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3,ループX7

 夏の昼下がり

 わたしは海岸に建つ展望台を外側を取り巻く螺旋階段を上っていく。

 ぐるぐると、2周して屋上の見晴台に出る。

 さあ出たと、丸い屋上に踏み出そうとした瞬間、手すりの陰から何者かが立ち上がって、わたしは顔面に衝撃を受け、一瞬で意識朦朧とし、倒れた体をどうすることも出来ずにわたしを殴ったであろう何者かに引きずられ、持ち上げられ、手すりの外へ、下へ、投げ出された。

 ぶんと後頭部に風圧を感じ、ガンと、激しい衝撃を受け、

 わたしは意識を失った。




 夏の昼下がり

 わたしは海岸に建つ展望台を外側を取り巻く螺旋階段を上っていく。上がるに従い微妙に音の聞こえ方が違ってくる。丘の下の音が直接聞こえてくるようになるのだ。

 ぐるぐると、2周して屋上の見晴台に出る。

 さあ出たと、丸い屋上に踏み出そうとした瞬間、何か変な気がして、あっと思うと、手すりの陰から何者かが立ち上がって、わたしは顔面に衝撃を受け、一瞬で意識朦朧とし、倒れた体をどうすることも出来ずにわたしを殴ったであろう何者かに引きずられ、持ち上げられ、手すりの外へ、下へ、投げ出された。

 ぶんと後頭部に風圧を感じ、ガンと、激しい衝撃を受け、

 わたしは意識を失った。




 夏の昼下がり

 わたしは海岸に建つ展望台を外側を取り巻く螺旋階段を上っていく。

 沖の海が波に日を反射させてキラキラ輝いている。

 わたしは下の浜で遊ぶ海水浴客たちを眺めてやろうと、ぐるぐる、階段を上っていく。

 2周して屋上の見晴台に出る。

 さあと、丸い屋上に踏み出そうとした瞬間、ふとわたしの足が止まった。

 なんだろう、とても嫌な感じがする。

 向こうの手すりの陰に何か不吉な物が見えたと思ったら、

 手前の手すりの陰から何者かが立ち上がって、わたしは顔面を何かで強打され、一瞬で意識朦朧とし、倒れた体をどうすることも出来ずにわたしを殴ったであろう何者かに引きずられ、持ち上げられ、手すりの外へ、下へ、投げ出された。

 ぶんと後頭部に風圧を感じ、耳にヒュルと風を切る音がして、ガンと、激しい衝撃を受け、

 わたしは意識を失った。




 夏の昼下がり

 わたしは海岸に建つ展望台を外側を取り巻く螺旋階段を上っていく。

 沖の海が波に日を反射させてキラキラ輝いている。

 サアーサアーという波の音に混じって下の砂浜できゃっきゃと騒ぐ海水浴客たちの歓声が聞こえる。

 わたしは色とりどりの水着の女の子たちを想像して、上からのんびり眺めてやろうと浮き浮きと階段を上がっていく。

 屋上の見晴台に出ようとした瞬間、向こうの手すりの黒い陰の中に、何か生々しい物が横たわっているのを目にし、ギョッと立ちすくんだ瞬間、手前の手すりの陰から何者か黒っぽい奴が現れ、ゴツッと、固い、中身の詰まった瓶か何かで顔面をしたたかに殴られ、わたしは一瞬で意識朦朧とした。

 手すりから外へ投げ捨てられ、わたしの意識は完全に失われた。




 夏の昼下がり

 わたしは海岸に建つ展望台を外側を取り巻く螺旋階段を上っていく。

 デジャヴュというものか?

 どうもわたしはさっきから何度もこの階段を上っている気がする。

 螺旋階段の登り口と出口がつながって、無限ループを作っているとでもいうのだろうか?

 馬鹿馬鹿しいと笑えればよいのだが、どうも笑えない重苦しさがある。

 仮に、わたしが何らかの理由で無限ループの中に閉じこめられたとしよう。

 しかし、純粋に同じことが繰り返されているだけなら、わたしがこうして自分の繰り返しに疑問を抱くこともないだろう。

 疑問を抱いた時点で、前回とは違う時間を作りだしているのだ。

 そしてわたしは、出発点へ向け、落下していく。

 この繰り返しから脱出することは出来るのだろうか?




