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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第3章 羅刹の鬼達
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第110話 作戦進行中




「付いてきませんでしたよ? トーヤ?」



相変わらず敵将の首をブラブラとさせながら戻ってくるイオ。

その状態では余りにも余りな扱いの為、ヒナゲシに首を丁重に保存するように命じる。



「いや、折角見事に暗殺成功しておいて、わざわざ見せに戻ってきたら普通警戒するだろう…」



「…それも、そうですね。すみません、久しぶりの戦場らしい戦場だったので少し昂っていたようです」



「…まあ、大丈夫だろう。少なくとも、この状況で敵を深追いしない程度の頭と警戒心はあるようだし、問題は無いさ」



まあ、さっきのイオの行為は、明らかに罠ですと言っているようなものだ。

それに釣られる程、相手も馬鹿では無いだろう。むしろ馬鹿でなくて助かったくらいだ。


作戦通り敵がイオを追ってきた場合、森で待ち構えているガラ隊が迎撃する予定だったのだが、その場合はこちらにもいくらか被害が出る可能性があった。

いくら有利な状況を作っているとはいえ、被害を0にする事は非常に困難だ。

増してや、相手が本当に退くことを知らない馬鹿であった場合、自分達の不利を理解せず、撤退すらしなかったかもしれない。

そうなれば被害は確実に増えていただろう。


視力を強化して敵陣を見る。

暫し騒然としていたようだが、現在は副官らしき男が場を引き継ぎ、指揮を取っているようであった。

攻めてくる気配は無い。いや、あれは、もう既に…



「でも、結局のところさっきの術ではほとんど被害を与えていないようですし、本当に宜しいのですか?」



「まあ、そうなんだけど、それも多分平気だよ」



「…? それは何故?」



理由がさっぱり解らないといった様子のスイセン。

まあ、俺も今彼らの表情を見てピンと来ただけで、具体的な確証があるわけじゃないが…



「スイセンはさっきサイカ将軍が言ってたことを覚えているか?」



「さっきと言うと、敵軍の構成についてですか?」



「そうだ。さっきイオが首を取ってきた敵将って、サイカ将軍の話じゃ結構有名な獣人なんだろ?」



「え、ええ、確かに西のギゼフと言えばそれなりに名を聞く男です」



「で、彼らはそのギゼフの直轄部隊らしい。ギゼフは強く、部下にも結構信頼されていたらしいんだが…、その割にはイオが首をぶら下げて現れた時、反応が薄かったと思わないか?」



「…確かに」



いくらあからさまな罠だとはいえ、自分達が信頼している将を殺したであろう者が目の前にいるのに、何も反応しないのはおかしい。

副官の男が抑えこんだワケじゃない。あの男もまた、イオを前にして何も出来なかったのだから。



「恐らくだけど、彼らは怒りの感情がこみ上げるよりも先に、恐怖を感じてしまったんだと思う」



もしもイオとギゼフが真っ向から激突し、その上でギゼフが死んだのであれば、彼らの感情は怒りに染まっていただろう。

しかし、ギゼフの死は余りに突然過ぎた。彼らが気づいた時には、既にギゼフの首から先は無くなっていたのだから、何が起きたのか理解すら出来なかっただろう。

彼らは混乱し、そして恐怖した。そこに、実行犯らしきイオが現れたのである。



「…怖いですね。同じ状況なら、私も動けないかもしれません」



「だろ? そして結局彼らはその恐怖から、今も攻めてこない。警戒心を植え付ける事が出来たんだよ。当初の目的通りに、ね」



今回罠を張った最終目的は、かかった敵を迎撃する事で、この森が攻め難しという印象を与える事だ。

警戒心が強まれば、迂闊に攻めてくるような事も無くなるだろうと。

その目的は、計らずとも達成されたという訳である。

本来の目的よりも敵陣に被害は与えてられていないが、こちらの被害も0であることから、結果的には最良と言っても良かった。



「…こっちはもう平気だろう。トウジ将軍たちの援護に向かおう。グラ達も心配だ…」



この作戦において、もっとも厳しい戦いとなるのが中央のトウジ将軍の部隊である。

最大戦力である彼らが陽動を務めているからこそ、手薄になる箇所ができているのだ。

その負担は相当なものと予想できた為、グラ隊にはトウジ将軍の援護に付いて貰っていた。


本当は、この援護の役目はガラ隊に頼む筈だった。

しかし、グラたっての願いでこのような配置になっていた。

グラ隊は少数部隊とはいえ、主戦力はトロールであり、確かに戦闘向けの部隊と言える。

目的はあくまで陽動である事から、無理をしない事を条件にその要望を呑んだのだが、正直失敗したと後悔している。

想像以上に敵陣の戦力が高かったのだ。


トウジ将軍の話では、敵陣中央は複数種族の混成部隊で固められているとの話だったが、左端にゴブリン達が集中していた事といい、どうも短期間の間に配置換えが行われていたらしい。

結果として、中央には他の種族、主に獣人が中心に配置されているようであった。


いくらトロールが無尽蔵の体力を誇るとはいえ、たかだか数人で、数千人の獣人を相手にする事など不可能だ。

もちろん全てをグラ達が相手にするワケでは無いが、トウジ将軍の部隊を加えても倍近い人数差がある為、一人一人の負担は計り知れない。

ここで俺達の被害が0に抑えられた以上、一刻も早く援軍に向かうべきだ。



「そう急がずとも、あの男がいれば大丈夫でしょう」



瓢箪のような物で水をグビグビと飲みながらイオが言う。



「そりゃ、グラの実力は戦ったイオが一番知っているんだろうけど、相手の人数が人数だしな…」



イオがあの速度を維持して戦うのであれば、あるいは状況を打開出来るかもしれないが、残念ながらそれは不可能である。

一度の魔力消費が多大な為、トロールといえど魔力の回復が追い付かないのだ。

しかも、グラはその時間制限のあるイオの猛攻に耐え切れなかったという。そのグラがあの状況を打開できるとは考えにくい。



「人数など問題ありません。あの男は私よりも強いのですから、当然でしょう?」




……………え?





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