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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第3章 羅刹の鬼達
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第106話 迎撃




感覚を広げるようにして、周囲に魔力を漂わせる。

アンナ達姉妹の得意とする気流感知。俺は彼女達程、大気の精霊との親和性が高くない為、精度に若干難があるのだが、闘仙流の基礎を応用する事で少しだけ精度を増す事に成功していた。



(反応は6…、いや、1つは見張りか…?)



と、感知した直後に反応が1つ消える。

どうやら見張りがまた一人、殺されたらしい。

仲間の命が簡単に失われる。こんな状況に慣れていない俺は思わず歯噛みをする。



「トーヤ…?」



「…また一人やられた。もうすぐ相手もこちらに気付く。手筈通り前衛は頼んだよ、ライ、イオ」



「「了解」」



現在、俺達の部隊は山岳地帯を抜けている最中であり、夜営は山中にて行われていた。

目的地である亜人領北西部とはややズレたコースでの行軍ではあるが、もちろん理由は存在している。

1つは敵軍に見つかりにくくする為、もう1つは見つかった際に簡単に包囲されにくくする為である。

ここら一帯は荒神対し比較的友好的な地域が多く、敵も迂闊に軍を派遣する事が出来ない。

山岳地帯は木々に包まれ視界も悪く、遠方からの偵察が困難なのも大きい。というか、そうでもなきゃ山岳地帯を行軍などしないだろうが…


しかし、ソウガの報告では、一応敵軍を国境付近まで追い詰めていたはず。

その敵が、後方からの援軍に対して妨害なんて出来るのか? という疑問もあった。当然、それにも理由があった。


トウジ将軍は、元々キバ様の隊として今回の戦に参加していた。

しかし、キバ様の不調が国境の結界のせいだとわかった為、キバ様を守りながら撤退を開始したらしい。

戦況が押され気味とはいえ、形としては国境付近まで追い込んだ状態である為、撤退自体は難なく進むと思われた。

羅刹軍がいくら優勢とは言っても、屈強なタイガ殿の軍を突破してキバ様を追う事はほぼ不可能だろうと。


しかし、羅刹軍も必死である。

なにせ、魔王を討てるかもしれないまたとないチャンスなのだ。当然見逃す手は無い。

そこで羅刹軍の取った行動は、荒神と敵対関係にある領地への、魔王が弱っているという情報のリーク。

今が魔王を討つ潜在一隅のチャンスだと、情報を各地に散らしたのだ。

当然、この情報ですべての敵対者が動いたワケでは無いが、動いた者達の数は決して少なくない。

つまり、現在キバ様達が相手にしているのは羅刹軍と言うよりも、反荒神連合軍とも呼べるものになっているのだ。

結果として包囲網が形成される事になり、不調のキバ様を抱えての撤退は困難となってしまった。


その状況を打開するため、トウジ将軍らは少数精鋭でなんとか包囲網を突破し、俺達援軍を呼ぶことに成功。

しかし、抜かれてしまった連合軍側も、当然援軍については警戒している訳で、妨害があるのはむしろ必然なのである。



「おい! もう気づいているんだろ!? コソコソしていないで姿を現したらどうだ!」



沈黙。しかし、少しの間をおいて3名の黒装束が姿を現す。



「コソコソしているのは貴様らの方だろう? あの荒神の軍が情けない話だ」



真ん中の黒装束が挑発的に返してくる。

正直、少し安心した。会話の成立しない手合いで無かったのはありがたい。



「戦略だろ? 実際、お前達のような少数部隊しか寄越せていない時点で効果はあったと言える。それなりの手練れのようだけど、こうして見つかった時点でお前達に勝ち目は無い。負け惜しみにしか聞こえないぞ?」



「侮ってくれる…。たかが部隊長程度に我々が後れを取るものか」



ふむ。やはり俺達の情報は無いようだな。予想通り、狙いはトウジ将軍というワケだ。



「それはやってみれば分かる。ライ! イオ!」



同時に、脇に隠れていたライとイオが先制攻撃をしかける。



「ハッ! 気づいていないとでも思ったか!」



それを両脇の黒装束が迎え撃つ。

別に気づかれていないなんて思ってはいない。でなければ、わざわざ声を出して相手に知らせるような真似はしないのだから。



「シッ!」



俺も同時にレンリで突きを繰り出すが、あっさりそれは躱される。

が、並行して使用した土術により足を捕える事に成功し…!?



