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第11話 8.マックス救出作戦 前編

 8.マックス救出作戦 


 ホーライ夫妻と、カノン、ジュリは病室のケンを見舞った。


 病室に入って頭に包帯を巻かれたケンを見つけると、カノンは嬉しそうに言った。

「おじさん、元気そうね」

「そういうカノンこそ、不必要に嬉しそうだな」

「だって、私、今までお見舞いされるばかりだったもの。

 だから、誰かをお見舞いするのが夢だったんだ」

 ケンは苦笑した。

「なるほどね。

 お前の病気は大丈夫か?」

「うん、心配ないってさ。

 私、自分の意志で行動できたから強くなったのかもよ」

「そうか、よかったな」

 エリザベスが尋ねる。

「ケン、どう?

 麻酔が醒めて、頭はハッキリした?」

「まあまあですよ。

 だけど研究所で捕らえられた記憶はまったくないままです」

 ホーライ博士が言う。

「そうかもしれない、今回は発信機を外しただけだから」

「発信機はどんなやつでしたか?」

「1センチ2ミリ×1センチ4ミリ、厚さ1・5ミリの精密なチップだ。

 今、電子回路に詳しい矢野という男に見せているが、ひと目で現在の最高水準を越えていると言ってた。

 何しろ体内にあったのに電源が見当たらないことからして不思議だそうだ」

「そうですか。

 電波対策は大丈夫なんですか?」

「もちろんだよ。

 金網で囲った中で作業している」

 ホーライ博士が言うと、ジュリが疑問の声を上げた。

「金網って、そんなのじゃ隙間から電波が漏れてしまうんじゃないんですか?」

「いや、周波数に合わせた細かい金網なら電波は通らないんだよ」

「そうなんですか」とジュリ。

「不思議」とカノン。


 ケンはホーライ博士に言った。

「博士、その組織は僕らの無事を知ったら、また殺しにかかってくると思うんです」

「そうだな、その可能性が強い」

「その前に、僕の頭に入っていたチップを証拠として奴らを告発できませんか?」

「うん、告発か」

 ホーライ博士は顎を撫でて考え込み、言った。

「ひとつ注意しておかなければいけないことがある」

「なんですか?」

「相手が強大だという点だ。

 あの高性能の電子チップを開発したこと。

 大きな研究所をかまえていること。

 衛星を使ってイルカや人間を監視していること。

 今わかっていることだけを総合しても、相手の資金力、人員は、もしかしたら警察やFBIなんかより上かもしれない。

 場合によってはFBIやCIAの中にまで奴らの人間が入り込んでいる可能性も想定した方がいいかもしれない」

 ケンは追わず声を上げた。

「それじゃあ、博士は抵抗せずに逃げ続けろと言うんですか」

「いや、そうは言ってない。

 逃げるのも立派な作戦だから選択肢として残すべきだが、攻めるのも十分に可能だ。

 ただ相手が強大だから、作戦は念には念を入れて練らなければならない。

 私が言いたいのはそういうことだ」

「わかりました」

 ケンがうなづくと、カノンが発言する。

「博士、私はイルカのマックスから助けてほしいってテレパシーを受け取ったの」

「うん」

「だから、どうしてもマックスを助けたいんだけど。

 私たちにそれはできますか?」

「うん、できると思うよ」

 ホーライ博士はカノンに諭した。

「そのためには積み木をひとつひとつ積み上げるように、すきのないマックス救出作戦を組み立てるんだ」

「わかりました」


 ホーライ博士はカノンに質問を出す。

「まず、マックスは今、どこ?」

「シーパーク水族館」

「敵に存在を気づかれているかい?」

「たぶん、まだ、気づかれていないわ」

「なるべく水族館に気づかれないように救出したい。

 だとしたらいつ救い出すのがいい?」

「うーん、ジュリ、どう?」

 カノンはジュリを振り向いた。

「そうね、日曜の昼間が一番混むから、その後は疲れもあって、警戒がゆるむわね」

「つまり、今夜決行に決定だ!」

 ケンがやる気満々で言うと、ジュリが釘を刺した。

「ケンは手術したばかりなんだから、寝てなきゃだめよ」

「腹部や足の手術だったら無理だけど、頭は力がかかって傷口が開くこともないし、大丈夫だよ」

