ヘリコプター
四国の尾根、石鎚の上空にヘリコプターが3台飛び回っていた。そのうちの1台から梯子を頂上付近に下ろしていた。
「また、三の鎖で滑落事故か? それとも北壁クライマーか?」
午前6時10分、日の出と同時に登り出し、ロープウェイの営業前に「夜明峠」まで登ってきていた今治の登山者が2名、頂上を仰ぎ見て話した。
石鎚山、西日本最高峰天狗岳(1982m)を有する、日本百名山にも選ばれ、登山客も多い。
午前6時50分、二人は「二の鎖」の分岐手前に登ってきていた。相変わらずヘリコプターは上空を旋回していて、さらに2台増えていた。
「ただ事ではなさそうだな。」
二の鎖小屋は、レスキュー隊らしい隊員が出入りしていた。
午前7時半ころ、二人は「頂上山荘」に入った。鎖場も巻き、登山気分は失われていた。
「何があったんかのう。」
ペットボトルのお茶をすすり、山荘の従業員に聞いた。
「二の鎖小屋に死体があったらしい。さっき登ってきた人が見つけて、救急に連絡したんよ。」
従業員はさっきと言ったが、実際は二時間前の事である。
『ゴゼンロクジゼロハチフン。石鎚二の鎖小屋にてイチイタイ有り。服装より登山者。身長162㎝ハタチ前後の女性。外傷はなし、死因不明。身元を確認できる所持品なし。事故、他殺の両方の可能性。』
山岳救助隊より、西条市消防局に無線連絡が入った。すぐさま愛媛県警に報告された。
『局より救助隊。局より救助隊。小屋を封鎖、待機せよ。救助隊は待機。県警より捜査員急行す。救助隊は県警の指揮下に入る。案内を行い、指示を仰げ。また、第一発見者につき確保の事。繰り返す、・・・』
6月30日(月)の朝の出来事である。石鎚の北壁は何事も無いかのように聳えていた。