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第10話 7.ホーライ研究所

7.ホーライ研究所


 午前八時すぎ、ホーライ博士のクルーザー『パンドーラ二世号』はモントレー半島南部の入り江に入った。


「さあ、あそこが私の別荘兼研究所だ」

 博士の指差す先に、海岸の崖に建つ二階建てが見えた。

 年月が経っているため灰色だが、しっかりしたコンクリート造りだ。

「手前の海岸に洞窟があるだろう、あそこと地下の研究室とつながっているんだ」 

 なるほど海岸線に幅5メートル、高さ1メートルほどの洞窟が口を開けている。

 

 天然の跳び岩に板が渡され手すりがつけられた桟橋を渡り、みんなはホーライ博士の別荘の中に入った。

「博士、下の研究室はどうなってるんですか?」

「うん、じゃあみんなで降りてみよう」

 階段を降りると、そこは5メートル四方程度の部屋になって、応接セットが中央にあり、壁際に資料棚や機材棚が並んでいる。

 もちろん地下だから明かりは蛍光灯だけだ。

「ここは応接室兼資料室だ。この扉の先が研究のメインルームだ」


 博士がドアを開くと、そこは洞窟へ向かって高さ70センチほどの窓が開いていて、それほど明るくはないが、資料室より開放感があった。

 デスクがふたつあり、パソコンが並んでいる。

「ここなら電波は外に漏れないだろうから、ケンもターバンをとってのんびりできるよ、ソファーベッドもあるしね」

 カノンが窓に近寄って声をあげた。

「すごい、さっきの洞窟だあ」

「サッシ窓は格子鉄線入りの強化ガラスで、洞窟に通じるドアは船に使われる防水扉になっている、床の基礎自体も一メートル高くなってるから、万が一潮位が少しあがっても浸水はない設計だ」

 ホーライ博士は防水扉についている四個のレバーを開いて、扉を開けた。

「すへりやすいから足元に気をつけて、階段を六段おりるよ」


 洞窟に出てみると、外側から見たより内側は広く、幅6メートル、高さ4メートル、奥行き8メートルほどのホールになっている。

 そして研究室側2メートルほどはプールサイドのようになって、その下が海につながっている。

 カノンが言った。

「ここならイルカの餌付けできるかも」

「うん、ここに来るイルカは外洋に出ているわけだから餌付けの必要はないが、毎日、地元のイルカが来るんだよ」

 ホーライ博士が言うと、カノンが嬉しそうに続けた。

「すごい、そうだ、おじさん、マックスもここで飼おう」

 カノンはホーライ博士を振り向いて頼む。

「博士、いいでしょ、そしたらマックスとテレパシーの研究がゆっくりできるわ」

「ああ、それは楽しみだね」

 ホーライ博士も微笑んだ。

 それを見てケンはジュリに言った。

「ジュリ、陰謀は間違いなさそうだから、マックスを助け出す約束を果たさなきゃならないよ」

「そうね。大変だけどマックスを助けてあげないと」

「うん、できるだけ早く実行しよう」

 

 ホーライ博士夫妻、アルミホイルのターバンを巻いたケン、それにカノン、ジュリの五人は博士のSUVワゴンに乗り、町をふたつ越えて、公衆電話からカノンの母親に電話した。

