10. ペルシェ大量捕獲作戦(4)
子供と視線を合わせ、膝をついたリーシェが笑顔でリボンの端を渡す。
リボンの先はペルシェの尾に結びつけてあり、軽く引くとペルシェがリボンに引かれてふわふわと空中を漂いながらついてくる。
「夜になる前に、ちゃんとリボンをといて、外に逃がしてあげてね。ペルシェさんもおうちに帰るから」
「はぁーい!」
元気よく返事をした子供は、リボンをひくと、ふわふわ、ゆらゆらとついてくるペルシェにご満悦のようだ。心地よい風に揺れる長いヒレがお気に召したらしく、陽光を反射してキラキラ光るそれに夢中だった。
友達と並んで歩いてみたり、おそるおそる触れてみたり。
思い思いにプレゼントのペルシェを愉しんでいるようだ。
リボンの束を持ったキジャが、一本ずつリーシェに渡し、リーシェが一人一人に配っていく。
その様子を見て、クラリスは嬉しそうに笑った。
「あれはね、東の国、長空では『気球』、シラハナでは『風船』って呼ぶ、子供のおもちゃだよ。本当は、紙袋なんかに軽い空気をつめて飛ばすものらしいんだけど、きっとペルシェなら綺麗だから『風船』の代わりになるんじゃないかって、リーシェと相談して決めたんだ。きっと喜んでくれるだろうなと思って」
「ほう、それでペルシェを捕まえたかったわけか」
ブッカートは感心したように頷いた。
「ブッカートさん、お手伝いしてくれてありがとうございました。みんな、とっても喜んでくれました」
「いや、俺は何もしていない」
首を横に振ったブッカートだったが、クラリスは気にせず続ける。
「お礼はペルシェよりお菓子の方がいいですよね。キジャさんじゃないんだから、ペルシェ食べたりしませんよね? 今度、クレイアのところのお菓子もって、遊びに行きます」
「……ああ、待っている」
その返答に満足したクラリスはにっこりと笑った。
そして、ぽん、と手を叩く。
「そうだ、レインにもひとつあげるね!」
満面の笑みでリボンを差し出したクラリス。
そのリボンの先にはペルシェがひらひら、これは明らかに確信犯と見ていいだろう。
レインの脳裏に子供のころの、苦い思い出が蘇る。
目の前が虹色に染まったあの瞬間――
「いらねぇよ!」
クラリスにくるりと背を向け、駆けだそうとした目の前に、黒い壁。
師匠の熱い胸板にしこたま鼻を打ちつけたレインは、恨めし気に涙目で見上げた。
「礼はすべきだ、そして受け取るべきだ」
「何だよその理屈!」
襟首を掴まれ、逃げ場をなくしたレインの眼前にこの世で最も忌み嫌う生物が迫る。
孤児院の庭に、レインの悲鳴が響き渡った。
リライラ・ディの夕方、赤い陽に照らされて黄金色に光るペルシェの大群が、孤児院から飛び立ったのを、ティル・ナ・ノーグの住人達が目撃した。
黄金色の帯は、揺らめくように棚引きながら、妖精の森へと消えていったという。
クエスト完了。