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第12話 8.マックス救出作戦 後編



 外は曇り空で月もないから、プールは暗い沼のように見えた。


 ジュリがプールサイドに立つと、イルカたちはすぐに気づいて水面に顔を出し、キキキッと鳴いた。

「今晩は、みんな元気そうで安心したわ」

 ジュリがつぶやくと、ケンはカノンに尋ねた。

「ねえ、カノン、イルカたちは、こんちわ、こんちわと、挨拶してるのかい?」

「そうみたいね」

「こんばんわ」

 ケンが挨拶すると、イルカたちは嬉しそうに胸びれで水面を叩いた。

「お、俺の挨拶が通じたよ」

 ケンが歓喜して喜ぶと、カノンが両手を胸の高さで開いて手首を上にした。

「残念でした。

 ジュリ姉さんがサインだしたのよ」

 ケンはがっかりして片手で目を覆う。

 ジュリは笑って小さな声で指示を出す。

「マックス、お医者さんに連れてくわよ」

 するとカノンもマックスに語りかける。

「マックスの体の中を調べて悪いものがあれば、取り出してあげる。

 他のみんなは声をたてないで静かにしていてね」 

 するとイルカたちは揃ってキキと声を上げる。 

「わかってないわ」

 カノンが嘆くと、みんなは噴き出した。


 ケンはプールサイドの台車の上に、ビニールシートの端を二メートルほど広げて、台車

が動かないように押さえた。

「マックス、あの台車の上に上手に着地するのよ、できるわね」 

 カノンは、「マックス」と呼んで手でジャンプのサインを送り、台車を指差す。

 マックスは弧を描いてバックすると、ぐんぐん勢いをつけ前に進み、プール際で体を大きく反らせてジャンプ! 

