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第28話 17.オンステージ前編

 17.オンステージ



 バンドがステージに現れると、客席の誰からともなくマリアに登場を求める手拍子が起こった。

 しばらくして、マリアはカウガールっぽいデニムのジャケットとスカートで勢いよく登場して、いきなり客に話しかけた。  

「皆さん、お忙しい中、私、マリア・グリーンのチャリティーコンサートにお越しいただいてありがとうございます」

 客席から一気に大歓声が上がる。

「この手作りコンサート、評判よければまたいろんな土地で続けたいなと思ってますが、スタートのサンタモニカから一気に盛り上がるよう、皆さん、願いします」

 会場から拍手がおこりマリアはうなづいた。

「ここへ来て急に暑さが弱まって、気温と一緒にボルテージ下がったって方も多いようですね。

 私はいつもはドレス着てバラードからコンサート始めるんですが、今日はこんなスタイルで、元気いっぱいの曲をスタートから連発したいと思います」

 ひときわ高い拍手が沸きあがった。

「皆さんも立ち上がって、手でリズム、お願いします、カモン、ミュージック!」

 マリアが頭の上で大きく拍手してリズムを取ると、会場の客も一斉に立ち上がって、伴奏に合わせて拍手が始まり、マリアが歌い出した。

 ケンは今だとばかり、観客席の中に紛れ込んだ。


「この騒ぎはなんだ?」

 双眼鏡でコンサート会場を見ていたジョーカー大佐は怒りで顔を赤くした。

「マリア・グリーンの過去のコンサートは全てDVDでチェックしたが、客が座りっぱなしでみんな痔になるんじゃないかと思うほど地味なコンサートだったぞ。

 ラリー少尉、客が一斉に立ち上がるとはどういうことだ?」

 隣にいたラリーは困って言う。

「そう言われましても」

「狙撃手、ソナーを照準に捉えているか?」

「いいえ、みんなが立ち上がったため見えないです」

「仕方ない」

 ジョーカー大佐は隣の部下に向いて言う。

「ラリー少尉、お前は会場の中に入ってソナーのそばに行って、変な動きをしないか監視して連絡しろ」

「は、はい、大佐。

 ただ、私が客席にいる間は爆弾のスイッチは押さないでいただけますか?」

「大丈夫だ、大切な直属の部下を殺すわけないだろ?

 早く行け!」

 濃緑のトレーナーを着たラリー少尉は小型の自動小銃を隠したショルダーバッグを持って会場へと走った。 


 ケンは通路を頭を低くしながら歩き、立ち上がって熱狂的な拍手を送っている聴衆の一列一列にジュリがいないか確かめながら、海の方向に進んだ。

 やがて、列の中央あたりで、この盛り上がりの中、立ち上がらりもせず、椅子にかけたまま、胸に赤ん坊を抱いた女性を見つけた。

 ケンは列に割り込んで進み、その女性の前に近づいた。

 ケンはジュリが不用意な声を上げないよう口の前に指を一本立てた。

「シー」

「ケン!」

 ジュリはケンにしがみつこうとして、胸の前の赤ん坊の人形を見て思いとどまる。

「ジュリ、無事でよかった。

 しゃべって大丈夫なのかい?」

「受信はいつでも来るんです。

 でも送信はヘッドフォンのボタンを押さないとできないから」

「うん、ジュリ、カノンから聞いて状況は大体わかってる。

 大丈夫だからね」

 ケンが言うと、ジュリはうなづいた。

「まず、あっちの方へ行こう」

 ケンは「病人なんだ、通してくれ」と言い、ジュリを通路まで移動させた。

「目立たないように、しゃがんで。

 その赤ん坊の人形は僕が預かろう、その後、マックスに沖に運んで捨ててもらうから」

「うん」

「このおんぶひもをつける時、やつらは慎重にしてたかい?」

 ケンはおんぶひもを少しだけずらしながら別の糸や針金が走ってないか調べる。

「割と普通だった」

「そう、じゃ外すとすぐ爆発する可能性は低い」

 ケンは金具をゆるめ、ひもをゆるめると、完全には金具を外さずに、ジュリの肩から自分の肩に受け取った。

「ようし。ひとまず安心だ。

 そのヘッドフォンもタイミングを見て、捨てよう」

 ケンが言うと、ジュリは鋭く却下した。

「これは駄目」

「どうして?」

 ジュリは周囲に聞かれないかみまわしたが、会場はノリのいい音楽のリズムが響き渡り、みんなが体をゆさぶっていて、誰かに聞かれる心配はなさそうだ。

「ヘッドフォンにも小さな爆弾が仕込んであって、勝手に外そうとすると爆発するって」

 ジュリは泣きそうな目で見つめてきた。

「うん。可能性はある」

 ケンは冷静に言ってやる。

「けど、それは催眠暗示をかけられただけかもしれない。

 僕が拉致された後ずっと催眠暗示を信じてたのはよく知ってるだろ。

 ジュリは奴らにとってすごく貴重なニュータントの筈だよ。

 簡単に殺す筈ない」

「そうかもしれないけど、怖いわ」

 ジュリは実際小刻みに震えていた。

 その時、ケンの携帯電話が鳴った。

 カノンからだ。

《おじさん、マックスが波打ち際に来たよ》

《了解、今、行く》


「ジュリ、目立たないように腰を低くして、波打ち際に行くよ」

 ケンはジュリの手を引いて、椅子席のブロックを縦に走る通路を、海の方へ向かって移動した。

 縦と横の通路が交差するところで、ケンは視界の右に濃緑のトレーナーの男を何気なく見たのと、ジュリが叫ぶのが同時だった。

「あの緑のトレーナー、ジョーカー大佐の部下!」

「急いで」

 ケンはジュリの手を引いて、姿勢を低くしたまま縦の通路を海の方へ走る。

「あの男、ショルダーバッグに銃があるわ」


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