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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第3章 羅刹の鬼達
135/282

第123話 和睦へ

少し短めです。

帰宅後に少し修正するかもしれません。

→加筆修正しました。




「聞けぇ!! 羅刹の鬼達よ! 我々はこれ以上の戦闘は望んでいない! 故に、こちらから攻め入る事は無いと宣言する!!」





早朝、防衛の為に身構えていた羅刹の鬼達は、戦場に響く大音量の口上に対し、大いに狼狽えていた。


先日まで羅刹軍は、友軍と共に敵を挟み込む事で圧倒的優位に立っていたのだが、敵の援軍により後方の友軍が崩壊したことで、その優位は完全に失われていた。

それまで高かった士気も大幅に下がっており、兵士一人一人の表情には疲労が色濃く滲んでいる。


なんとか兵士を奮い立たせようと、各将達は必死に活を入れているが、効果は薄い。

友軍が抜かれたという事は、敵陣に新たな戦力が加わり、物資などが補給されたという事である。

皆、それを理解しているからこそ、士気を落としているのだ。


手に届きそうだった勝利が遠ざかるというのは、精神的には相当堪えるものである。

鼓舞して回る将達も、一般の兵士がこの状況で気力を保っていられるとは、正直思っていなかった。

むしろ、自分達に活を入れる意味合いの方が強かったかもしれない…


羅刹の鬼達が先日まで戦況を有利に進められたのは、単純な戦力の差よりも士気の高さによる影響が大きかったのだ。

それが失われたこの状況で戦闘を行えば、恐らく凄まじい被害を出す事になる。

そんな彼らにとって、戦場に響くその口上は、酷く甘い囁きに聞こえるのであった。









先頭にて、大声で口上を述べているトウジ将軍。

彼の声は良く通り、良く響く。

それを空術で補助し、大気との整合性を取り、指向性と与える事で、さらに強化しているのだ。

恐らくこの声は、敵陣の向こう、羅刹の城下町にすら届いているだろう。



「彼らは応じてくれるでしょうか?」



「なんの妨害も無ければ恐らく、ね」



俺を支えながら、不安そうに尋ねてくるスイセンに、俺は気楽に答えて返す。


これだけ大勢の者が聞いているのだ。

情報を操作する事は相当難しいだろうし、まず平気だろうと俺は考えている。

仮に相手がこちらの交渉に応じなかったとしても、敵陣の士気は著しく低下しているし、まともな戦闘にはならないだろう。

もう戦いたくないと思っている者達にとって、俺達の提案は魅力的に聞こえているだろうからな…

よく見ると、既に戦意を喪失している者もいるみたいだし。



「あ、トーヤ! 敵陣から一騎、こっちに向かって来るみたいだ」



「中々に反応が早いな。よし、こっちも準備を始めようか」









――――羅刹城・表御殿





「馬鹿な!? 罠に決まっている!!!」



家臣の一人が声を張り上げる。

荒神の要求は和睦を前提とした会談。その和議をこの城で行う事だ。

現在、表御殿に集まった家臣は、これに応じるか応じないかで二つの派閥に分かれていた。


応じるべきでないと主張するのは、先程声を上げた家臣のように罠を警戒する文官寄りの者達である。

逆に応じるべきだと主張するのは、軍事や物資を管理する者達だ。



「涅槃殿の言う通り、罠の可能性が無いわけでは無い。しかし、これだけ有利な状況にありながら、敢えて和睦を求める理由がわからない」



軍事関係を管理する家臣からすれば、この状況は文字通り詰みだと思っている。

こちらの軍勢は、多くが民兵である。それに対し、敵はそのほとんどが正規の軍人なのだ。

正直、ここまで有利に戦えていたこと自体が不思議なくらいで、むしろ今の状況の方がしっくりくると言えた。



「わからないからこそ! そこに罠が隠されている可能性があるのだろう!」



「いや、このまま戦いを続ければ、羅刹は奴らの支配下に入る事になる。そうなった方が奴らにとって都合が良いんだ。普通、和睦など求めるだろうか?」



戦争に負け、支配下におかれた地域の者に待っているのは、隷属への道だ。

法や定めの無い魔界において、敗者の扱いは勝者の匙加減次第になってしまう。

その為、勝利側からすれば、敗北側の地域や人民は実に都合の良い存在となるのだ。

今もあちこちで侵略が行われるのは、ほとんどが街や村を支配下に置くことを目的にしている為である。


だからこそ、今回の荒神の要求は不可解であり、多くの家臣達を混乱させた。



「…皆の者、問答をしている所申し訳ありませんが、実は既に要求を受け入れる旨を伝えに、使者を荒神側に送りました」



「「なっ!? 姫様っ!?」」



「黙っていた事に付いては、本当にすまないと思っています。ですが、私にも考えがあるのです」



「しかし! 我々を差し置いてそのような事を勝手になされるのは困りますぞ! これは我々の信用問題に関わって…」



バン!!!



騒ぐ家臣たちの声を遮るように、激しく床を打つ音が響き渡る。

床を打ったのは青い肌の鬼、月光である。



「落ち着け、皆の衆。それに、姫様を相手に怒鳴り散らすなど許されぬ行為だと思うが?」



「し、しかし、これでは姫様は我々の事を信用しておらぬとしか…」



「ああ、その通りだ」



「なっ!?」



「今回の件、実は私の方から姫様に進言したのだ」



ざわり、と家臣一同に動揺が走る。



「き、貴様…、それこそ出過ぎた行為ではないかっ!!!」



今にも飛び掛かりそうな程の形相となる蛭柄。

しかし月光は構えも取らず、取るに足らんとばかりに続ける。



「今回の件、どうも臭いと思わなかったか? 蛭柄よ」



「……? なにが言いたいのだ?」



「ふむ。臆病者のお主なら気づいているかとも思ったんだがな…。まあいい、すぐに答えは出るだろう。使者を送ったのは数刻前だからな。早ければ、もうそろそろこちらに到着する筈だ」



「!?」



今からでは取り繕う準備も出来まい。

だからこそ月光も紅姫も、わざわざこの場でそれを皆に知らせたのだった。




――それから一刻もしないうちに、荒神の者達が羅刹城に到着したと伝令が駆け込んできた。

さて、後ろで糸を引いている輩を炙り出してやろう。










本当は一気に書き上げたい所ですが、仕事も佳境で…

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