 夏の昼下がり

 わたしは展望台の螺旋階段を上がっている。

 足取りは重い。

 何故だろう、このせいぜい5メートル程度の高さの螺旋階段が、永遠にぐるぐる続いているような気がする。

 わたしは既に、数限りなく、この螺旋階段を上ってきたような気がする。

 2周分の螺旋階段は、すぐに屋上の入り口にたどり着く。その終点が見えてきたところで、わたしは立ち止まり、じっと、見上げた。

 あそこに行ってはいけないと、わたしの頭の中で警報が鳴る。

 あそこに何があるというのだろう?

 わたしはそれを知っているような気がする。

 すっかりまぶしい光に慣れた目に、コンクリートの影が黒く、その暗い中に、白い、なまめかしい脚が………

 じっと見上げたまま立ち止まっているわたしは、背後の声にギョッと振り返った。


「駄目だよ。あんたは、もう」


 もう、なんだ?

 わたしは顔面に衝撃を受け、手すりから放り出され、頭から固い地面に。




 わたしは螺旋階段を上がっている。

 波の音と砂浜の歓声が頭の中でガンガン鳴り響き、鼓膜が破れ目玉が飛び出しそうな圧迫感を感じる。

 わたしは何か拷問を受けているのかと思う。

 ゴールはすぐそこに見えているが、あれはまた始まりに過ぎないのだろう。

 あそこで恐ろしいことが起こる。

 そうと分かっていて、わたしはその罰を受けなくてはならないのか?

 何故?


 分かってるんだろう?

 認めちまえよ?

 あんたは、もう


 もう、

「死んで……」


 階段の途中で立ちすくんでいるわたしに、何者か近づいてくる気配を感じた。

 下から、ひたひた、わたしを追い立てるようにゴム草履の足音が登ってくる。

 わたしは絶望的な気持ちで、上へ逃れて歩き出した。

 すると、怖くて近づきたくない、見たくもないところから、ぴちゃり、ぴちゃり、と、水音を滴らせながら、何者かが現れた。

 わたしは恐怖に目を見開き、悲鳴を上げることも出来ず口をわななかせた。

 頭から顔面に鮮血を滴らせながら、青黒い、ものすごく怖い顔をしたビキニの女が現れた。

 女は恨みのこもったような手でわたしを指さした。

 いや、わたしの後ろを指さした。

 えっ?と振り返ったわたしは、ラムネの瓶で思い切り顔面を殴られた。

 手すりから放り出されながら、上の手すりからわたしを見下ろしている女の顔が見えた。

「駄目よ。あなたは、まだ」

 わたしは後頭部に衝撃を受け。






 病院のベッドで、わたしは目を覚ました。

 頭蓋骨折と大量出血で七日間、意識不明で生死の境をさまよっていたそうだ。

 わたしが落下した展望台の屋上で、若い女性の死体が見つかっていた。

 彼女を殺害したと疑われる容疑者は5人いた。彼女と友達の女の子グループにしつようにナンパを掛けていた男たちのグループだ。

 わたしは、自分を殴って屋上から投げ捨てた男をはっきり指さすことが出来た。全身くまなくこんがり日焼けした野郎だ。

 その展望台は車道から離れ、前を通る歩道も先が行き止まりになっていて、下の浜から上がってくる階段は雑草に埋もれていて、あまり人の来ないところだった。

 それまでしらばくれていた容疑者の男も、わたしが生きていて、はっきり顔を見られていたと分かって、観念し女の子を殺害したことを認めた。殺すつもりはなく、ちょっとした事故だったんだとお決まりの言い訳をしたが、あの女の子のすさまじい怒りの形相からとてもそうは思えない。それに、目撃者であるわたしを殺そうとしたのは間違いない。

 わたしが螺旋階段の無限地獄から解放され、この世に生還できたのは、犯人に罪を償わせたい被害者の女の子の執念だったのだろうと思う。



 終わり

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