 カノンの母親には昨夜のうちに、携帯の衛星電話を使い、船の故障で海洋大学の調査船に移ったと伝えてあったが、安心させるためもう一度連絡したのだ。


 まずジュリが無事を知らせる。

「お母さん、すみません、シーパークのジュリです。

 先ほど、陸に戻りました、モントレーの南です。

 今回は心配かけて、すみません」

 ジュリは謝った。

「今、お嬢さんに代わります」

「あ、お母さん、心配かけてごめんなさい。

 でもカノンは大丈夫だから安心して。

 そう。私の携帯も潮風のせいで使えなくなったの。

 大学の先生に変わるね」

「昨夜はどうも。海洋大学のホーライです。

 お嬢さんは元気そうですから、ご安心ください。

 いえいえ、困った時はお互い様ですから。

 これから私の同期の医師に診断してもらって状態がよければ、さっきのジュリとケンという青年が付き添ってお返しいたしますので。

 つきましては加入されてる医療保険のコードを教えていただけますか?」

「はい、はい、わかりました。

 とにかくお嬢さんは大丈夫ですから、はい」

 母親に印象のよくないケンは電話に出ず、ホーライに早く受話器を置いてと手で指示した。

「安心して自宅でお待ち下さい。

 はい、おまかせください」

 ホーライは受話器を置くと、パンパンと手を叩いた。

「さあ、今日はやることがいっぱいだ、さっさと車に戻って」


 一行は次にホーライ博士の同級生が外科医を勤めるサンノゼ病院に向かった。


 ホーライ博士が一行を引き連れて外科の診察室をノックすると、ドアが開いて、黒い髪のクルーカットの白衣の中年医師が現れた。

 ホーライ博士は日系混血だが肌も白っぽく一見アジア系には見えないが、ソノダ医師はアジア系の血が濃いようで肌も黄色だ。

「マック、久しぶり」

「イルカ博士、久しぶりだな。

 やあ、奥さん、ごぶさたです。

 今日はずいぶん連れが多いな」

「みんな、彼はマック・ソノダ、西海岸一の脳外科医だ」

 みんな、ソノダ医師と握手を交わした。

「イルカのセンセイ、そんな誉めてもアルコールは消毒用しかないよ」

 ソノダ医師は笑ってみんなを招き入れた。

「急に押しかけてすまんな」

「なに、診察がひといきついたところだ、丁度、いいタイミングだよ。

 しかし、お前から診察の頼みとは珍しいな」

「診てもらいたいのは俺じゃない。

 こっちのカノンちゃんの心臓と、ケンの脳外科手術を頼みたい」

「ふうむ。医療ブローカーでも始めたのか?」

「まあ、そんなとこだ」

「じゃ、お嬢ちゃんは、胸部内科にまわってもらおう。今、紹介のメモを書く」

 ソノダ医師はメモにすらすらと指示を書いてホーライ博士に渡した。

「じゃあ、ベスとジュリはカノンちゃんを内科に連れて行ってくれるかい?」

「わかったわ」

「終わったら待合フロアにいてくれ」

「カノンちゃん、きっと大丈夫だから、安心して」

 ケンが言うと、カノンはうなづいて、エリザベスとジュリと一緒に出て行った。


 ソノダ医師は椅子にどっかと座り、

「じゃ、ちょっと外見を見ようか?

 そのタオルのターバンを外してくれるか」

 ホーライ博士が言う。

「マック、ここじゃまずいんだ」

「どういう病気なんだ、伝染性か?」

「そうじゃない、その裏に看護士は?」

 ホーライが顎でカーテンを指すと、ソノダ医師は大きな声で言った。

「ミランダ、休憩してこいよ」

 カーテンが開いて、ナースが「ありがとう」と部屋から出て行った。

「マック、信じられないかもしれんが聞いてくれ。

 この青年は漂流しているところを私が助けたんだが、悪の組織に狙われているんだ」

「おいおい、ドラマの観すぎじゃないのか」

「とにかくこのケンはある研究所で捕われ、クルーズの途中で拳銃で殺されかけたんだ」

「本当に?」

「俺も信じられなかったが、嘘をつくためにわざわざ鯨の背中で決死の漂流をするほど暇な人間はいないからな」

「なるほど。

 で、脳外科手術というのは?」

「これだ」

 ホーライは小型無線機を見せて言った。

「このスキャナーで調べたら、頭部から電波が出ているんだ。

 監視のための発信機らしい。

 そいつを取り除いてほしいんだ」

「ふうむ、こりゃ初めてのケースだ。」

「だから診察も電波を遮蔽できる部屋でしてほしいんだ」

「わかった、MRIの検査室に行こう」

 ソノダ医師はケンをMRI検査室に入れて、脳内にあるチップを確認すると、救急部門の麻酔医と助手をつかまえ、すぐに手術が行われた。


 二時間後、ソノダ医師が手術棟から出てくると、ホーライは急いでソファから立ち上がった。

「どうだ?」

「成功だ」

「そうか、ありがとう」

 ソノダ医師はフロッピー用の防磁フォルダーをホーライに手渡しながら、興奮した口調で続ける。

「しかし、このチップを埋めた技術はすさまじいもんだ」

 ホーライ博士は無線機のスキャナーを起動したが、電波は漏れていない。

「チップの大きさは1センチ超すが、入れる時の手術跡は頭部に3ミリの穴しかない。

 おそらく狙った深さにセットして、丸めておいたチップを開いて埋めたんだろうが、あんなの神技だぞ。

 この技術、きっと脳外科やいろんな外科に役立てられると思う。

 ちょっと教えてほしいもんだよ」

 ホーライ博士は指で宙をノックするようにして言う。

「うん、二度と帰れなくてもよければ、教えてくれるかもしれないぞ」

「あれだけの技術、もったいない」

「それでケンはどれぐらいで退院できる?」

「うん、出血は最小限で済んだし、感染がないと確認できれば数日でいけるだろう」

「ありがとう」

「おかげで飯がドーナツだ」

「今度、うまいものを奢るよ」

「イルカの餌ならいらないぜ」

「うん、勘がいいな。

 次に来る時はイルカの患者を連れて来るかもしれないんだ。

 頼んだぞ」

「ハハッ、こうなったらヤケだ。イルカでも鯨でも、なんでも連れて来やがれ」

 ソノダ医師は豪快に笑った。



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