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第13話 9.告発 前編

  9.告発



 マックスは再びピックアップトラックに乗せられ、昼前に、ホーライ博士の研究所兼別荘に到着した。


 ケンたちは病院から拝借したストレッチャーでマックス桟橋の先にに運んだ。 

「マックス、すぐそこの洞窟に入っておいで」

「私たちもそこに行くからね」 

 カノンとジュリがそう言い聞かせて、ホーライ博士とケンがマックスを海に放した。


 そして急いで別荘に入り、地下室の洞窟ホールに出てみると、洞窟の水面には既にマックスが到着して、キキキと笑った。

「すごいな。ちゃんとわかってる」

 ケンが言うと、ホーライ博士もうなづいた。

「おそらく洞窟という単語は初めてでも、対応するイメージは的確に伝わっているんだろうね。

 たいした能力だよ」

 エリザベスも感激した。

「人間とイルカがダイレクトにコミュニケートできるなんて、夢みたい」

「これは文明が新しい段階に入ろうとしているんだ。

 人間だけのうぬぼれた危うい文明から、共生を重んじる調和の文明にね。

 カノンはそのパイオニアなんだ。

 それを目撃できる私たちは幸運だ」

 カノンとジュリはマックスに話しかけ、それに応えてマックスは洞窟の天然プールを泳ぎまわってみせた。

「マックスも疲れてるから、そろそろ休ませてあげるんだよ」

「はい、博士」

「それからジュリ、傷口と体温を注意して観察してやってくれ。

 感染の兆しがあったら抗生物質を与えなきゃならない」

「ええ、感染症の対処はしてことあるから任せてください」

 ジュリが自信たっぷりにうなづくと、続いて、ホーライ博士はケンの肩を叩いた。

「君もそろそろ病院に戻らないといけないぞ」


 病院に戻ったケンは午後になってから、ソノダ医師の診察室に呼び出された。

「ドクター、昨夜はどうも、ありがとうございました」

「昨夜、なんかあったかな?

 手術は一昨日だよ」

 ソノダ医師は控えているナースの手前か、ウィンクして知らんぷりを演じた。

「それよりホーライ先生のところで大事な話があるそうなんだ。

 血液検査も悪い兆候はないし、本当は明日の退院の予定だったんだが、イルカの先生がうるさいからな、今から退院していいよ」

「今から?」

「ああ、なるべく早くケンを返してほしいらしい」

「博士の話ってなんですかね?

 まさかカノンちゃんが?」

「いや、なんでも訪問客の土産がどうとか言ってたな」

 ケンは拍子抜けして聞き返す。

「土産が大変な話ですか?」

「とにかく急いだ方がいい」

「ありがとうございます」

 