「あぶな!」



正中線の僅か左寄り。心臓目がけて放たれた突きは布石であり、躱すために重心のかかった足を捕える土術こそが本命。

単純とはいえ、この視界の悪い闇の中では回避困難な連携であり、実際俺の感覚では捕らえたと思ったのだが…



「チッ…」



「器用な真似をするな…。正直危なかったぞ」



土術が捕らえたと思った瞬間、爆発的な魔力が足に集中するのを感知。

直後に、捕えかけていた土術をものともせぬ鋭い蹴りが、俺の顔面目がけて放たれていた。

なんとか躱す事が出来たが、それは偶然この魔力の動きを知っていたからに過ぎない。でなければ今頃俺の顔面はグシャグシャになっていただろう。


今度は俺が防戦に回る事になる。

先程の魔力の爆発的な動きは、恐らくルーベルトの使っていた移動術の類だろう。

俺はあの技を見た時、同時に攻撃へ使用される事も警戒していた。それが頭の片隅に残っていなければ回避など到底出来なかったに違いない。



「貴様こそ、大して速くも無いくせに器用に躱す。勘がいいのか? だが!」



来た。先程の蹴りだ。しかし今度は油断は無い。俺は剛体でしっかりとそれを受ける。



「剛体か…。ハーフエルフか何かと思ったが、獣人だったか」



剛体の魔力消費は大きい。特に今のように体を狙った攻撃は受け流す事も出来ない為、非常に燃費が悪い。

発動個所を限定し、なるべく省エネしているとはいえ、魔力量に余裕があるワケではないので手痛い出費なのは間違いない。

しかし、相手は白兵戦において間違いなく格上。出し惜しみしていては先程のように命を危険に晒す事になる。


距離を取り、俺は土術を行使する。

今度は土を槍のように、黒装束の周囲から放つ。

当たれば串刺し…という事にはならない。

所詮は土であり、それを槍のように鋭く扱うには色々と工夫が必要となる。準備無しでは今のような速度で行使する事は不可能なのだ。

槍に例えたが、実質は質量による打突に近い攻撃だ。致命傷には至らないが、十分な威力を持っている為、受けるのは得策では無い。

周囲に展開されたそれを回避するには跳ぶしか無く、それこそが俺の狙い、だったのだが…



「小賢しい!」



なんと黒装束は正面の土槍を蹴散らし、小太刀のような刀を構えて正面から突っ込んでくる。

見てくれから隠密行動を主体とする者だとは思うが、先程から攻め方がやけに派手である。

しかし、よくよく考えてみれば隠形についても大した事は無かった為、専門の部隊では無いのかもしれない。


俺はその突撃に対し、レンリを振り下ろす。

次の瞬間、レンリが宙を舞っていた。



(巻き上げ!? 嘘だろ!?)



今俺が喰らった技は、間違いなく剣道における巻き上げの流れを汲む技だ。

巻き上げは文字通り、相手の武器を巻き上げる技である。本来は同じ長物同士で、鍔迫り合い等の引き際に決まりやすい技だが、今のは俺が握りに力を入れる手前で、刃を引っかけるようにして巻き取られたらしい。恐ろしい程の技量だ。

まさか魔界でこんな技を見る事になるとは、思いもしなかったが…



「死ね」



巻き上げからの流れで突き出される刺突。

剛体を無効化する零距離から、俺の喉に突き入れるつもりであろうその突きは、刃が届く寸前で停止していた。



「っ!? っく、馬鹿、な…」



そのまま崩れ落ちる黒装束。

闘仙流、破震。相手の魔力と波長を合わせ、魔力を流し込んで揺さぶる内部破壊の技だ。

少し焦った事で通りが悪かったが、なんとか決まったらしい。



「あー、焦った…。防がれるのは想定していたけど、まさか巻き上げられるとは思わなかったよ…」



そう、防がれるのは想定済み、というか誘いであった。

技量、速さ共に格上の相手に、俺の攻撃が容易に当たるとは思えない。

それ故に、相手の方から触れにきて貰うというのが俺の狙いであった。



「ぐっ…、まさか、あの距離で、この様な攻撃があるとは…」



油断、と言ってしまえばそれまでだが、刃物を持たない相手が、零距離から致命打を放ってくるとは思いもよらなかったのだろう。

だからこその零距離であり、俺の反撃を覚悟しつつも剛体を抜き、命を取る事を優先した。



「俺も意外だったよ。まさか女だったとはね。胸を触ってしまったことは、まあ事故だと思ってくれ」



黒装束は般若面のような物で顔を隠していたが、確かに先程感じた柔らかな感触は女性の胸に違いなかった。

いや、正直手で触ったのは初めてだ。仮に偽物だったとしても俺には判断できないんだけどね…



「っく、下らん、事を…。だが、目的は、達した。今頃、我々の仲間が…」



「ああ、他の二人なら…」



「狩りとってきましたわ。ご主人様」



既に対処済み、と言おうとした直前で、黒装束2名の頭を掴んで引きずるヒナゲシが現れる。



「…殺していないだろうな?」



「もちろんです。ただ、存外我慢強い方々でしたので、少し力を入れ過ぎましたが…」



確かに、微弱だが魔力を感じる。それにしてもやり過ぎな感は否めないが…



「死なないように治療を施してくれ」



「畏まりました」



この殺伐とした状況にそぐわない程優雅な礼をし、ヒナゲシが治療にかかる。

そしてライ、イオの方もどうやら片付いたようだ。



「結構な使い手だったよ…。トーヤの方は平気?」



「ああ、ちょっと危なかったけど、生き残る事だけしか考えて無かったしな。倒せたのは偶然だ」



あわよくば、という気持ちが無かったかと言うと嘘になるが、偶然という言葉に嘘偽りは無い。

何故ならば土術を無理やり突破された事も想定外であり、相手が正面から突っ込んできたのも相手の気質に寄る所が大きいからだ。

元々の予定では、俺が凌いでいる間にライ、イオ、ヒナゲシのうち、早く敵を倒した誰かと挟撃するつもりであった。まあ、結果オーライだろう。



「私は少し物足りなかったですが…」



「まあそう言うなイオ。その鬱憤は本番で晴らしてくれ…」



本番、というのはもちろん戦の事だ。

トロールと獣人のハーフである彼女は、戦場で獅子奮迅の働きを見せてくれるだろうしな。



「さて、あんたには色々と聞きたいことがあるし、ご同行願おうか。抵抗はお勧めしないよ? なにせこの3人は俺よりも遥かに強いからね」



押し黙る黒装束。魔力に変化は無い、もう少し抵抗があると思ったが…



「…ふん、どうやら、魔力が通わぬ物には疎い、ようだな…」



ん? なんだ? いつの間にか黒装束の手に何か握られて……、っ!?



「ヤバい! みんな伏せろ!」





――――俺が反応したその瞬間、黒装束の握った何かが、凄まじい音と共に破裂した。





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