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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第3章 羅刹の鬼達
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第106話 反省会と特別訓練




 ――――レイフ城・地下倉庫




 広げられたレイフの森全域の図面。

 その上に木で作られた人形が並べられている。



「フム……。上から見ると、この様な状況だったか。これは……、勝てぬな……」



 その図面を挟むようにして、俺とグラは向かい合って座っている。

 何故こんなことをしているかというと、グラが先日の戦について色々と教えて欲しいと乞うてきたからだ。


 図面には先日の戦の状況を、人形を使って再現している。

 それを見て、グラは先程から云々と唸るようにして、しきりに頷いている。



「なあ、トーヤ殿、この作戦はお主が考えたのか?」



「まあ、一応な」



 この陣の発想は、かの諸葛孔明による架空の陣、石兵八陣をベースにしている。

 オリジナルである石兵八陣とは違い、巨石の代わりに木を利用したり、自然現象を任意で発生させたりと、俺なりに改良というか、マイナーチェンジを施している。

 まあ、効果としては似たようなものだと言っていいだろう。『霧樹海の陣』とでも名付けようか。

 レイフの森以外ではできない陣だけどな……



「実際にどう分断したかを説明するよ」



 あの日の状況を順を追って説明する。

 まず、グラ達は攻撃に特化した部隊であるドーラ、アギの部隊を先行させている。

 これはある程度予想できていたことなので、準備は事前に済ませてあった。


 前日の内に形成した沼は複数の部隊を丸々飲み込むほど広いが、実際はそこまで深く作られていない(といっても地竜が丸々沈むくらいの深さはあるが)。

 しかし、そのさらに地下には、迂回するように移動用の経路が作られていたのだ。

 この経路は、先行しているアギ、ドーラ部隊を越えてこちらの部隊を送り込むためのものであり、実際にグラの部隊への奇襲に利用している。


 さらに、ほとんど見分けが付かないが、沼には数人程度なら通れる足場も用意していた。

 術士はその足場を利用し、移動を繰り返しながら各所で霧を発生させたり、地形を変えたりしていたのである。



「だが、もし沼を強行して進んできたらどうするつもりだったのだ? オーク達の中には土術を使う者もいる。沼に道を作るくらいのことはできるハズだぞ?」



「ああ。でも、沼の規模が分からない以上、心理的には難しいだろ? それに、一応保険もかけてあった」



「保険?」



「オーク達、特にハイオークの奴らは雌の匂いに敏感だろ? 女性陣を使って、奴らの気を引いたんだよ」



 無論、その役を任せたとき、リンカはかなり嫌そうな顔をしていた。

 その分の怒りは、ハイオーク達にしっかりぶつけてきたようだが。



「……成程。そしてアギの部隊には術を使う者もいない上、真っ先に迂回を選んだドーラ達に後れを取らぬよう、別の方向を選んだというわけか」



「概ねはそうだ。ドーラ達の後を追う可能性も一応あったんで、その時のことも一応考えてはいたけどな」



 次に、臥毘(がび)達の部隊についてだが、彼らの動きについてもある程度は予想していた。

 臥毘の性格から考えて、ドーラ達のことを侮っているだろう節が見て取れたため、迂回するならハイオークの後ろからだろう、と。

 仮に予測が外れ、アギ達の後ろを追ったとしても、それはそれで別の罠が用意されていたため問題はなかった。



「何故、私が臥毘達を追わぬと思ったのだ?」



「それは、グラの部隊の構成というか、グラ自身の性格から想像した。一応シオウから情報はもらっていたからね」



「シオウ……、奴か……」



「グラの部隊も性格も、バランスを重視するところがあるだろ? だから戦力的な偏りは好まないと思っていた。まあ、あくまで勘の領域だけど。でも、仮に臥毘がび達の後を追ったとしても余り問題にはならなかったぞ」



