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07 南区までの道のり

南区にある緑の館までもう少し。

この世界のひとたちなら一瞬で移動できるそうだけど、わたしには無理。なので町並みと道を少しずつ覚えなければならない。ちゃんと覚えきるまではウォレスが付き添ってくれるらしい。


「ウォレス、さんは・・・」


いけないけない。つい呼び捨てにしそうになった。

いくらあんな宣言をされたとしても、年上そうなひとを呼び捨てるなんて。


「ウォレスとお呼びください。」


右手を胸にあてて、にこっと。

やや小首を傾げたその様子はまさに爽やかな騎士だった。


「じゃあわたしのことは、みなもと呼んでください。」

「そ、れは・・・できればご主人自身の名をお呼びしたいのですが・・・」

「??・・・あ!そうかそうか。えっと、まぎらわしくてごめんなさい。姓が笠鷺で名前がみなもなの。」


ということはフラウは名前で呼んだのではなく、姓のつもりだったの?あの瞬間、ちょっとどきっとしたのに。少し剥がれかけていたフラウのシールをしっかり貼りなおす。うん、彼はいまも鑑賞用だ。

でもよく笠鷺の“ぎ”と、みなもの“み”の境目がわかったな。たまたま真ん中あたりで区切ったら当たってただけか?・・・ま、いっか。今度からこの世界で名乗るときは姓をあとに言わなくては。読んだ本の中にもそういうのあったのにすっかり忘れてたな。うーん、案外パニックだったのかもしれない。


「そう、だったのですか・・・申し訳ありません、てっきり・・・そうだ、あとで殿下にもお伝えしておきますね。」


少し気落ち気味にそう言ったウォレスだったけど、セリフの後半を口にしたときの目が顔は笑っていたのにちょっと冷たかった。もしかしたらさっさと言っとけよ的なことを思ったのかもしれない。ごめんよウォレス。



「それにしてもウォレスはあんな初対面で、よくわたしの面倒みる気になったね?誰かのお世話するの好きなの?」


ふと疑問に思っていたことを口にする。


「いえ、別段ひとのお世話が好きなわけではありませんよ。俺の足を踏んだのがミナモ様だったからそうなっただけで、他のものなら斬って捨て、いえ、放置ですね。」


いままたしても幻聴が・・・うん、気にしない。わたしは何も聞かなかった。

ただ名前に様をつけられるって寒気がするほど恥ずかしい。でもこれを断ったら人前でご主人と呼ばわれるのか?どっちにしろ恥ずかしい思いをするなら、もうこっちでいいのかも。


「わたしのこと何も知らないしフラウの紹介もまだの“どこの馬の骨とも知れない人間”だったのに?」

「ははは、ミナモ様が何者でもかまいませんよ。その踵が俺の足を踏んだのですから当然の成り行きです。」


・・・なにが?なにが当然なの??

大きく頷き満面の笑みを浮かべる顔からそっと視線をはずす。深く聞いてはいけないと思う。


「えーっと、最初フラウは恐ろしい作り笑顔向けてきたよ?」

「それはまあ、フラウス殿下ですからね。それに人の上にたつものが初対面の人間を無条件で信じるようなことはしませんよ。」

「じゃあ、よくわたしのこと信じてくれたね。」


怪しい人間が寒いと言ったからってあんな素敵な部屋に連れてってくれるなんて。それとも無害に見えたのだろうか?ふーんと少し頷きながら、視線を下げて道に並んだ石畳を見る。


「信じたというか、それをいろいろ解決するためにあの部屋に移ったわけなんですが、じっくり見て殿下も気づいたんでしょう。髪の色が単一で魔力がない人間はこの世界にはいませんから。俺もその髪に見惚れていて、うっかり距離をあけるのを忘れたおかげで足を踏まれてしまいましたし。」


ふふっとはにかんだ笑顔を向ける白衣の騎士。

もちろん後半は聞かなかった。ウォレスの扱いに少しは慣れた気がする。

それにしてもいろいろ解決って何?・・・さらっと言ってくれたけど、それはわたしが拷問でも受ける可能性があったということでは?魔力ゼロは正直残念だけど拷問に比べたらマシだったのかもしれない。


「そういえば部屋を移動したのって一瞬だったよ?どうしてウォレスは突然現れたわたしに驚かなかったの?」

「ああ、それはミナモ様が部屋を移ってくる前にフラウス殿下から連絡をいただいていたんですよ。“異世界人と名乗る人物が召喚の間にいる、今から連れて行く”とね。」


あ、もしかしたらあの移動の呪文と思っていたものがそうだったりしたのかも?そう思い出して、もう一つ疑問がわく。じゃあリーフェスさんは?あの部屋でフラウが何か呟いていたところを見たことはないから・・・電波か?テレパシーか??


「リーフェスさんは?リーフェスさんもタイミングをはかったみたいにやってきたけど・・・」

「たぶんメイドにティーレの実を持ってくるよう言ったときにでも言伝たんでしょう。いくらあの宰相閣下でもそんな都合よく・・・まあ、あの方ならありえるかもしれませんが・・・」


そうなんだ、ありえるんだ・・・

先の読めない無表情と態度は宰相という役職にはもってこいだと思う。

でも宰相があれでこの国は大丈夫なのだろうか。他の国が泣いたりしないのだろうか?わたしが泣いて謝りたくなったあの声と眼差しで。・・・ああ、慣れか。



わたしもこの国で暮らすならあれに慣れるしかないのかもしれない。




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