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5:おとなげない小説家

「セカイは想いで満ちている♪2」に登場しているアイドルグループquattuorの冬芽くんが登場してます。


 神谷先生と人気男性アイドルグループ・quattuorの王子こと冬芽とうがくんとの対談が持ち上がった。冬芽くんがもともと神谷作品のファンで、昨年頼まれて新刊(サイン付)を贈ったことがきっかけらしい。


 ところが肝心の神谷先生はこの企画を聞いてもあんまり乗り気じゃない。

「同期に聞いたんですけど、本のお礼を直接言いたいと冬芽くんから要望があったみたいなんですよ。王子からご指名ですよ、先生すごいじゃないですか」

「神谷。対談して新作を王子に渡して来いよ。王子は喜ぶし本の宣伝になる。俺と竹倉だって嬉しい。ほーら一石二鳥どころかお釣りがくるぞ」

 おだてるように私が言えば、森川編集長はメリットを挙げて先生を説得する。

「……対談なんて面倒だ。つかれる。森川先輩も竹倉も俺が人見知りだってのを知ってるだろう?」

 確かに先生って、雑誌のインタビューも乗り気じゃない場合が多い。もともと “読みたい人が読んでくれればいい”という先生なので、ドラマ化の話がきてもたいてい断ってしまう。

 でも“そんじゃしょうがないな”と納得するわけがないのが編集長だ。編集長は何事か思いついたらしく私をちらっと見てから先生をみた。

「じゃあ神谷。お前が対談に行くときは竹倉をつけてやる。それならどうだ」

「ええっ!!なぜ私が先生についていくんですか?思いっきり部外者じゃないですか」

「ミステリー作家・神谷宗佐の対談に担当編集者がついていっても部外者じゃないだろ。

竹倉、人気男性アイドルを間近で見られるチャンスじゃないか。こーんな経験ミステリー編集部にいたらめったに……いやほとんどないぞ?」

「そりゃありませんけどね……「分かった。それなら対談をしてもいい」」

 私が編集長に反論しようとするのを止めるように先生が口を挟んだ。

「そうか!!神谷なら絶対そういうと俺は思っていた!!」

「え、ちょっと編集長?!」

「じゃあ竹倉。対談の日程決まったら教えてくれな」

「は?!先生、何を言ってるんですか。どうして私経由?!」

「そりゃ神谷の担当はお前だからな。大丈夫、俺が向こうに話を通してやる」

 編集長が言い切ったことで確定した。なんか当人を差し置いて流れが出来上がっている……。


 その後、同期から“なんで竹倉さんも行くことになったの?”と当たり前のことを聞かれ、さすがに“先生が、私がついていく条件で対談を了承したから”だなんて言えるわけもなく。

 対談当日、先生はグレーのピーコートをはおって白いシャツと紺色のニットを重ねデニムパンツといういでたち。今日の眼鏡はメタルシルバーのハーフリム……本当に外に出るときはかっこいんだよなあ。普段の姿が見事に隠されている。

 一方の冬芽くんも、ひざ程度まである長めの紺色コートにグレーのタートルニット、明るめのブルーのデニムパンツというこれまたおしゃれな姿。眼福ってこういうときに使うのね……。

 雑誌の担当者に仲介してもらって互いに紹介しあうと和やかに対談がスタートした。

 冬芽くんは神谷作品のファンだと公表しているだけあって、ほとんど読んでいるらしく先生に作品を生み出した経緯を聞いたり自分の好きな作品などを楽しそうに話しかけている。

 先生のほうも、どうやらお世辞じゃなくて本当に好きだというのが分かったらしく冬芽くんからの質問にはにこやかに返答し、逆にアイドルの世界について質問などもしていた。

 先生、俺は人見知りだからっていつも言うけれど社交的じゃないか。私がついてくる意味あったのか?

 先生へのインタビューは立ち会ったことはあるけど、対談の現場を見るのは初めてだ。それがイケメンアイドル付だなんて、すっごくラッキーかもしれない。


 対談が終わると冬芽くんは名残おしそうな様子をみせたものの、次の仕事があるとかで先生と握手をして現場を後にしていた。

「神谷先生、今日はありがとうございました。あの、このあともしよければ皆で食事でも……」

 同期がいそいそ先生に近寄っていく。もし先生が食事に行くなら、私は会社に戻って仕事するからここから別行動だな……などとのんきに考えていると、同期と並んでこちらに向かって歩いてくる先生の声が聞こえてきた。

「すいません、ちょっとこれから取材したい場所があるので食事はまたの機会でお願いします。竹倉、取材に行くからつきあえ」

「は、はいっ」

 もの言いたげな視線で私と神谷先生の姿を追う同期を横目に、私は先生に腕をつかまれて現場を後にした。

「先生、どちらへ取材に行くんですか?アポが今から取れるといいのですが」

「取材は嘘だ。竹倉、あんみつ食べて帰るぞ」

 先生、嘘って……よっぽど対談が疲れたのか。

「あの冬芽ってやつと話すのはなかなか面白かった。でも食事をするなら俺は疲れない相手としたい。竹倉、わかるか?」

 まあ、あのメンツだったら私が一番疲れない相手だろう。なんといっても担当だし。

「少し歩くけど美味しいあんみつを出す甘味処があるんだ。美味しいものは好きな相手と食べるともっと美味しくなるよな」

 先生の言う好きという意味を念押しされた気がして私は少しだけ焦ってしまう。

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