04 魔王
テーブルの上のお皿には瑞々しい果物らしきものがのっている。
山吹色をして表面はつるつるのぱつんぱつんだ。
形は丸く、へたはひょろひょろと細長く濃い緑色をしていた。
先ほどフラウがメイドさんを呼んで持ってきてもらったものだ。
フラウを見て食べ方を真似しようとすると、横から手が伸びてきてその果物のへたをきれいにとる。にっこりと。
・・・ウォレス。
邪魔じゃない。
邪魔じゃないんだけど・・・なんというか、居た堪れない。
今までこんなことされたことはないし、こんなふうに誰かがずっと傍にいたこともない。
わたしは初めてのことに始終動揺しっぱなしだ。
いくらなんでも果物くらい自分で食べられると言ってみたが、ウォレスは笑顔で抗った。
いじめか?
これは新手のいじめなのか?
ウォレスがへたを取った果物は甘酸っぱくて美味しかった。
別にウォレスがへたを取ってくれなくても美味しさに変わりはないと思うけど。
恥ずかしさのあまり顔が熱い。
絶対真っ赤な顔をしているだろうと思いながら少し俯くと、沸騰しそうな頭で話題を探す。
「・・・あ!そっ、そうだ!魔王は!?この世界に魔王はいるの!?」
そう、たしかにこれは大事なポイントだった。
ファンタジーならいてほしい。
それもクールビューティーなのが。
・・・戦うのは断るけど。
テーブルの上に身を乗り出し、フラウを見つめる。
「あ?ああ、魔王なら西の山にいるぞ?」
その言葉にやった!と喜んだのも束の間、フラウはどこか尊敬の眼差しで口を開いた。
「魔王は西の山で寒さと病気に強い植物を研究している。主としては農作物で、お前の食べているティーレの実もその成果だ。」
わたしは愕然とした。
この山吹色の果物はティーレの実という名前でわたしの好物リストに堂々のランクインを果たしたこのティーレの実は魔王さまが品種改良したと?
いいひとだな、魔王さま。
おかげで勇者がいらない理由もわかったし。
できることなら一度お目にかかりたいものだ。
そしてお礼を言おう。
ティーレの実をありがとうございました、と。