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第14話 9.告発 後編

 画面に意識統御ナノチップが大写しになる。

「私の研究所の上位組織はデイドリームプロジェクトというコードネームで、意識統御ナノチップDDS1を開発し、民衆に気づかれないうちにナノチップDDS1を埋め込むという戦略研究に着手したのです。

 この意識統御ナノチップDDS1はふたつの機能を持っています。

 ひとつは脳神経の内部に起きるニュータント構造活性進化を防ぐこと、ふたつめは意識や感情を鬱側に傾いた状態に誘導し政治活動、発言などを抑止するものです。

 私はこのチップの開発と実験をしていたのです」


 画面にイルカの頭を切り開いて意識統御ナノチップを埋め込む様子が流れた。

「最初の実験はチンパンジーで始められましたが、すぐにイルカが主流になりました。

 なぜならイルカの方がチンパンジーよりテレパシーに関する領域がすでに発達していると分かったためです。

 意識については別の研究所が意識のホログラムと呼ばれるフォトン像の読み取りで成果をあげてました。

 意識の実態、わかりやすい例なら朝、赤いポストを見たという、あなたのひとつの記憶は、ひとつの細胞に蓄積されるのではありません。

 記憶は、その時々活動している細胞たちの磁場が合成するフォトン像として現れるのです。

 ですから例えば事故で脳の半分を失っても記憶は無事な場合が多いわけです。

 私たちは信号を混信させて、この意識のホログラム像を歪めることを行いました」


 画面のイルカは急にジャンプを繰り返し、やがてプールの壁に体当たりを始めた。

「実験を具体的に説明すると、頭部に意識統御ナノチップを埋め込みます。

 このナノチップは脳内のフォトン波の結像、テレパシー領域の形成を阻み、数億の脳細胞と同じニセ信号を放ち、意識のホログラム像を歪めたり、負のイメージ信号を多数追加することで、感情を上下させることに成功しました。

 今、歪めたと言いましたが、別の言い方をすれば、本来の意識を破壊したのです」


 画面のイルカの体当たりは激しさを増し、体に傷を負ったため、うっすらと血が噴き出すのがわかった。

「イルカで成果をあげた私たちは、平行して人間に対する実験を開始しました」

 画面に腕の自由を奪う拘束服を着せられた坊主刈りの中年男が映し出された。

「最初のうち連れて来られた人間たちは、意外にも協力的に実験を受け入れました。

 しかし、これは私たちがすんなり実験に着手するように、被験者に催眠術がかけられて従順に受け入れていたのだと後で知りました」


 画面が切り替わり、人間の頭部にナノチップが埋め込まれてゆく様子が映った。

 ケンは悪寒に襲われた。自分も同じ手術をされたのだろうが、外側から見ると恐怖は倍増して、ケンの体を震わせた。

「イルカであれ、人間であれ、開発の本質は同じでした。

 つまり、頭部に意識統御ナノチップを埋め込み、意識のホログラム像を歪め、信号を混信させて、破壊するのです。そして負のイメージ信号で感情を劣化させます」


 坊主刈りの男は急に壁を蹴り大声で何か叫んでいたかと思うと、体当たりを始め、額から血を流し始める。

 しかし、突然、動きが止まり、坊主刈りの男は床に座り込む。

 その表情はムンクの叫びのようで、見ていたケンは気が滅入るような空虚感に震え始めた。

 そうだ、ディナークルーズの時、急にケンが絶望感に捉えられたのは、このチップのスイッチを入れられたためだったのだと気づき、ケンの震えは激しくなった。


「デイドリームプロジェクトの上層部が本格的にナノチップを運用する場合にどこまで感情を支配し、落ち込ませるつもりかはわかりませんが、これが私の行った犯罪です。今も見返して自分に吐き気がします。自分が本当に情けなく、滅入ります。

 巨悪組織が自分たちの利益のために、罪もない多数の善意の人々の意識を抑圧するという卑劣な陰謀を許してよい筈がありません。

 どうかこのビデオをコピーして、大量にばらまいて陰謀を世間に告発してください。

 但し、その際は、巨悪組織AAGの諜報能力がCIA並みだということを念頭に、あなた自身の身元がばれないよう二重三重に細心の注意を払い、告発して下さい」


 画面は再び天然パーマの研究員フィリップに戻った。フィリップは緊張した目でこちらを見つめながら喋った。

「もしかしたら、あなたがこのビデオを再生している現在、巨悪組織は私の裏切りに気づいていて、私は殺されているかもしれません。

 その可能性はかなり高いと思われます。

 しかし、あなたに是非、私の告発を受け継いで、陰謀を阻止してもらいたい。

 お願いします、陰謀を阻止して下さい。

 それは今まで何人もの意識、または人生を奪ってしまった私の罪滅ぼしでもあります。 デイドリームプロジェクトを野放しにしたら、これからさらに何百万、何千万、何億の人々の意識が奪われてしまう暗黒支配が始まるのです。

