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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第3章 羅刹の鬼達
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第116話 油断




捕虜を解放した後、俺達はキバ様の元へ案内された。

キバ様は何かの獣の毛皮を布団代わりにして、寝かされていた。



「父様!」



「おお、リンカか! よく来てくれた!」



慌てたように駆け寄るリンカを、キバ様が寝たままの状態で抱きとめる。

体こそ起こせないようだが、返答自体はしっかりしており、元気そうなキバ様に少しだけホッとする。

まさか、9大魔王の1人である獣王グラントゥースの、こんな姿を拝む事になるとは思ってもみなかったのだ。

心のどこかで、なんだかんだでピンピンしていそう、などと思っていた為、結構ショッキングだったりする。

それはリンカも同じだったらしく、今まで見た事も無いキバ様の姿に大いに取り乱していた。



「トーヤも、済まなかったな。色々と忙しいだろうに呼びつけちまったみたいで…、ってそういやレイフの森の平定が終わったそうじゃねぇか! 流石俺が見込んだ男だぜ!」



腰をバシバシと叩かれる。

しかし、それにはいつもの破壊力は無い。



「…いえ、平定自体はまだ完全には。それよりも本当に大丈夫なのですか?」



「ん? あーエルフの里の事なら気にしなくていいぞ? あれはあれで防衛線として機能してるし、俺らにゃ害は無いしな。体については…、ホレ」



キバ様が指をさした先は下半身である。

そこにはコンモリと盛り上がったテントが出来ていた。



「んな!?」



思わず声を上げた俺に反応し、リンカも目をやってしまう。



「と、父様っ!?」



「いやぁ、すまねぇ…、我が娘ながら良いカラダしてんなぁとか思ったらこの通りよ…」



こ、この親父…、娘相手におっ勃てやがったのか…

ドン引きである。これには俺だけでなく、周りも引いているようだ。

当のリンカは目の焦点が定まっておらず、今にも倒れそうになっていた。



ガス!



「うぎゃっ!」



タイガ殿が見かねてキバ様の顔面に拳を振り下ろす。

普段のキバ様なら全く効きそうにない一撃だったが、今の弱体化した状態であればしっかりダメージは入るらしい。



「…この通り、中身は元気だし、命に別状も無い。どうやら結界の影響は、単純に魔力や力を減衰させるものらしい」



「ってぇぞぉ、タイガぁ…、後で覚えてろよ…」



「それはこっちのセリフだ親父殿…。結界の効果範囲だって、単純に忘れていただけだろうが…。それさえなきゃ、こんな事態には…。後でたっぷり反省して貰うからな…」



いつもの落ち着いたような雰囲気が崩れるタイガ殿。

こちらが素なのだろうが、それが表に出るほどにはご立腹らしい。



「ぐっ…、い、今のは勘弁してやるから、なるべくお手柔らかにだなぁ?」



「駄目だ」



クソーッ! と背を向けながら不貞寝を開始するキバ様。

子供かアンタ…



「さて、何はともあれ、駆け付けてくれた事には本当に感謝しているぞトーヤ殿。貴殿らが間に合わなければ、本当に危うかったかもしれん」



深く頭を下げるタイガ殿。

地位的には横並びとは言えど、タイガ殿の方が実力も実績も圧倒的に上回っており、このような態度を取られると恐縮してしまう。

しかし、タイガ殿達の表情を見る限り、本当に切羽詰まっていたのだろう。ここは素直に感謝を受け取っておくことにしようか…。



「長旅に加えての連戦で、さぞ疲れただろう。今夜はゆっくりと休んでくれ。あまり羽目を外し過ぎなければ、トウジ将軍辺りと騒いでくれても構わない」



「あ、それは大丈夫です! 休ませて貰いますんで! あ~っと、ただ、少し確認なんですが、この辺で人気のない静かな場所ってありますかね?」



冗談ではない。トウジ将軍と同じペースで騒ぐと間違いなく潰されるよ…

それに、少しやりたい事もあるからね。なるべく出くわさないように気を付けないとな。



「人気のない、か。在るには在るが、何をする気だ?」



「えっとですね…」









「ふぅ…、こんな所か…」



「お疲れ様です。ご主人様」



そう言って乾いた布を渡してくるヒナゲシ。

いつの間にこんな物用意したんだ? と思ったが、助かるので深く追及はしないでおく。

魔界で生活を始めてから、まともに風邪を引いた記憶が無いのだが、絶対に引かないとは言い切れない。

気温も低いのだし、流した汗は手早く拭いた方が良い。



「キュ」



「お、翡翠もありがとう」



子龍の翡翠も、気を使ってくれたのか、水の入った瓢箪を持ってきてくれる。

それを受け取って口を付けると、呷るようにして一気に飲み干してしまう。どうやら、思った以上に水分を欲していたらしい。


俺が何をしていたかというと、今回の戦で命を落とした仲間達を弔っていたのである。

皆、頑張って戦ってくれていたが、流石に犠牲を0にすることは出来なかった。

今日の相手は獣人族が中心であり、種族的に身体能力の劣るゴブリン、オークの中には何名か命を落とした者がいるのだ。

特に、最近部隊に加わった面子に関しては、練度が低かった事も少なからず関係しているだろう。

戦の性質上、犠牲についてはある程度仕方がない事だと、頭では理解しているのだが、無理をさせてしまった事に関しては、どうしても負い目を感じてしまう。


そんな後ろ暗い気持ちを感じながら、俺は両手を合わせる。

本当は遺体を持ち帰りたい所だが、残念ながらその余裕は無い。

不死者化する恐れもある以上、戦が終わるまで放置しておくことも出来ず、亡骸は全てこの地に埋葬する決まりとなっているのだ。

それらの作業は、タイガ殿の部下が全て引き受けてくれることになっていたのだが、無理を言って自分の部下だけ運び出す許可を貰っている。

せめて、自らの手で遺品を回収し、埋葬してやりたいと…


これはあくまで俺の我儘なので、部下達の手を借りるつもりは無く、一人こっそりと野営地の外れで作業していた。

しかし、どうやってかこの場所を嗅ぎつけたヒナゲシと翡翠に見つかり、結局手伝って貰う事になったのだ。

自分で言い出しておいてなんだが、正直かなり助かったのは間違いない。

俺の力ではオークの体を運ぶのは中々骨が折れるのだが、ヒナゲシであれば軽々と運ぶことが出来るからね。

俺だけであれば、この倍は時間がかかったろうな…



「ふぅ、助かったよ。えっと、この布はどうすればいい?」



「こちらで回収しますわ」



言われるがままに布を手渡す。



トス



(……ん? なんの、音…? あれ? なんだ、コレ…?)



何かが突き立つような音。

それは前方、そして、自分の腹部から聞こえてきた。

見れば、俺の腹には、月に照らされ赤く光る刃が突き立っていた。

それを目線で追うと、その刃はヒナゲシの胸元から生えていた。


刃が引き抜かれる。

ぐらりと倒れるヒナゲシの背後には、般若面を被った女の姿があった。






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