章 羅刹の鬼達
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第125話 吸血鬼




騒然とする羅刹陣営。



「影華…、どういう、事なのですか?」



「……」



紅姫の問いに影華は答えられずにいた。

俺達の推測に対し、影華は最後まで否定的だった。それ故に言葉が出ないのだろう。



「紅姫様、私から説明しましょう」



「…タイガ殿、其方は何か知っておられるのですか?」



「ええ。では、多少推測も含みますが一から説明しましょう。まず、此度の戦ですが、我々の領地である羽山が侵略された事が発端となります」



「馬鹿な!? 我々はその羽山から進軍を受けたのだぞ!?」



文官らしき男が声を荒げる。



「進軍、と捉えられるのも無理は無いだろうが、我々はあくまで羽山を侵略した鬼達を追撃しただけなのだ。決して侵略を目的に進軍したのではない」



「出鱈目だ! 追撃だと!?、万の軍勢を率いてか!? 笑わせるな! そんな軍勢を率いて領地を侵しておきながら、侵略行為じゃないなどと誰が信じるものか!」



「貴殿の仰る通りだ。万の軍勢を率いての領土侵犯。これは間違いなく侵略行為であり、明白な宣戦布告と言えるだろう」



「ではやはり貴様らが…」



「我々は今回の侵略行為を、羅刹の宣戦布告と捉えた。何故ならば、羽山を侵略していたのは万の軍勢だったからだ」



「なっ!? あり得ません! 我ら羅刹にそんな軍勢など…」



「無い、と言われても我々では判断しかねる。ただ、事実として羽山は侵略にあった。我々が向かった時には何もかもが手遅れだった。常駐していた軍は愚か、罪のない無辜の民に至るまで、悉くが蹂躙されていた」



あり得ない、そう言いながらも鬼達には動揺が走っている。

一人、涅槃と呼ばれた老人を除いて、だが。



「私の言葉を疑うのであれば、羽山の地を確認して貰っても構わないぞ? …ともかく、我々は好き放題暴れている鬼達の討伐を開始したのだが、その際に少し違和感を覚えたのだ」



そう言ってタイガは部下に視線を送る。

部下は頷いて布で包まれた何かを床に置き、包みを解く。



「これがその際に狩った鬼の亡骸だ。本当は生きたまま捕獲したかったのだが、父も私も、あの無残な光景を見せられて少し頭に血が上っていてね…」



「これは鬼…? 見た事の無い種類だが…」



その亡骸を見て、今まで黙っていた青色の鬼が初めて口を開く。



「やはり、月光殿でもわからぬか。しかし、そちらの老人はわかっているのではないか?」



「…知らぬ」



タイガの問いに、涅槃は無表情のまま答える。

シラを切るつもりか? と思ったが、



「トーヤ殿、あれは傀儡です。本体はその奥の…」



ミカゲが指を指した先、そこには他の臣下達と同じように動揺している鬼の姿。

あれが本体? どう見ても普通の鬼だが…

しかし、そう思ったのもつかの間、先程の老人と同様にその表情が抜け落ちる。



「ほう…? 私の事が分かるのですか? 確かに貴方からは妙な気配がしますね…。まさか…、混血種?」



「蛭柄!?」



蛭柄と呼ばれた男は、無表情のまま立ち上がる。



「紅姫様! お下がりください!」



その動きに呼応するように影華、そしてタイガが月光と呼んだ男が紅姫を背に隠すように立つ。



「いやいや、残念。あと少しと言う所で失敗ですか。やはり欲張ったのがいけませんでしたね…」



残念そうに呟くが、その表情は無表情のままだ。

いや、そもそも口が動いていない…?



「蛭柄殿…、では無いな? どうにも様子がおかしいと思っていたが…」



「おや、月光殿にも気づかれていましたか? 記憶はそのままですし、演技には自信があったんですがねぇ?」



やはり口は動いていない。

代わりに、胸の辺りで魔力の揺らぎを感じる。



「ミカゲ、あれって」



「…恐らくは操血術。奴の正体は、吸血鬼です」



吸血鬼!? いるとは聞いていたが、アレが…?


吸血鬼、魔界では不死族に類する彼らは、俺の知識にある吸血鬼とはかなり異なる存在である。

彼らは陽を苦にしないし、十字架もニンニクも苦手では無く、杭を打ち込んでも死なないらしい。

水は少し苦手らしく、熱も嫌うらしいが、それは恐らく彼らが血に宿った精霊が変質したものだからとされていた。



「その通りです。しかし、まさか亜人領に混血種とはいえ、同族の者がいるとは思ってもいませんでした。餓鬼の事を知っていたのも、恐らく貴方が知識提供をしたからなのでしょう?」



ミカゲは答えない。別に隠そうとする意図があったわけではなく、単に何を言っても無駄と判断したのだろう。



「…まぁ、いいでしょう。今回は手を引きます。紅姫様も獣王も、是非欲しかったんですがねぇ…。まあ、収穫はあったので良しとしますか」



「逃げられると思っているのか?」



「逃げるも何もありませんよ。この体は分体で使役しているだけです。私自身は別の場所にいますから。別に、この体を壊して頂いても構いませんが、正真正銘、この体は蛭柄殿のものですよ。もちろんアチラの涅槃殿も。まあ残念ながら既にお二人とも息を引き取っていますがね」



操血術といったか? 死体を操れるのは厄介だな…

しかも、どうやら操られた者の記憶まで掌握できるらしく、仮に仲間に紛れられては気付けない可能性が高い。

現に、あの月光という男は違和感を持っていたらしいが、他の者からは全く気付いている素振りを感じなかった。



「貴様…、はぐれ不死族か? 我が同胞を殺した罪は重いぞ…。必ず、見つけ出して、殺してやる…」



「おお、月光殿は相変わらず怖いなぁ?」



蛭柄の表情が復活する。

それを見た月光が怒りを露わに歯ぎしりする。

蛭柄が生きていた頃の表情と口ぶりを再現しているのだとしたら、随分と悪趣味な事だ…



「さて、今度こそ私はお暇しましょう。何、そう焦らずとも、荒神の者達と行動を共にすれば、再び私とは会うことも叶うやもしれませんよ?」



「…? どういう事だ?」



「私の目的は紅姫様と、ついでにその予備である影華の血を頂く事でした。しかし、此度の件で、お二人よりも濃い血を持つ者と巡り合えました」



ゾクリ



蛭柄の視線は動いていない。

だというのに、全身を嘗め回すような視線が俺に向けられた気がした。



「クックック…、まさか、純血の人族が生き残っていようとは…。とんだ誤算です。トーヤ殿と言いましたか? またいずれ、必ず会いに行きますので、くれぐれも命はお大事に。その際は一緒に獣王の血も頂いて見せましょう。私の名はアルベール。どうかお見知りおき下さい」



そう言い残すと、蛭柄、そして蛭柄の体は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。


どうやら俺は、非常に厄介な相手に目を付けられてしまったらしい…





合間を見て、各話修正を進めていますが、お気づきの点がありましたら是非ともご報告下さい<(_ _)>

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