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13,悪魔の立体錯誤

 最近3D映画もすっかり定着して、過去の名作の3D化再上映などもされている。

 ここにもそうした一つの企画があり、着々と3D化作業がされていた。

 2Dで撮影したフィルムを3D化するには専用のソフトを使ってコンピュータ上で左右の視覚に合った2つの映像を再構築する。フィルムをデジタルデータに変換してコンピュータに取り込んでしまえば後はコンピュータが勝手に3D映像を作り出してくれるのだが……

 そうして出来上がった映像を実際に3D用眼鏡をかけてチェックしていたスタッフが激しい目の痛みを訴えて病院へ急送された。

 彼は左右の目の軸が著しくずれた、斜視(しゃし)になってしまっていた。

 いったいどうしてそのようなことになってしまったのか?

 3D化が行われていたのはある有名なホラー映画で、悪魔を扱った物といえばホラーファンなら、ああ、あれか、あれだな、と見当がつくだろう。

 この映画はサブリミナル効果が使用された映画としても有名で、認識出来るか出来ないかのほんの一瞬、物語の進行とは全く関係ない「イメージショット」が挿入されることにより観客の潜在意識に「恐怖感」を植え付ける効果を狙っている。実際に効果があったかどうかは微妙だが、後から情報を知って、ああ、だからあの映画はあんなに不気味な感じがあったのか、と納得させられはした。ちなみに、ヒッチコックの有名なスリラー映画「サイコ」のラストでも、サブリミナルとは違うかも知れないが、犯人の顔にうっすら骸骨がオーバーラップされている。

 このサブリミナルイメージはいくつか挿入されているのだが、中でも強烈なのが、真っ暗な闇からぬっと原始人のような男の顔が現れた、ような写真で、これまた有名な物だから資料で見た人も多いだろう。

 どうやら試写を見ていたスタッフに斜視を発症させたのはこの映像らしい。

 別のスタッフがそれと見当を付けた上で注意しながら3D眼鏡をかけて確かめたところ、彼もまた目に強烈な痛みを感じ、慌てて検証を中止した。

 いったい何が起こったのか?

 元々が一枚写真なので、出来上がった二つの静止画をそれぞれ見た段階では何が問題なのかまったく分からなかった。3D眼鏡を掛けても最初は分からなかった。暗闇からぬっと現れた原始の男の叫ぶ顔が迫力ある立体で見えるだけだ。1秒にも満たないほんの短いショットだが、それでも数コマはある。ゆっくりスロー再生させて見ていったスタッフは、突如、目玉がグリッと、神経をぶっちぎるほどの強烈さで引きつった。

 ここでスタッフは慌てて目を閉じ、眼鏡を外し、最初の彼のように斜視が固定されることは免れたが、数時間目薬をしながら目を閉じていなければならなかった。

 いったい何がどうなったのか?

 連続する数コマの中で、立体の凹凸の反転が起こっていたのだ。真っ黒な背景で、異様な表情の顔はコンピュータの計算を狂わせ、ほんの微妙な明暗の差で立体を逆に作り出してしまったらしい。映像を連続で見ていた視覚は、同じ内容の突然の立体の逆転に、無理やり協調しようと矯正し、視神経に無理な負荷を掛け、視軸を狂わせてしまったのだ。

 しかし、スロー再生ならともかく、最初の彼の場合、ほんの1秒に満たない瞬間的な映像にそこまでの力があるか?

 問題の箇所は他にもあるのかも知れないが、その検証は危険なため中止され、このホラー映画の3D化計画は打ち切られることになった。

 ホラー映画ファンには残念だっただろうか?

 なお、この情報は現在極秘扱いで、映画会社に問い合わせても「そんな話はありません」と怒られるので問い合わせたりしないように。


 おわり

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