 流線型の体は1メートルほど滑空して、シートの上に見事に着地した。 

 ジュリはマックスの頭を撫で、カノンも褒めてやる。

「えらいわ、マックス。

 でも夜のおやつは虫歯になるから、ご褒美はおあずけよ」 

 ケンはシートを引っ張って、マックスの重心が台車の中央にくるように調整すると、台車をゆっくり押して進みだした。 


 大きな音を立てないようにゆっくりとシャッターを開けると、待っていたエリザベスがSUVワゴンから降りてきた。

「マックス、もう少しで出れるから頑張って」

 カノンがマックスの体を撫でて、励ますとマックスはクウという鳴いて答えた。


 ケンはピックアップトラックに乗り込み、ジュリの誘導でバックして搬入口の段差にぴたりとつけた。 

 ホーライ博士はマックスの頭がピックアップトラックの荷台を向くように台車を動かし、台車のシートと荷台のシートを重ねる。

 ケンは荷台の水がこぼれないように後部のハッチ板を水平よりやや高い角度まで開き、その下のコンクリートに角材を入れて角度を固定した。

 しかし、ここでピックアップトラックの荷台のハッチ板が台車より10センチほど高くなっている。

「マックス、今度はさっきより難しいわよ」

 イルカの体重は三百キロ近いので、マックス自身のジャンプ力でピックアップトラックの荷台に跳び乗ってもらわなければならないのだ。

 ケンはジャンプの勢いが強すぎた場合に備えて荷台の中で待ち受ける。 

 ジュリはマックスの頭を撫でて言い聞かせる。

「この床を水だと思って、尾びれで思い切り蹴ってね。そして、あのピックアップトラックの荷台の中に着地するの」 

 カノンがジュリの言った言葉をそのままをマックスに繰り返してやる。

「この床を水だと思って、尾びれで思い切り蹴って、あのピックアップトラックの荷台の中に着地するのよ!」

 マックスはケエと返事をした。 

「いくわよ、はい、ジャンプ!」 

 ジュリが号令しサインを出すとマックスは床を蹴ってぴょんと跳びはねた。 

 しかし、高さが足りなくて、ハッチ板に口をぶつけて、そのまま後退してしまう。


「マックス、痛くてももう一度頑張って」

「マックス、痛くてごめんね、でももう一回頑張って!」

「さあ、もう一度、はい、ジャンプ!」 

 ジュリの号令が響く。 

 マックスはふたたび宙に跳びはねたが、今度もハッチ板を跳び越えられない。


 カノンがマックスをさすって勇気づける。

「大丈夫、マックスなら出来る。あと少しよ」 

 ジュリがマックスの隣に腹這いになり、体の反り方を実演してみせる。

「さあ、今度はマックスの番よ。

 はい、ジャンプ!」 

 号令をかけると、今度はマックスは全身のバネを効かせて放物線を描き、ピックアップトラックの荷台の中に落ちて水しぶきを上げた。 

「マックス、すごいね」

「あなたは天才だわ」

 カノンとジュリはマックスの体を撫でて口々に褒めてやった。 

 ホーライ博士は冷静に防磁シートをマックスの頭にかぶせた。

「マックス、このシートをかぶってれば、悪い奴に見つからないからな」

 ホーライ博士が言うと、カノンがマックスの声を伝えた。

「ありがとって、言ってるわ!」



 荷台にマックスを乗せたピックアップトラックは、夜明けの5時をまわった頃、サンノゼ病院の救急外来口に到着した。


 ホーライ博士が車から降りると、腕組みしたマック医師が迎えた。

「本当に来たのか?」

「うん、俺は有言実行だからな。患者は荷台にいる」

「うむ、ストレッチャーに移そう」

 マック医師は車輪付のストレッチャーを押してピックアップトラックの荷台にまわした。

「麻酔医はお前がやれるんだろうな」

「人間は無理だが、イルカ相手なら何度か経験があるから」

「こんなことがばれたら、俺はクビかもしれん」

「そうしたら、一緒にイルカ相手の病院を開こう」

「イルカの患者がそんなにいればいいがな」

 二人は笑い合った。


 ケンとジュリとホーライ博士はピックアップトラックの荷台の後部ハッチを開き、シートを持ち上げて防磁シートをかぶせたままマックスの体を押しながらストレッチャーの上に滑らせた。

「よおし、そこでストップ」

 カノンがマックスに状況を説明する。

「マックス、お医者さんに着いたから、これから頭の中の悪い機械を取ってもらうんだよ。 そしたら、もう逃げなくてよくなるからね。

 しばらくおとなしくしててね」

 マックスはウィンクを返した。

 

 ホーライ博士が血圧、脈拍を監視する中、マック医師のメスがマックスの脳内の電子チップに迫っていた。

 エリザベスは助手としてマック医師に手術器具を手渡している。

 ケンは、イルカの体内から発信機が摘発される様子をハンディビデオカメラに撮影していた。

 カノンとジュリは手術室に入るのは遠慮した。

「見えてきたよ」

 マック医師のメスの先にチップの小さな基板が姿を現した。

 ケンがビデオのためにナレーションを入れる。

「これは超小型の発信機になっていて、衛星などから電波で監視するためのものです」

「大きさはケンの脳に埋め込まれていたものよりやや大きいようだ。

 2センチ近いかな。

 うん、これはなんだ?」

 マック医師がチップを慎重に動かすと、上のチップの下にもう一枚小さいチップが重なっているのが見えた。

「どうもケンに埋め込まれていたチップより大きいね。

 性能が劣るせいなのか、逆に機能が増えたせいなのか、回路の設計が古いせいなのかはまだわからない。

 リード線が二本。一本は脳の中央に向かっているが、もう一本は側頭に向かっている。 側頭部の方はアンテナの役目もあるかもしれない。

 チップは、本来の組織と色や形状が明らかに違う五本の爪のようなもので固定されている、今から切除しよう」

 メスでチップに近い側の爪を次々に切断すると、チップをピンセットでゆっくりと取り出してゆく。

「今、チップがイルカの脳から切除されました。

 二枚重ねの電子回路基板です。

 つながっているリード線は比較的簡単に抜けました。

 誰がどのような企みでイルカにこのようなチップを埋め込んだのか。

 そして私の脳にも誰がどのような企みで同じようなチップを埋め込んだのか、これからチップの分析を手がかりにして、追求してゆきたいと思います」

 ケンは自分にビデオカメラを向けてコメントをしめくくった。

 マック医師は手早くマックスの頭を縫合して閉じた。

 マックスの乗ったストレッチャーが手術室から出て来ると、カノンとジュリが急いで駆け寄った。

「大成功だよ」

「よかったね、マックス」

 カノンが撫でるとマックスはウィンクするように一瞬目をつぶった。


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