「問題にならなかった? しかし、それでは分断に失敗したということになるのでは……」



「実はならないんだ。何故ならば、どんな状況でも臥毘達の部隊は仕切りの役目を担ってくれるからな」



「???」



「結論から言うと、今回の戦の最大の敗因は、北部の連中のまとまりのなさだよ。幹部連中の我が強すぎるのが大きな原因だけど、せめて各部隊の特徴ぐらい頭に入れておくべきだったな」



「それは、耳が痛い話だが、承知している……。しかし、何故臥毘達が仕切りに?」



「こういうことだよ。ボタンさんそろそろ次のステップへ」



「はい。トーヤ様。では、リザ……じゃなかった、竜人族の皆様、お覚悟を」



 この倉庫には現在、俺とグラ以外にも何人かが集まっている。

 俺の傍らにはスイセンさんとリンカが真剣に図面を見ながら勉強をしているし、ボタンさん達数名の術士も控えていた。

 その理由は……



「あ、ああ、やってくれボタン殿! 今度こそ耐えきってみせるぞ」



 臥毘達ジグル一族の、トレーニングのためであった。



「では……、水よ、霧へと……」



 ボタンの呼びかけに応え、水の精霊が水瓶に溜まった水を霧に変えていく。

 通常の霧とは違い、水の精霊がコントロールする霧は粒子の粒が荒く、あっという間に辺りは湿りを帯びる。

 ちなみに他の術士は、俺達の所にそれが届かぬようコントロールをしている。



「ぐ、ぐぬ、ぐぬぬぬ……」



 この寒い地下で、そんな状況を作られては、はっきり言って俺でも寒い。

 しかし、それはあくまでも寒いというだけで、活動できなくなるなんてことにはならない。

 ところが臥毘達は……



「や、やっぱり駄目だ頭ぁ……、俺、段々眠く……」



「ね、寝るな! 貴様、それでもジグル一族の戦士か!」



「わ、私も、もう無理です……。先に逝きます、お頭……」



「ぐぬぬぬぬぬ……」



 繰り広げられる阿鼻叫喚の図。それを見てニヤニヤしているボタンに視線を向けると、すぐに真顔に戻った。

 ちなみに、彼らのことはリザードマンと呼ばず、竜人族と呼ぶことにしている。彼らの主張を尊重したのだ。

 既にレイフ城内では浸透しているルールであり、慣れていない獣人以外は大体受け入れられている。



「これは……」



「見ての通り、これが臥毘達の弱点だよ。これがあるから彼らを起点に分断はいくらでも可能だった。要はこんな弱点を抱えている部隊を、なんの対策もしないで運用しているのが問題だったんだよ。……まあ一番不味かったのは臥毘達だけど、ドーラやアギにしても、同じだぞ?攻撃に特化するのは良いけど彼らを武器として見るのなら、それを扱う者はしっかり性能を把握しないと」



「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅっ……!」



 臥毘が悔しそうに震えている。いや、震えているのは寒さでか。



「……成程。あの戦で、私に何ができたか考えていたのだが、そもそも戦う前の状況からして準備不足だったということか。戦う前から、我々は負けていたのだな……」



「戦なんて大体そんなもんだろ? まあ俺も経験豊富ってワケじゃないけどな」



 豊富も何も、経験は完全にゼロで、はっきり言って知識だけです。

 偉そうなこといって非常に申し訳ない気持ちになる。

 しかし、それに負けたと聞けばさらに凹むだろうから、ここは少しくらい経験があるように振舞う。



「ま、そんなワケで弱点克服のため、ジグル一族には地下で特別訓練を受けてもらってたんだよ」



 その訓練の効果は少しずつだが、一応表れ始めている。

 何せ、最初は風を当ててるだけでも冬眠に入る者が続出していたくらいなのだ。

 今は俺の指導の下、魔力のコントロールで体温を維持する技術を身につけ始めており、徐々に耐えられる者が増えている状況だ。



 コンコン



 と、その時、倉庫の扉がノックされる。

 続いて扉が開かれ、ライが中に入ってくる。



「失礼するね。トーヤ、お客さんだよ」




 お客? 誰だろうか……?


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