表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第3章 羅刹の鬼達
113/282

第101話 遠征前準備 引き継ぎや調整①





「さて、まずはガウの所から回ろうか」



先程の会議にて、遠征組と居残り組についてはある程度決定した。

ある程度とは、会議内では通達を行ったのみであり、納得いくかたちで結論付いたワケでは無いからである。

基本的に自分からの通達はほぼ強制と言っても良いのだが、根回しや調整などはやるに越した事はない。


今回、遠征に連れて行く事にしたのは以下4部隊。


臥毘(がび)隊 30名

グラ隊 9名

リンカ隊 26名

ガラ隊 27名


この4部隊に加え、俺と近衛兵3名を合わせた96名が今回の遠征組となる。

選定基準としては、比較的新しい部隊を手許に置いておきたいという面が強い。

俺が留守の間に残していく不安ももちろんあるのだが、それ以上に今回の遠征で各自との連携面や信頼関係を強めたいと考えているからである。

特に臥毘(がび)隊、ジグル一族に関してはここ数日の訓練を通して色々と目をかけている事もあり、行軍中にも手を加えていくつもりだったりする。


残していく隊についてもいくつか選定理由は存在している。

その事も含めて、今は各隊への引き継ぎや調整事項を伝えに巡回に向かう所なのだ。



「それはいいのだが、何故私まで?」



グラが尋ねてくる。



「それはだね…、さっきの会議で俺は思ったんだよ。宰相というか、参謀というか、文官的な事をこなせる人材の重要さをね…」



先程の会議の後、グラには巡回に同行するようにお願いしていた。

グラにとっては命令に等しいだろうが、俺に命令したつもりは無いので、お願いであると強調しておく。



「それは…、私にソウガ殿のようになれと?」



「いや、そうじゃないけど、俺の意図をくみ取れる存在はやっぱり欲しいしね。落ち着いてさえいれば、グラはそういうの得意そうだからな」



「そう言って貰えるのは光栄だが、私に務まるだろうか…?」



先日の戦の事を引きずって、自信無さげな様子のグラ。

あの時は随分頭に血が上っていたようなので、まあ無理も無いかもしれない。

しかし、先程の反省会もそうだが、しっかりと振り返れることもまた重要な資質だと俺は思っている。

そんなグラだからこそ、俺は少なからず期待をしているのである。



「大丈夫、大丈夫。俺だって大した事してるわけでも、出来るわけでも無いし、そんな気負わなくても平気だよ」



「そうだといいが…」



…ちょっとネガティブ過ぎる気がしないでも無いが、まあその辺は追々矯正されていくだろう。









「ガウ、少しいいか?」



「トーヤ殿か。…先程の件か?」



「ああ、俺が留守にしている間の事について、少し話したい」



「ふむ…。まあ座ってくれ」



無骨な岩の椅子に着席を促される。長時間座るわけでも無いし、まあ平気かな。

俺が尻の心配をしている他所に、グラは早々に座り込んでいる。



「荒いが、良い椅子だ」



そうなのか。ああ、そういえばグラは鉱族とトロールの混血種(ハーフ)だっけか。

まあ、どっちにしろ頑丈さが取り柄の種族だし、むしろ硬い方がしっくりくるのかもしれない?



「そうか? 武器作りの余り物だし、座り心地はあまり良くない筈だが…。むしろそんな所にトーヤ殿を座らせるのは少し心苦しいが、こんな場所なので勘弁して欲しい」



「いや、問題ないよ」



そうだよな。やっぱりグラの感覚が変なんだよな。

しかし、そうなるとやっぱり鉱族は鉱物と、なんらかの親和性があるのかもしれないな。



「さて、早速だが遠征の件についてだが」



「その事だが…、やはり俺達を連れてく事は出来ないか? 確かに、俺達トロールは夜戦では真価が発揮されないが、それでも屈強さには自信を持っているし、最近は魔力の使い方も学び、以前よりも遥かに戦える状態になっている筈だ。この地の防衛が重要な事も理解しているが、俺達はやはり戦士なのだ。戦場でこそ本当の力が発揮できると思っている。だからトーヤ殿、俺達の力を信じ、戦場に連れて行って欲しい。必ず、力になって見せる」



強い意志を感じさせる瞳。ガウのこういった真っ直ぐな所は嫌いではない。だが…



「…ガウ。勘違いしているようだが、俺はガウ達の力を疑っているワケじゃないよ。正直、このレイフで最も信頼している戦力だとも思っている。今回の遠征にだって連れて行きたいとは思っていたんだ」



「では、何故?」



「ジュラの事があるからだ」



ジュラは所属的にはガウの配下となっているが、今は子供を身ごもっている為、戦士としては休業中だ。



「ジュラか…。しかし、ジュラは今まで同様この地に留まってもらう、それでは駄目なのか?」



「駄目だ。今回の遠征は、今までとは話がまるで違う。ここに戻ってこれるのが、どのくらい先になるかは正直分からない。下手をすれば1年以上、いや、そもそも帰れるかどうかすらわからない。そうなれば、ジュラの出産に誰も立ち会えず、彼女の事を支える事もできないだろう?」



