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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第3章 羅刹の鬼達
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第109話 戦場の嵐と地盤沈下




「ウオォォォォラァァァァァッッ!!!!!」



先頭で嵐のように敵を蹴散らすリザード…、いや竜人族の男、臥毘(がび)

それに続くように一族の者達が、嵐を拡大するかのように戦線を切り開いていく。



(まさか、これ程とは…)



私はこの作戦を聞いた時、一つだけ不安要素があると思っていた。

それは作戦自体にではなく、部隊の配置についてであった。

この作戦において、敵陣へ切り込む先頭部隊は、非常に重要な役割を担う。

その重要な役割を、つい先日仲間に引き込んだばかりの部隊に任せる事に、少なからず抵抗を覚えたのだ。


さらに言えば、リザードマン…、竜人族は寒さに弱い。

今は後季真っ只中、気温は低く、彼らにとっては厳しい季節と言える。

身体能力を売りとする彼らだが、この季節は里に籠り、暖かくなるのを待つのが普通なのだ。


…いや、確かにそれらの不安はもちろんあるが、所詮は後付けの理由に過ぎない。

ただ、僅かながら不満を覚えたのだ。その理由は、実に単純だ。

重要な役割だからこそ、私の部隊に任せて欲しい。そう思っただけである。



「リンカ様!」



術士達が弾き損ねた矢が飛来する。

大丈夫だ。見えている。私はそれを無造作に掴み、地面に投げ捨てる。

普通であればこの程度の流れ矢が私に届くことは無く、部下もそれを理解しているから注意を促す声すら上がらないのだが…



(戦いに集中していない私を不安に思ったか…)



部下にそんな姿を晒した自分を情けなく思い、気合を入れなおす。

実際の所、不安も不満も、今この状況においては完全に無くなっていた。

ただ、ジグル一族の暴れぶりを見て、トーヤ殿が何故この配置にしたかを理解し、暫し呆然としてしまったのだ。


臥毘(がび)率いるジグル一族は、切り込み隊としては破格とも言える特性を持っていた

別に、自分達がジグル一族に劣るなどとは決して思わない。これは武力における性質の問題である。

彼らの攻撃方法は対多人数戦における効率が非常に良いのだ。


臥毘(がび)の竜牙刀と同様、彼らの持つ武器は、長く、重いものが多い。

その長重武器による一振りは、多くの敵を巻き込み、吹き飛ばす。

さらに、尻尾による薙ぎ払いも行われる為、ほぼ全周囲に渡って攻撃可能なのだ。

もちろん、それらを掻い潜る者も中にはいるようだが、そう言った者達は噛み付きの餌食となっていた。


系統により攻撃方法に偏りのある獣人族では、真似できない戦い方である。

一対一であれば自分達に分があるのだが、討伐数を競った場合は間違いなく彼らに分があるだろう。

しかも、今の彼らは寒さを苦にしているようには思えない。戦場を”荒らす”事にかけては、トロールをも超えている可能性があった。



「ん? おい! 女隊長さん! アレじゃねぇか!?」



臥毘(がび)の凄まじい振り下ろしで、一時的に敵軍に隙間ができる。

そこから、周りのゴブリン達よりも明らかに赤く、一回り以上大きいゴブリンが見えた。

ムウマ一味の首領、ムウマである。私のターゲットだ。



「間違いない! 臥毘(がび)殿はその隙間を維持してくれ!」



「ああ! 任せろ! オォラァァァッ!」









「お、あの合図は、どうやらリンカが敵将を討ち取ったみたいだな」



「僕達も負けていられないね」



「だな。スイセン、準備はいいか?」



「はい。問題ありません」



「じゃあ、行くぞライ!」



俺とライはそれぞれ、自らの武器を地面に突き立てる。

俺達の居る森から、敵の布陣までの距離は約200歩程。正直、この距離からの魔法はあまり効果的とは言えない。

しかし、今俺達の行っているのは普通の魔法ではなく、ある意味では合体魔法とも言えるものであった。



「うん…。成程、この線に沿って、魔力を流し込むのか。…行くよ!」



ライの魔力が、スイセンの敷いたルートに沿うように流れ込む。

俺はそれを媒介に、土の精霊達に意思を伝達する。

最早得意技と化してしまった地盤沈下。これはその拡大版である。


土術が得意なレイフのレッサーゴブリン達だが、実はこの地盤沈下が苦手であり、残念ながら俺以外に使い手が居なかったりする。

正直土術ではゲツにも劣る俺だが、これだけは専売特許的な術であり、お気に入りだったりする。

とはいえ、この術は座標の固定、イメージの伝達、魔力の浸透など、色々と条件があり、射程が短いという弱点がある。

この合体魔法は、それらを3人で役割分担する事で、距離や範囲を伸ばしているのだ。

これを応用すれば最強魔法軍団が出来る! と言いたい所だが、残念ながらこの術の成立には《繋がり》の力が大きく働いている為、普通では真似できない。


スイセンが感知した対象までのライン。その地下にある土の層を少しずつ削っていく。一定量削れた瞬間、地面が凹むように沈下した。

敵兵が数百人とのっている地盤だ。少しの歪みでも、そこから一気に崩れ出す。


敵兵に混乱が生じる。

僅か1メートル程だが、急に地面が沈んだのだ。無理も無い反応だ。



「今だ! イオ!」



「ええ、では行ってきます」



後ろで控えていたイオの姿が掻き消える。

ルーベルトも使っていた瞬速の移動法、のアレンジ版だ。

イオはこれを完全にモノにしたらしい。

しかし、この移動法…、オリジナルはどうか知らないが、非常に燃費が悪い。

はっきり言って、俺が使うと数秒でガス欠になるレベルなのだ。しかも制御が難しい…

イオのようなセンスと、無尽蔵の魔力が無ければ到底扱えない代物なのであった。



「戻りました」



そんな事を考えていると。イオが戻って来ていた。敵将の首を持って。う…、グロイ…

そして速い。速過ぎる。



「ってそんな高速で戻ってきたら駄目だろ!? ちゃんと敵を引きつけなきゃ!」



地盤沈下で混乱していた敵陣から叫び声が上がる。

隊長の首が! とか、一体いつの間に! とか。案の定イオの事が見えていない。

いや、暗殺なら満点なんだけどさ。今回の目的は残念ながらそうじゃない。



「ああ、そうでしたね。ではもう一度行ってきます」



そう言って再び掻き消えるように飛び出すイオ。



「…相変わらずだね、彼女」



「ああ…」



あの自由で奔放な彼女の性格は、少し羨ましい気もする。

ただ、敵将の首をぶら下げている今は、それが少し怖いが…




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