05 宰相
そのとき、コンコンコンというノックの音がした。
その音にフラウが「入れ」というと、大きな扉が開いて一人の人物が入ってくる。
しずしずと歩くその人は柔らかい感じの美人さんで、なんだか知的な雰囲気を醸し出していた。
年は20代後半くらいで、銀色の髪は長く背中あたりで1つに纏めているようだ。
前髪の左から一割くらいを左胸の前で筒のような装飾品で留めて、その他の前髪は右側へ流して目の下あたりで切り揃えられている。
近くまできて立ち止まった美人さんの瞳の色はすみれ色だった。
よく見れば不思議なことに毛先は空色に見える。毛先2~3センチほどが空色で、あとは徐々に銀髪に溶けるように混じっていくような、まさにグラデーションだった。
散髪したらどうなるんだろう?
そこでふと思ってウォレスを見た。
赤茶と思っていたウォレスの髪は毛先がこげ茶色になっていた。
わかりにくい・・・!
ということはと改めてフラウも見る。
ぼんやりした明かりのあの部屋で真っ黒と思っていた髪は、明るい場所では一目瞭然。実は紫紺で毛先は金だった。
お前ら何者なんだ。そうかここは異世界だったね。
いや、もしかしたら髪を切るたび染め直してるのかもしれないし。
・・・うん。気にしないでおこう。
ただ、綺麗だとは思うよ。
フラウが立ち上がったので、わたしもならって立ち上がる。
「ミナモ、これは宰相のリーフェス=クラムベル。
リフ、こちらは異界よりの客人、ミナモだ。」
フラウの手振りに合わせてお辞儀する。
「・・・よろしく。」
ぽそっと言った声は落ち着いた男の人の声だった。ただし背中にくるタイプ・・・いや、腰か?
初めてリーフェスさんの声を聞いた瞬間、何かわからないけど謝りたくなった。いろんなものに涙ながらに謝りたくなったのだ。
そんな誘惑に耐えるように両手で骨盤をしっかりと押さえる。
「わ、わたしの名前は笠鷺みなも、19歳。性別は女。成績は中の上。剣も魔法も使えない、多少馬にのれるくらいの親兄弟親戚恋人なしの一般人でふ。」
どうやらかなり混乱していたようで、フラウにした“心に決めた自己紹介”をしてしまったようだった。
しかも最後に思いきり噛んだし。