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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第3章 羅刹の鬼達
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第112話 治癒術士としての評判




「これで良し、と」



「ありがとうございます。トーヤ様」



気にしないで、と軽く答えて次のテントへ向かう。

はっきり言って今日の俺は指揮だけとって、ほとんど戦っていない。

術で牽制くらいはしたが、精々がその程度で、体力的には有り余っていると言っても良かった。

そんな事もあり、俺は余った体力を活用すべく怪我人の治療にあたっていた。

正直な所、治癒術に関しては初心者と言っても良いくらいなのだが、レイフの術者達から見ると上達は速い方らしいく、才能が有るとの事だった

確かに、治癒術に関しては自分でも妙にしっくりとくる気はしている。それは恐らく、他の精霊に干渉しやすい俺の特性による所が大きいのだと思う。


治癒術、と一口に言っても、ゲームや書籍に出てくるような『魔法』程万能なものとは言えない。

基本的には自己治癒能力の強化、促進といった効果しか無く、傷が一瞬で完全に消えるような奇跡の所業は治癒術では不可能である。

痛みの緩和や、止血などは可能だし、治癒を劇的に早める事も可能ではあるが、少なくとも、俺の知識にある現代医学以上の治療や再生は困難と言っても良かった。

無理、では無く困難と表現したのは、治癒の効果が術士や受け手によって著しく変化する為である。

例えば竜人族、一般的にリザードマンと呼ばれる者達は、種族としての特性で再生能力を持っている。

そんな彼らに治癒術を施す場合は、ゴブリン等では取り返しのつかない部位欠損の治癒が可能となるのだ。

これは受け手の治癒能力を促進させているが故の効果であり、種族的に再生が不可能な種族に関しては部位欠損の治癒は普通では出来ない。

では、普通でなければと言うと、それは術士の方の特性がそれを可能にするケースである。

俺の周りには、それを可能とする術者は存在しないが、話によると欠損を補える何か(・・)を扱える者には可能らしい。


という事で、俺が今している治療行為とは、治癒術による自然治癒能力の強化と、現代医学の真似事や薬草を併用した合わせ技である。

これが中々に評判が良く、その評判を聞きつけた者達がどんどんと噂を広める為、次々に声がかかるようになっていた。

中にはそれを学ぼうと、俺に付いて回る術士まで出てきている。って、いつの間にかボタンまで居るじゃないか…



「よう、探したぜ左大将! ウチのモンが世話になったらしいな! 感謝するぜ!」



そうしていくつかのテントを回っていると、トウジ将軍が現れる。

口コミで広がる話題を拾ったのか、どうやら俺を探して礼を言いに来たらしい。



「わざわざお探し頂いたようですみません、トウジ将軍。いえいえ、自分は今日は余り働いていないので、その分今働いているだけですよ。トウジ将軍こそ、今日はご苦労様でした。トウジ将軍が一番の難所を凌いでくれたからこそ、今日の作戦は上手くいきました」



「いやいや、左大将だって作戦立てたり、指揮取ったりと文官職までこなして大した働きだと思うぞ? しかも、怪我人の治療にまで参加してもらって…、って、そういえばアイツ等が言っていたが、治癒術まで使えるらしいじゃないか。本当に万能だな左大将は…」



「自分に使えるのは基礎的な治癒術くらいですよ。治りが良いのは、皆さんが鍛えられているからでしょう」



「謙遜すんなよ! 左大将の治療は本当に評判良かったぞ? そこのボタンなんかよりも余程優しいってな! ガッハッハッ!」



それを聞いてそっぽを向くボタン。

まあ、確かに彼女の治療は手荒い気もする。治療後にパンと叩くのが悪評の原因な気もするが…



「それに、今日敵の攻めを受けきれたのは、左大将の寄越してくれた部隊の助けが大きかった。ていうかあの部隊長、グラって言ったか? あれは相当なもんだぞ? 正直、間違いなく俺より強いだろ、あれ…」



そんな事を言われても、俺はトウジ将軍の実力を知らないので何とも答えられない。

大体に、グラの実力だってイオに聞くまで知らなかったくらいなのだ。

いや、そもそもイオに聞いた情報だけでは、ただ強いとだけしかわからない。正確な実力が測れない以上、まだまだグラの戦力は未知数と言って良いだろう。



「…いや、実はグラの実力って俺も正確には知らないんですよね…。そんなに強かったですか?」



「知らないって…、そうか、確か部下になって間もないんだったか…。いやいや、良い拾い物したと思うぞ? 荒神でも間違いなく将軍クラスの人材だぜありゃ」



ですよね。俺もだんだんそんな気がしてきたよ…

確かに、よくよく考えてみると、いくら条件が良かろうとも、あのルーベルトが明らかに格下の者と盟を結ぶとは思えない。

少なくとも、グラの事を一定以上に認めていたからこそ、同盟に参加したのであろう。

俺は実は、とんでもない拾い物をしてしまったのかもしれない。



「ちなみに、俺に譲ってくれたりは…」



「それは無理です(キッパリ)」



「だよなぁ…」



駄目駄目。いや、俺の手には余る人材かもしれないが、グラには俺の補佐官、参謀を任せるつもりなのだ。

簡単に手放せるような人材では無い。

…しかし、さっきの話を聞く限り、戦士としても最高クラスの人材らしいので、単純に参謀として扱うのもどうかと思い始めてきた。

悩ましいな。嬉しい悩みではあるんだけどさ。



「それにしても、本当にアレで退いて良かったんですかい?」



「ん、ああ、それなら大丈夫だと思いますよ。どの道、どんなに頑張っても今日中には抜けなかったでしょう? であれば、これが最善です」



「そうかぁ…。いや、サイカ将軍も納得していたし、平気なんだとは思っちゃいるんだが、まだ陽も出ているのに退くってのはどうもなぁ…」



まあ気持ちは分からないでもない。

まだまだお互いに余力のある状態で戦闘を続けないのは、手抜きしているようで妙にソワソワする感がある。

だがしかし、何事も急いては事を仕損じるというもの。手持無沙汰だからとあれもこれもと手を出すと、いつの間にか自分を追い詰めていたりするしね。



「まあ、焦らず、今日はゆっくりと休みましょう。結果は明日になればわかりますよ」



「…ま、それもそうか! よし、左大将! その治療が終わったら飲むぞ! 酒だ酒! ガッハッハ!」




バンバンと背中を叩くトウジ将軍。

そうそう。果報は寝て待てとも言うし、今日はもう気分を切り替えて……ん?


……ってコラおっさん! 戦場でも飲むんかい!!!




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