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4:観察は重要

 神谷先生の前に担当していた蒼葉先生とは、ミステリー好きという共通点から今でも交流があって、担当を外れたいまでもお茶や食事をすることがある。


 ひとしきり話と食事を楽しんで、食後のお茶を飲んでいるときに飛び出た蒼葉先生の発言に私は耳を疑った。

「ねー、灯ちゃんは神谷先輩のこと下の名前で呼んだことある?」

「は、はいい?呼びませんよ。呼べるわけがありません」

「確かに神谷先輩だとハードル高いもんね」

「な、なにを急にそんなこと」

「んー。昨年末、木ノ瀬くんから来年からは互いを名前呼びしましょうって言われてさ。今年に入って下の名前で呼ばないと返事してくれないんだよね……」

「いったい、どうしてそんなことになったんですか?」

「なんかね、担当になって長いのに名字で呼ばれるのがちょっといやみたい。なかなか“典くん”って呼ぶのが難しいよ」

 そう言うと、蒼葉先生はため息をついた。

 先生、それは難しいんじゃなくて恥ずかしいの間違いでは。そして木ノ瀬さん……蒼葉先生と私の会話を聞いてなんか怖い顔になっていたのはそのせいだったのか。

 もしかして木ノ瀬さんは蒼葉先生のことを……おおう神谷先生が“観察眼を養え”と言ったのはこのことだったのかー!!

 蒼葉先生は、あまりに存在が近すぎて木ノ瀬さんを恋愛対象として見てないんじゃないだろうか。ありえる・・・すごくありえる。

 だって私も神谷先生から口説かれるまで、自分が高校時代からファンだった作家としか見てなかったんだから。

「……蒼葉先生、こういってはなんですが名前呼びに慣れたほうがいいような気がするんですけど」

「うん、私も最近悟った。でも木ノ瀬くんってどうしてあんなにあっさりと切替できるのかなあ」

「そうですね~……でも木ノ瀬さんらしいと思いません?」

「そうねー、確かに木ノ瀬君らしいかも」

 蒼葉先生は腑に落ちたらしく、うんうんとうなずきお茶を飲んだ。私、木ノ瀬さんから感謝されてもいいと思う。


 そんな話をして数日後、打合せをするために神谷先生が編集部に来ることになった。いつもなら先生の部屋で打ち合わせのところ、今日は外出の予定があるからとわざわざ予定をいれてくれたのだ。

 編集部にやってきた神谷先生は会議室に入ってすぐに口を開いた。

「さっき、瀬戸と護衛の木ノ瀬にばったり会ったんだ。あの二人 “蒼葉先生”“典くん”なんて呼び合っててさ。木ノ瀬の下の名前は典っていうんだな~。いやあ知らなかった。竹倉、知ってたか?」

「名前を呼び合うことになったとは、蒼葉先生と食事をしたときにちらっと聞いたような気がします」

 さすがに話の内容全部は言わないけれど、先生と食事をしたことは言ってもいいだろう。

「うーん……なんで名前呼びに変わったんだろう。気にならないか?」

「先生が気にしてもしょうがないと思います」

「そりゃそうなんだけどさ。竹倉、なんでだと思う?」

 いやに先生が気にしている。もしかしてネタの種でも見つけたんだろうか。

「わりと長く担当していて気心が知れてるから、でしょうか。確か木ノ瀬さんは蒼葉先生の担当になって3年……4年目だったかと」

「竹倉も俺の担当になってそれくらいだよな」

「そうですね」

「だったら竹倉と俺が下の名前で呼び合ってもいいわけだ。そんなわけで竹倉、ほら俺の名前を呼んでみろ」

 先生……それが言いたかったのか!!


「ほら、“宗佐”って呼んでみてくれよ」

「無理です」

「そんなあっさり言うか」

「そ、そうです。だめです」

 もし“宗佐さん”って呼んだら先生はどんな反応をするんだろうか。びっくりする?喜ぶ?でも、今はだめだ。じゃあいつなら私は……。


 先生が“わかった。今はこれ以上言わない”と諦めたのは、打ち合わせが終わる頃だった。


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