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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第3章 羅刹の鬼達
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第105話 夜襲




「お、アレかな?」



城壁都市『荒神』の西に広がる平原地帯、そこに多くの獣人が集まっているのが確認できる。



先日、俺達は月の5刻(24時間制で22時)くらいに荒神に到着した。

受け入れ態勢が整っていた為、食事や寝床の準備に手間取る事は無く、見張りを用意する必要も無かったので非常に助かった。

そのままストレス無く朝を迎え、現在は他の部隊との合流を目指して行軍中である。



「千…、いえ、2千くらいの部隊ですね。率いているのは誰でしょうか?」



千を超す部隊となると、荒神では将軍クラスの率いる部隊だろう。

荒神の各将軍は、各地の平定に出ている事が多く、新参者の俺とは面識の無い者も多い為、少し不安だ。

いくら俺が、地位的には荒神のナンバー2である左大将とはいえ、納得していない者も多いだろうしなぁ…


俺がそんな不安に苛まれていると、一騎の騎兵がこちらに向かって来るのが見えた。



「左大将ーーっ!」



ん、あの人は見覚えがあるな。

確か、トウジ将軍だったか。



「父さん!?」



スイセンが驚きの声を上げる。


…父さん?



「って、スイセンのお父さんって、トウジ将軍だったの!?」









「いやぁー、何でもウチの娘が世話になってるようで。ご迷惑おかけしてやいませんかね?」



「そんな事ありませんよ。むしろ自分が世話になりっぱなしです。何せ自分は軍関係の事情に疎いですからね。非常に助かってますよ」



「そいつぁ良かった! いや、結構心配してたんですよ! ウチの娘は昔っから不器用でして、リンカ様に拾って貰われるまでは最下級の戦士でしたからね? それがいつの間にか左大将の近衛兵ってんだから、世の中何が起きるかわかりゃしませんねぇ!」



そう言いながら背中をバンバンと叩いてくるトウジ将軍。

見てくれは完全に酔っぱらいのおっさんである。

あ、そういえばキバ様もトウジ将軍の事をおっさんとか言ってたなぁ…



「もう、父さん! 恥ずかしいからやめてください!」



そしてそんなトウジ将軍を、顔を赤らめながら窘めるスイセン。

これもまた新鮮である。



俺達は現在、トウジ将軍率いる2千人隊と亜人領西部へ向けて進軍中である。

本来はあと3部隊程援軍が来る予定らしいのだが、到着が遅れるらしく、俺達だけで先行する事になったのだ。

今日一日で、行程的には約1/5程の距離まで来ているらしい。

日が沈みきった辺りで本日の行軍は断念し、今は夜営中というわけだ。


俺にとっては初の夜営となる為、色々と勝手が分からずにそれなりに手間取った。

自分達だけなら兎も角、他の部隊と一緒となると猶更である。トウジ将軍やリンカ、スイセンのフォローが無ければどうなっていた事やら…

ちなみに、見張りなどについてはトウジ将軍の部隊で行うらしく、有難くお言葉に甘えさせてもらった。

ただ、個人的に心配事もあった為、見張りについては全部を任せきっているわけではない。

こっちはこっちで別の警戒網を張らせてもらっていた。


で、その夜営準備が終わった辺りで、トウジ将軍の襲撃に遭い、今に至るのだが…



「いやいや、俺は本っ…当に心配してたんだぞ? 日に日に暗くなっていくお前を見て、母さんも心配しててなぁ…。俺も何とかしたかったが、下手に手を出すと贔屓だのなんだの煩くてな。娘を贔屓して何が悪ぃんだって思ったんだがよ、母さんがやめとけって言うし、俺ぁもう、どうしたらいいかと…」



散々騒いだ挙句、急に静かになるトウジ将軍。

め、めんどくさ! このおっさん、一人で盛り上がって、一人で沈み始めたぞ…

いや、凄い良い人なんだろうけどね? でもこの酔っぱらい方は、完全に普通のおっさんだぞ?