「…。いや、ジュラも戦士だ。俺達の支えなど無くとも…」



「ガウ!」



思わず声を荒げてしまった。

しかし、この感情の高ぶりは抑えられない。



「自分の都合の良いように考えるのはよせ。支えが必要無い? そんなわけがあるか! 生まれてくるのはゴウの子だぞ!? ジュラが不安を抱えていないとでも思ってるのか!?」



「っ!?」



かつてこの地にて、災いの種となった2つ頭のトロール、ゴウ。

ジュラに宿るの生命は、その忘れ形見である。

多頭のトロールは突然変異とされ、決して遺伝されないと言われているが、可能性は0ではない。

ゴウという存在を知っているからこそ、もし同じような存在が生まれたらという不安を、ジュラは確実に抱えているだろう。

そうで無くとも、望まぬ形で宿った子供。それを産むと決心したジュラには、並々ならぬ覚悟があったに違いない。


しかしそれは、一人で抱えるには重すぎるものだ。いずれそれが破綻するのは目に見えている。

もし、生まれてくる子供に何か問題があった場合、きっと彼女は耐えられない。



「ここに住むオークもレッサーゴブリンも、彼女の出産の支えにはなってくれるだろう。しかし、彼女の心を支える事が出来るのは、長年同じ時を過ごしてきたお前達だけだ。…本当はイオだってここに残したいと思っているくらいなんだ」



イオは先日、俺の直属の近衛兵になっている。

ソウガのように執務、債務を兼業するような特殊な場合でない限り、近衛兵は君主の警護を主とし、同時に手足ともなる存在である。

その為、基本的に君主の傍を離れるのは禁じられている。事情があって離れる場合でも、1日以上離れる事はまずあり得ないのだ。

こんな事になるとわかっていたら、イオが近衛兵になる事をに許可など出さなかったのだが…



「それに生まれてくる子は、お前の甥でもある。親類でもあり、長でもあるお前には、それを守る義務があるはずだ」



「……そう、だな。すまん。俺の考えが足りなかった。はっは! いやしかし、俺はやはり長の器ではないな! 長とはやはり、トーヤ殿のような思慮深い者がやるべきなのだと、今ので改めて痛感したぞ!」



「そんな事ないさ。俺は立場上、こんな偉そうな事言ってるだけで、中身はガウの方がよっぽど立派だよ。一族の長として、ジュラ達を精神的に支えられるのは、やはりガウだけだ。だからガウ、俺がいない間、お前とその一族の力で、ジュラ、そしてこの地に残る他の仲間達を、どうか守ってやって欲しい」



「…そこまで言われて断れるものか! 任せてくれ。その命、しかと承った!」









続いて、ザルアに引き継ぎに向かったのだが、偶々ソクとゾノも一緒に居た為、一緒に話をつける事になった。



「ふむ、成程。謹んで、承りました」



俺の要望に、ザルアは特に迷う事なく頷いてくれる。

俺がいない以上、レイフの森の奥の手、『霧樹海の陣』の要はザルアの力にかかっている。

そのコントロールと、いざという時の脱出経路の確保をザルアに頼んだのだが、即応してくれるとは頼もしい限りである。



「ゾノもそのフォローと警備について任せるよ。地理的に一番詳しいのはゾノだと思っているし、臨機応変な対応については群を抜いているしな。よろしく頼む」



「そこまで言われるとむず痒いな…。まあ、その信頼に叶うよう、務めさせてもらうさ」



ゾノは謙遜しているが、俺はゾノの事をかなり信頼している。付き合いが長いのもあるが、頭の回転も悪くないし、努力家なのも好感が持てるポイントだ。

魔法についても、武術についても努力を欠かさず、仕事も勤勉で人望も厚いと、欠点が無い。唯一あげるとしたら顔が怖い事かな?



「私も特に異論はありませんが、良いのですか? 以前、遠征の時は私の力が役立つだろうと仰ってくれていましたが…」



「ああ、確かにそうなんだけど、ソク達には防衛面だけでなく、生活面での補佐や、指導面の方もお願いしたいからね…」



正直、ソクの設営能力は遠征においてはかなり有用であり、是非とも連れて行きたい人材なのである。

しかし、彼の能力は防衛面でも大いに役立つし、所帯の増えたレイフ城郭内の集落の設営や、それ以外のの集落の改善にと引っ張りだこ状態なのである。

さらに、彼自身だけの事だけでなく、同じ集落で出産を控えていた最後の1人の出産や、新しく加わったオーク達へ、帝王切開の技術を伝授する件もある為、オーク種族は全体としてとても慌ただしいのだ。ガラ隊、リンカ隊に加わったオーク達の家族には該当する者がいなかったが、出産を控えている者もそれなりに居る為、フォローについてもしっかりせねばならない。



「まあ確かに。こちらの集落に移動を希望する者も増えていますし、北の集落にも改善が必要ですからな…。では、私はそちら方面で力を振るわせて頂きましょう」



「ああ、よろしくな。ただ、ソクが本気で取り組むと、俺が帰って来る頃にはあちこち凄まじく発展してそうで怖いけど…」



「ははは! それは面白い。大変やる気が出ますな!」



…いや、本気なんだけどね?




冗談じゃなく怖いんですが……




1話で終わらせるつもりが分割に…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