 ケンがホーライ博士の別荘に戻ると、エリザベスが緊張した表情で迎えた。

「ケン、退院おめでとう。

 夫が待ってるから、すぐに地下に行って」

「何があったんですか?」

 ケンが尋ねると、エリザベスは「ビデオが見つかったのよ」と囁いてケンの肘を階段に向け押し出した。

「博士、帰りました」

 ケンが研究室のドアを開けると、ホーライ博士と長髪の男性がパソコンの前に座っていた。

「お帰り、ケン。

 紹介しよう、こちらはチップの解析をしてもらったアランだ」

 ケンはアランと握手を交わす。

「初めまして、アランです」

「ケンです」

「アランは電子部品の専門家なんだ。

 彼がその気になればATMは延々と紙幣を吐き出す泉になる」

 博士の言葉にケンが驚く。

「エー、ホントに?」

「やめてくださいよ、それじゃあ犯罪者じゃないですか。

 ちょっとだけ違法な改造が好きなだけですから」

 おかしな弁解に博士もケンもニヤニヤと笑った。

「ところで大変な話があると聞きましたが」

「そうなんだ。

 アランに例の電子チップを見てもらったら、大変なものが出てきたんだ。

 アラン、いきさつを説明してくれるかい」

「オーケー。

 まだ全ての解析が終わったわけではありませんが、あのチップは、電池の代わりに最先端のナノテクノロジーで動くようになっているんです。

 人間の脳や神経はものすごく微弱な電流で動いています。

 あのチップはその微弱な電流で動作するように出来ているんです。

 この驚異の技術の実現は民間企業なら大きな宣伝になるはずですが、まだどこも公表してません」

 ケンはうなづいて言う。

「じゃあ、公表できない組織が開発したチップだということですね」

「そういうこと。

 で、問題はその先なんです。

 イルカから取り出したチップから、とんでもないビデオファイルが出てきたんですよ。 今、再生します」


 パソコンの画面にビデオ画像が映った。


 椅子に座った天然パーマで細い目の男がこちらに語りかけてくる。

「DDP研究所、上席研究員のフィリップです」

 その言葉を聞いたとたんにケンはぞっと寒気を感じた。

 消された記憶の形にならない何かが蘇ったせいなのかもしれない。

「このビデオの目的は私の属する研究所と、その上部組織が行ってきた恐ろしい陰謀計画を明らかにすることです。

 私は最初からこの陰謀の全貌を知っているわけではありませんでした。

 非人道的な研究を命令され、組織に逆らうことができず、それに従ってきました。

 しかし、今、良心の呵責と、まだ残っていた正義感から、知りうる限りの全容を探り、告発を決意しました。

 私が行ってきた研究は、政府さえも操る巨悪組織AAGが主導する陰謀、デイドリームプロジェクトです。」

 

 画面にデイドリームプロジェクトというタイトルが現れる。

 矢と月桂樹を掴んだ鷲が大きな三角形で囲まれた画像だ。

「ことの始まりは、西暦1990年代半ばから、AAGがニュータントと名づけ敵視する新型人類が出現しはじめたことです。

 このニュータントは新しいニューと突然変異のミュータントの合成語で、テレパシー能力の覚醒した人類に対する我々の呼び名です。

 普通の人々は、超能力、テレパシーなどと言うとすぐに笑い飛ばしてしまいます。

 しかし、最近の情報公開制度のおかげで、東西冷戦時代、アメリカもソ連も軍や諜報部で真剣に超能力、テレパシーを研究し、ある程度の成果を上げてきたことが明らかになっています。

 ここで現実にテレパシーが実現し普及すると、どのような影響が起きるかをよく考えてみてください。

 テレパシーが実現し普及すると、悪い意識を個人の内部に隠しにくくなります。

 悪意という意識は周囲から軽蔑され非難されるので、悪意を自分の内側に保持し続けることは難しくなるのです。

 最初、個人の権利の侵害だと言うひともいるでしょうが、良い意識は恥じる必要はなく持ち続けられ、悪い意識のみが恥の対象となり放棄されるわけですから、それは良いことなのです。

 言ってみれば、これは知的生命における意識の進化につながることなのです。

 こうして意識の共有化、透明化は、相互理解を促進し、さらなる平等意識と博愛思想の拡大強化をもたらし、相互不信の産物である戦争も回避されます。

 そうです。

 テレパシーの実現は平和と博愛へつながる素晴らしい進化なのです」


 画面にプールで静かに泳いでいるイルカが映る。

「ところで、一部の人々が気づいているように、現在の体制は民主主義のふりをした、ごく一部の権力階級による支配体制です。

 彼らはあらゆる機会を使って、富とそれを維持する権力の偏在独占を進めています。

 私有財産、既得権、それを維持する政治、軍事権力を維持したい有産権力階級にとって、テレパシーが実現普及などして、悪意の元に行われている自分たちの保身活動が糾弾、壊滅させられるのはなんとしても回避しなければならないのです。

 あなたはテレパシーというものを過小評価して言うかもしれません。

 仮にテレパシーできる人間が、ひとりふたり、いや、もう少し多く、十人、百人、千人いたところで、何もできないだろう。

 そんなの体制にとって脅威じゃないだろうと。

 しかし、進化というものはある臨界値を超える『臨界ジャンプ』が起きると、怖ろしい疫病より早く伝わるものなのです。

 現在のニュータント絶対数はまだ極めて少数ですが、何も対策を実行せず自然に任せておくと、やがて加速度的なニュータント人口の爆発的増加が起こり、遠くない将来に政治的な一大勢力となり平和な革命を引き起こします。

 だからこそ、巨悪組織AAGはテレパシーを敵視しているのです。

 冷戦時代の研究成果により、テレパシーの危険性に誰よりも早く気付いた彼らはテレパシーの覚醒を芽のうちに踏み潰すことを決意し、そのためのリサーチと対策の研究に巨万の予算をつけて三十年も前に始動したのです」


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