いいのか? 荒神の将軍ってこれでいいのか…?



「もう! 父さん! 本当に恥ずかしいからやめて! ごめんなさい、トーヤ様、本当この人は酔っぱらうとダメダメで…」



「いやいや、良いお父さんじゃないですか。それに聞いている限りお母さんも出来た人のようで」



「…はい。先程の話は私も初耳でしたが、止めてくれて本当に助かりました。そうでなければ私はここに居なかったかもしれません…」



「それはそれは…。今度菓子折り持ってあいさつに行くレベルだな…」



「おお!? トーヤ様! まさか、娘を貰ってくれるんですかい!? ありがてぇ話だ! あ、でも娘を渡すからには俺を倒せる奴って決めてたからな…。おい娘よ、その辺、トーヤ様は大丈夫なのかんげ!?」



沈んでいたと思っていたら、再びテンションが上げて反応してくるトウジ将軍。

その台詞を全て言い終わる前に、スイセンが頭をはたいていた。

舌を噛んだようで大変痛そうである。



「父さん…、本当にいい加減にして下さい…。お、怒りますよ…?」



ス、スイセンさん、既にもう怒ってますよね?

とゆうか、地竜を倒した時よりも迫力があるような気がするんですが、気のせいですよね…?


それを見ながら苦笑いを浮かべるライ。マイペースに食事をするイオ。

なんて言うか、強制参加の飲み会のような光景だなと思った。

記憶は相変わらず無いので、あくまで客観的な感想ではあるのだが、妙にしっくりくる表現だと思う。



「ト、トーヤ様も、ウチの馬鹿父が変な事を言って本当に申し訳ありません! き、気にしないで頂けると助かります…」



「は、ははは…、まあ結構酔っているみたいだしね…」



気にするなと言われても、それは中々に難しく、とりあえずズレた回答を返す。

スイセンの事は間違いなく意識しているが、恋愛感情なのかどうかは正直自分でもわかっていない。

人生経験が丸ごと消失している為か、自分の感情については正直自信が無いのだ。

同じような感情はイオやアンナにも抱いており、それが尚更自信の無さに繋がっている。



(特にアンナはなぁ…。妹とか娘みたいなもんとしか…。そこから考えると、スイセンは姉なのかな…?)



「トーヤ殿」



「ん? ミカゲか、どうし……!?」



いつの間にか背後に現れたミカゲ。

それに続くように、俺の張った網から反応が来る。

慌ててレンリを掴み、立ち上がる。



「トーヤ……? まさか…、夜襲!?」



「ああ、俺の張った『陣』に反応があった。ミカゲも気づいたんだろ?」



「はい。正確には、少し離れた場所で生命が絶たれたのを感知しました。恐らくは見張りがやられたのかと…」



ミカゲは俺の『陣』とは別の方法で襲撃者を感知したらしい。

その言葉が本当であれば、既に見張りは殺されてりるという事になる。俺の『陣』の伝達速度から考えてもかなり速い…。間違いなく手練れの仕業だ。

しかも位置的に俺達の方向に向かっているようだ。狙いは恐らくトウジ将軍か? あ、俺も地位的には高いか…

なんにしても、このまま待つよりは迎え撃った方が良いのは間違いない。



「スイセンはトウジ将軍に付いていて下さい。ライとイオ、それからヒナゲシは俺と共にきてくれ。ミカゲはフォローを頼む」



ミカゲは頷き。再び闇に紛れるように姿を消す。



「了解。でも、ヒナゲシもなの?」



「ああ。ヒナゲシ、いけるな?」



「ええ。必ずお役に立って見せますわ。ご主人様」



リンカ達に声をかけている余裕は無い。

俺達4人(+ミカゲ)で対処するしかないだろう。


それにしても、まだ戦場に到着してもいないうちから襲撃か…

今回の戦とは無関係の襲撃かもしれないが、それにしては狙いがはっきりしている上に、襲撃者の練度が高い。


全く、前途多難だな…




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