 カノンも心配して止めようとする。

「おじさんは手術したばっかりなんだから危険だよ」

「カノンが俺にマックスを助けてくれって頼んできたんだぞ。

 それなのに、肝心の俺がいなきゃ話にならないよ。

 こっそりここに戻れば感染があってもそんな大変なことにはならない筈だし、俺にやらせてくれよ、いいだろう?」

 するとエリザベスが言った。

「いいわよ、自分で責任を取れるならやりなさいよ」

「ありがとう、エリザベス」

「そうと決まれば私も協力を惜しまないよ」

「ありがとう、ホーライ博士。

 じゃあ、具体的な救出方法と必要な道具について考えよう」



 夜の十一時。

 月の明かりは穏やかな海面に蛍を放ったように映えている。

 シーパークに近い海辺にひと昔前のピックアップトラックが止まっている。

 長い荷台に、大きな防水シートが敷き詰められて、端っこは側面からはみ出している。

 そこへホーライ博士、ケン、ジュリ、さらにカノンまでがバケツに海水を汲んではあけていった。

 カノンが笑顔を見せて言う。

「おじさん、きっとうまくゆくよね」

「もちろんだ、何も心配ないよ」

「本当は私、すごく怖いの。

 あいつらが本気で怒ったら、そう思うとすごく怖い」

「心配するなよ、

 そんなに怖がってるとイルカたちに笑われるぞ」

 頭に包帯を巻いたケンは、ウィンクして見せた。

 荷台に水がたまり、水深が4センチほどになってきた。

「体を湿らすことができればいいから、こんなところでいいだろう。

 深くして重くなりすぎると、いざという時にスピードが出せない心配もある」


 昼間はライトブルーのシーパークの建物も暗灰色に眠っている。


 ケンの運転するピックアップトラックが裏の搬入口の前にそっと止まった。

 その後ろにホーライ博士の運転するSUVワゴンが止まる。

 ケンとホーライ博士は、ジュリが懐中電灯で足元を照らすのに従って、正門にまわった。


 大きな正門のすぐ脇には鉄製の従業員通用扉がある。

 ジュリは合鍵でその扉を開け中をうかがう。

 夜間は特別なことがないかぎり宿直の老いた警備員が一人いるだけだ。その守衛室の明かりも今は消えている。 

 ジュリは小声で「大丈夫、入って」とケンとカノンとホーライ博士を呼んだ。

 ケンとカノンとホーライ博士は素早く内側に入り、扉を閉めた。

 四人は敷きつめられた砂利の上をなるべく足音を立てないように歩く。

「悪いことしてる気分だね」 

 ケンがささやくとカノンもささやき返す。

「私たちはイルカを思いやって、助けてあげるだけ。

 ただ他人にわかるように説明するのが大変だから、こうしてこっそりしているけど悪いことじゃないの」 

 自分に言い訳するようなカノンの口調が可愛らしくて、ケンは微笑んだ。

 四人は守衛室のすぐ脇のドアを静かに開いて建物の中に入る。

 そっと足音を忍ばせてゆるい昇り勾配のついた廊下を渡りきると、顔を見合わせて四人は溜め息をもらした。 

「もういいよね」

 声を上げたカノンに、他の三人はシーと一本指を立てた。

 廊下の突きあたりが裏の搬入口へ通じる引き戸だ。



 搬入口の引き戸を引くと、コンクリートの床の二メートル先は八十センチほどの段差で落ち込み、そこが搬入車両の駐車スペースになって裏門のシャッターに面している。 

 四人は長さが1メートルを越す大きな台車にビニールシートを乗せて押し、イルカたちのいるプールに向かった。


「イルカたち、寝ているかな」

 ケンがつぶやくとジュリが教えた。

「カノンちゃん、知ってる?

 イルカって円を描いて泳ぎながら、片目を閉じて、頭の半分ずつ眠るの」

 カノンがびっくりして言う。

「へえー、器用なんだ」

 ホーライ博士が解説してくれる。

「身を守る本能だよ。

 イルカは肺呼吸だから本当は水面で寝たいんだが、でもプカーと浮いて寝ていると、敵に狙われるかもしれないだろう。

 だから泳ぎながら脳の半分ずつ眠るように進化したんだ」

 ケンがうなづいた。

「なるほど。でも泳ぎ疲れそうだな」


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