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ステラティア ~魔女狩りの剣士とエルフの神官と~  作者: 八月森


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20話 何度だって

 あたしは今、ステラに唇を奪われていた。


 なんで? どうして? ステラは、あたしのことをそう思って……? 正気に戻ったの? ……だとしても戦闘中にする?


 混乱する頭。紅潮する頬。瑞々しい彼女の唇の感触に体温が上がっていく。が――



「……!?」



 その熱が、急激に失われていく。触れた唇から何かを吸い出されているような感覚が、あたしの身体を襲っていた。身体から力が抜けていく。手足に力が入らず、ガクガクと震え、やがて膝をつきそうなほどになり……対照的に、ステラの身体から発される魔力が、増大していく。



(これ、もしかして……!?)



 身体を動かす体力――『精霊』を奪い取られ、それが即座にステラの魔力に変換されている……? まるで、デュエッサが血を吸うことで自身の力に換え、傷を癒したように――



(つまりこれが、ステラの魔女としての能力……!?)



 相手から体力を奪い、自身の魔力に換える。対象と接近する必要はあるが、それでも強力な能力だ。これならば、デュエッサが命じたように無力化することは容易い。現に、あたしの身体に動く力はほとんど残されていない……



(……でも、さ。一つ、忘れてない、ステラ……? あたしには、『むじんぞーの体力を得る』加護があるんだよ……!)



 胸の中心が熱くなり、その熱が全身を巡る。体力が即座に回復していく。床に膝をつきそうになっていた足に力を入れ、奪われていた唇を引きはがし――



「――ぷあっ! 《葬炎――クリメイション!》」



 密着したステラの身体に拳を押し当て、祈りを唱える。拳から生み出された白い炎が、彼女の身体に着火する。



「――っ!? う、あ、ああぁぁぁ!?」



 聖なる炎はステラの全身に広がっていき、やがて呑み込む。身体を(むしば)んでいた穢れを焼かれる熱と痛みに、ステラが苦悶の声を上げる。ごめん、ステラ……でも、考えるのが苦手なあたしに思いつくのは、この方法だけだったんだ……



「う……」



 やがて炎が収まると、ステラはその場でガクリと膝をつき、座り込む。表情は俯いていてよく見えない。あたしは少し距離を取って様子を見る。


 クレアとセシリアの時は、これで元の人間に戻すことができた。でも、元々魔女だというステラの場合はどうなる? 人間になる、んだろうか? あたしと一緒に旅をしていた頃の、穏やかな人格に戻すことはできるんだろうか……?



「ステラ……?」



 恐る恐る呼びかけ、彼女の様子を固唾を飲んで見守る。時間にすればわずかなもの。けれどそれは、ひどく長く感じられて……次にステラが動きを見せた時、あたしはビクリと反応してしまう。


 ステラは、傍に落ちていた黒剣に手を伸ばしていた。もしかして……



(《火の章》の炎はステラを苦しめただけで、穢れを焼き切ることはできなかった……?)



 彼女を元に戻すことは、叶わなかったんだろうか……? そう考え、諦めが一瞬頭を過ったのを、気合いで軌道修正したところで……


 ステラが、両の手で逆手に握った黒剣を、高く掲げた。



(……?)



 初め、その動きの意味が分からなかった。こちらを攻撃するようなものではなかったから。


 でも次の瞬間、あたしの直感は彼女が何をしようとしているのかを理解してしまった。ステラは掲げた黒剣を勢いよく振り下ろして、()()()()()()()に突き刺そうと――



「わあぁぁぁ!? 《プ、プロテクション!》」



 バヂィ――!


 あたしが慌てて張った光の盾は、彼女に迫っていた切っ先をかろうじて防ぐ。反発で弾かれ、転がっていく黒剣。



「な、何してんの、ステラ!」



 思わず叫ぶと――



「止めないでくださいティアさん! 私は、魔女なんですよ!」


「――……」



 それは、待ち望んでいた彼女の声、彼女の言葉。あたしが知っているステラのものだった。この彼女を取り戻すために、あたしたちはここまで旅をしてきたのだ。その感慨に浸りたいのはやまやまなんだけど……今の言葉は、見過ごせない。



「魔女なのは分かってるよ! だからってどうしていきなり自分を刺そうとしてるの!」


()()()()()()()()()()()()からです! 私は、ずっと前から決めていたんです! もしまた、私の意識が悪意に呑まれるようなことがあれば、その時は自分の手でけじめをつけようと!」


「――っ!」



 初めて出会った夜、魔女デュエッサと対峙した際のステラを思い出す。『魔女は全て私が殺します』。あの言葉は、ステラ自身のことも指していたのだ。それが彼女の覚悟だったのだと、ようやく理解する。



「……どうして、来てしまったんですか。魔女の私なんて、放っておけばよかったのに。ここまで来なければ、ティアさんを傷つけることもなかった……来ないことを、願っていたのに」


 あぁ、そっか……彼女は自分の身より、()()()()()()()()()()のほうを恐れていたんだ。それは、邪悪な魔女ではありえない、優しい、けれど悲しい、善良な心持ちで……あたしは彼女に歩み寄り膝をつき――彼女を、抱き締める。



「――来るよ。来るに決まってる。そんなステラだから、あたしは助けたいと思ったんだよ。魔女かどうかなんてどうでもいいんだよ」


「ティア、さん……」



 ステラの身体が震える。肩に冷たい雫が流れ落ちた。それを落ち着かせるように、抱く力をぎゅっと強める。



「だから、死のうとなんてしないで。一緒に生きてよ。あたしたち、まだ出会ったばかりなんだよ。もっとステラのこと知りたいよ」


「……本当に、いいんですか? 私が魔女なのは否定しようがありません。いつかまた、ティアさんに刃を向けてしまうかもしれないんですよ……?」



 あたしはステラから身体を離し、彼女の肩に手を置いて、笑みを浮かべて見せる。



「初めて会った時に言ったでしょ。『ステラなら信じられる』って。それに、もしそうなっても、今回みたいに正気に戻してみせるよ。何度だって」



 そんなあたしの宣言に、ステラは――



「……ですから、それ、なんの根拠も、ないじゃないですか」



 ――涙をこぼしながらそう言って、困ったように笑ってくれるのだった。


 パチ、パチ、パチ、パチ


 軽薄な拍手が響く。音のほうに視線をやれば、玉座に座るデュエッサからのものだった。



「感動的な再会だったわねぇ。わたしの胸にもちょっとだけ響いたわ」



 わざとらしく涙をぬぐうフリなどしながら、魔女は言う。



「でも、ざぁんねん。あなたたちの旅はここでおしまい。二人とも……いえ、後ろのあの子たちももう一度、まとめてわたしの眷属にしてあげる。一緒にこの世界をめちゃくちゃにしましょう? まずはこの街から、ね」



 魔女の言葉を聞いたステラは、あたしが肩に置いていた手をそっと外し、その場で立ち上がる。あたしもそれに続く。



「それが、貴女の目的ですか、デュエッサ」


「ええ、そうよ。アスタリアの生み出したもの全てに悪意の手を伸ばす。それが魔女の在り方だもの」


「その在り方自体に疑問はありません。私にも、身に覚えのあることですから。だから、聞きたいのは一つだけです」



 ステラの瞳に、何かを探るような鋭さが宿る。



「――なぜ、()()()()()()()のですか」

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