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第18話 12.証拠 前編

 12.証拠



 午前12時すぎ、ケンはレンタルしたフォードトーラスの中からDDP研究所を見張っていた。 場所はDDP研究所の出入り口から20メートルほど離れた反対車線。助手席には相手がこちらに攻撃的な意志を持っているか確認するためにカノンもケン同様、双眼鏡を持っている。

「どう?まだ現れない?」

「まだだ。お?」

 ケンはGMCサファリを運転している男の顔を双眼鏡で見つめた。

 髪はクルーカットをそのまま伸ばした感じで年も二十代と若い。ダニエルは30代半ばで細長い顔に豊かな髪を真ん中から分けているはずだ。

「違った、うん、あれは?」

 前方から近づくホンダオデッセイを運転しているのはキャリアウーマン、切れ長の長いまつげに、薄いピンク系の唇が微妙に突き出し加減で印象的だ。

「美人」

「あ、浮気者、ジュリ姉さんに言いつけてやるから」

「待てよ、美人と言っただけで、好きとかじゃないよ」

 カノンは双眼鏡をおろし、すぐに「なるほど」とうなづいた。

「振られたパティーさんに似ていたか」

 ケンは声を荒げた。

「お、お前ね、人の心を勝手に読むなって言ってるだろ」

「えへへ、ごめん」

 カノンはさすがにやりすぎたと思い謝った。

「うん、わかればいい」

 ケンが言った直後、DDP研究所から出てきた銀メタのGMCアカディアを運転している男がダニエルのイメージぴったりだった。

 ケンは双眼鏡で確認して言う。

「カノン、あの男だ」

「今、読み込む」 

 カノンは双眼鏡の男に意識を集中し、心を読むとうなづいた。

「大丈夫みたい、あの人は攻撃的な気持ちはないし、ケンのこともすっかり忘れているわ。

 今は息子が受けるフットボールチームのテストを応援しに行くところ」

「デジタルオーディオプレーヤーにおかしなファイルがあることに気付いてない?」

「ちょっと待って……、気付いてないわ」

「よし、オーディオプレーヤーはどこ?」

「今は会社の机よ、夕方、帰る時は家に持ってくみたい」

「じゃあ、ダニエルの帰宅時間に打ち合わせ通り作戦決行だ」



 午後5時すぎ、ケンたちは再び、トーラスの中から双眼鏡でDDP研究所の出入り口を監視していた。

 銀メタリックの車体が現れた。

「よし、アカディアが出て来たぞ」

 双眼鏡で顔を確かめると、ダニエルはイヤホンを耳にかけて、コードは胸ポケットに続いている。

 ケンはシフトレバーをドライブに入れ、ハンドルを切る。

「急ぐよ」

 ケンはレンタカーのトーラスをUターンさせた。

「聞いてるのはデジタルオーディオプレーヤーかい?」

「そう」

 それならケンにとって好都合だ。

「でも、信じられる?

 あの歳でヴァン・ヘイレンだって、ハンドルを指で叩いてリズムとってるよ」

「きっとあの歳だからなんだよ」

 ケンは笑った。


 十分も走らないうちに、ダニエルはショッピングセンターの駐車場に入り、ケンたちも距離が開きすぎないよう気をつけて、中に入った。

 

 ダニエルは大きな吹き抜けを楕円に囲む通路を歩いている。

 その十メートル後ろにケンたちはついている。

「よし、カノン、ゴー」

 ケンの合図で、まずカノンが少し早歩きでダニエルを抜いた。

 カノンとダニエルの距離を見て、今度はケンが走ってダニエルを抜きにかかる。

 ケンは追い越しざま、ダニエルの胸ポケットからイヤホンをちぎってデジタルオーディオプレーヤーを抜き取り、たたんだ数枚の百ドル札を代わりに押し込む。

 そしてケンは全速力でダッシュして、ダニエルの前に出ていたカノンを突き飛ばすふり。

 カノンは倒れて大きな声を上げる。

「痛ーい、骨が折れたあ」

 突然の展開についていけず、イヤホンだけをしたまま小走りに近寄ったダニエルは、大声で痛がるカノンに声をかけた。

「骨は大丈夫かい?」

「ありがと、すごく痛かったけど、骨は大丈夫みたい。

 おじさん。今のひと、何?」

「泥棒だ。プレーヤー盗られた」

「ひどい!」

 ダニエルは胸ポケットを確かめ、折りたたんだ百ドル札を確かめると首をひねった。

「でも代金は置いてったよ、変な泥棒だな」

「あ、それって知ってるよ、不幸中のサイワイって言うんだよね」

「あ、ああ」

「悔しいけど、私も家に急ぐし、怪我もたいしたことないから、今、転ばされたことは刑事告訴しないどく。おじさんは?」

「うん、告訴してもプレーヤーぐらいじゃ、警察も動かないよ」

「じゃあ、さいなら」

 カノンは少し足をひきずってみせて早足で立ち去った。


「どう、大丈夫だったかい?」

 ケンが聞くとカノンは「うん」と答えた。

「面白かったあ、こんなの初めて」

「心臓は?」

「そんなに病人扱いしなくても大丈夫だよ、本当はもう少し速く走れるんだよ」

「じゃあ、新しい我が家の病院に帰ろう」

「病院はイヤだけど仕方ないね」



 ケンはカノンと一緒に証拠の入ったデジタルオーディオプレーヤーを持って新しいアジトとなる病院に着くと、早速、ソノダ医師の診察室を訪れた。

 そこには既にエリザベスが座っていた。

「いいタイミングで来るね、丁度、診察が終わったところだ」

「ソノダ先生、無理を聞いてもらってありがとうございます」

「うん、俺も最初はただの夢物語なら断ろうかと思ったが、ホーライが誘拐されたとあっては黙ってるわけにはいかないからな」

「ありがとうございます」

「で、犯人の目星はついてるのか?」

「それが名前はAAGというんですが、実体はよくわかりません。

 とにかく権力に完全に入り込んでる連中です。

 警察も形だけの現場検証しかしないし、報道機関への発表もないし、影から圧力がかかってるとしか思えない」

「そうか」

「ただ奴らの悪事の証拠は手に入れました、ご覧になりますか?」

「そうだな」

 ケンはノートパソコンに、デジタルオーディオプレーヤーを接続して、記録されているファイルを探した。

 ソノダ医師、カノン、エリザベスも息を呑んで見守っている。

「どのファイルなの?」

「簡単に見つからないようにわざと領域の一番後ろの方にコピーしたんだ。

 あ、これだ。サイズが音楽ファイルよりずっと大きいだろう」

 ファイル名を確認してクリックすると、ビデオプレーヤーが起ち上がって、イルカの脳に意識統御ナノチップが埋め込まれるシーンが映しだされた。

「こいつはすごい証拠だ」

「この先に人体実験もあります」

「この証拠ビデオなら、どんな相手でも告発できるな」

 ソノダ医師が言うとケンもうなづいた。

「ええ、今度は僕がマスコミに直接渡します。きっとうまくいきますよ」

「よかったわ、これで私のハズバンも、ケンの恋人も帰って来るのね」

 ケンはおしゃべりなカノンを睨んで拳固を落とす真似をし、カノンはペロっと舌を出した。

「ところでソノダ先生、このパソコンにファイルのバックアップ取ってもいいですか?

 念には念を入れておかないと、相手は巨悪組織ですから」

「ああ、かまわないよ」

 ケンはソノダ医師のノートパソコンに証拠ファイルの複製を残した。



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