 絶対に阻止して下さい」

 画面は急に真っ黒につぶれて、ビデオは終わった。


 ホーライ博士は吐き捨てるように言った。

「とんでもない陰謀だ」

 ケンはあまりの恐ろしさに震えが止まらなかった。

「ある程度は想像していたが、想像以上です」

「うむ、問題はこのデイドリームプロジェクトをどうやって告発するか」

 ホーライ博士が言うと、アランがすぐ軽い調子で言ってのけた。

「簡単ですよ、僕がアップします。同時にマスコミにもビデオファイルをメールに添付して送りつける」

「いや、今のビデオの男も『巨悪組織AAGの諜報能力がCIA並みだから二重三重に注意して』と言ってたじゃないか、安易なやり方でアランの安全が心配だ」

「ネットでやばいことをする場合、クシと呼ばれるクッションを通したり、チャフというニセの情報を差し替えたりして発信元を偽装するんですよ」

「専門的な説明はわかりにくいが、それで大丈夫なのかね?」

「いや、そういう偽装では駄目なんです。自宅からではどう偽装しても最初の接続ポイントがばれて、いずれ足が付きます」

「それじゃあ無理ということですか?」

「そこで、ネットカフェなんかからアップするんですよ。

 いくら巨悪組織でも全てのネットカフェのパソコンすべてを監視なんてできっこないでしょ。

 そこでアップして素早く逃げれば捕まりっこないすよ。任せて下さい」

「専門家のアランがそう言うなら、大丈夫だろう」

「じゃあ、僕の撮影したビデオも合体して、アップしてもらいましょうか」

「そうと決まれば、サクっと片付けましょ、モノはどこですか?」

「ああ、そこのビデオカメラなんだけど」

 ケンが立ち上がってビデオカメラを渡すと、アランは手際よくケーブルをパソコンに接続して、編集作業に入った。



 アランはサンフランシスコの繁華街のビルの3階にあるネットカフェ『テラロード』に入った。


 受付の腹の出た男は免許証のチェックも面倒そうに手続きをした。

 どうせ合成写真にニセの番号だから詳しくチェックされてもかまわないがな。

 心でつぶやきながら、アランは6時間分の料金を先払いして、棚から映画のDVDを借りて隅のデスクについた。

 そして念を入れて、まずパソコンに監視ソフトが入ってないかチェックした。

 次にネットカフェ内に監視的な作業をしているものがいないか、ダミーの作業を行い監視の痕跡を調べてみる。

 それからUSBメモリを差し込み、告発ビデオファイルをローカルディスクに移す。

 交換ソフトをインストールして告発ビデオファイルをアップした。

 そしてマスコミ各社へも情報メールを送付する。


 ファイル交換の掲示板を見ていると五分ほどで書き込みが入った。

《や、モルダーさんが、すごいXファイルをアプしてくれたでつ!》

《すごすぎ!陰謀ものだ!》

《興奮で今夜は眠れないな!》

《これって、マジっぽ!》

《CIAに通報しますた!》

 ネットフリークの反応は恐ろしく速い。


 アランはどんどん増えてゆく書き込みを眺めるとブラウザを閉じて、映画のDVDを流しながら、帰り支度に入る。

 受付で「30分ほど外出してくる」と言い残して、アランはネットカフェを出た。

 エレベーターに乗り込んだアランは興奮が湧き上がるのを密かに楽しんでいた。

 簡単だね。

 これで明日にはマスコミに陰謀が大々的に取り上げられて大騒ぎだ。

 アランは作戦の成功を確信してガッツポーズして、携帯でホーライ博士に電話した。

「アランです。ビデオアップとマスコミ通報、完了しました。

 告発は成功です」

「そうか、ありがとう、危険だからすぐ帰ってくれよ」

「わかってますよ」

 アランは携帯をしまうと、ビルを出た。


 三メートル歩いたところにワゴン車が停まっている。

 サイドドアーを開いたままでおかしいなと思った瞬間、後ろから強い力で腕をつかまれたアランはワゴンの中に押し込まれた。

 瞬く間にドアが閉まる。

「騒ぐな、騒ぐと命はない」

 アランを後ろから羽交いしたのはスーツ姿のジョーカー大佐だ。

 アランは頬で銃身の冷たい感触を生まれて初めて味わった。

「ヒィッ」

 声を上げようにも拳銃の冷たさと威圧感の前に声にならなかった。

 ワゴン車は平然と白昼の繁華街に出た。

「連絡したいところがあったら電話していいぞ。

 但し、我々のことはひと言も言ってはいけない。

 言ったらすぐ死んでもらう」

「ふん、もう手遅れなんだよ。

 お前らの陰謀の証拠はもう世界中に流出したんだ」

 アランはなんとか勝利宣言をしてみせたが、余裕の笑みを返したジョーカー大佐はアランの手を後ろにまわして手錠をかけ、隣の席の部下はせせら笑った。

「甘いな。

 我々は全米のインターネットを検閲済みのキャッシュで構築した安全なイントラネットに接続させているんだ」

 ジョーカー大佐の言葉にアランの顔がみるみる青ざめた。

「オタクなら私の言ったことがわかるね?

 インターネットは世界に開かれているはずだが、イントラネットに接続している全米の人間は世界から、いや隣のビルからさえ閉ざされている」

「ウソだ!

 全てのデータを構築しなおすなんて、そんな手の込んだこと無理だ」

「我々に不可能はない。

 お前がブラウザで見たのは検閲済みの五分遅れのネットデータか、我々のエージェントが作ったやらせの発言だ。

 お前がアップしたり、メールを送った先は外に対しては完全に閉じている我々のサーバーだ。

 お前のアップしたファイルはどこにも漏れていない。

 残念だったな」

 ジョーカー大佐はアランの耳を思い切り引っ張った。

「こんな危険なビデオをどこから手に入れたか、全部、白状してもらうぞ」



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