03 下僕
あのあと、フラウが呪文のようなものを呟くと部屋の様子が一瞬でかわって、暖かい部屋に「移動した」と言われた。
――魔法がある。
やっぱりファンタジー世界なんだと、少し興奮気味のわたしにフラウは言った。
「ふむ、お前は魔力がないな。」
な、そんな馬鹿な!
お約束はどこへいった!?
すっごい魔法が使えるようになって左うちわでウハウハではなかったのか!?
よろり、とよろけた足が何かを踏んづける。
「いてっ!」
その声にぎょっとして振り返れば、赤茶の髪に青い瞳の男が少し涙目で立っていた。
見たところ20歳くらいで、汚れ一つない白い騎士服のようなものが目に眩しい。
髪はくせ毛なのかあちこちとんでて、目のあたりまでの前髪を6:4くらいでわけている。
吊り目加減が猫を連想させる男だった。
「ごめんなさい!」
一応年上そうなのと初対面なので、慌ててそこからどくとがばりと頭を下げる。
白い騎士服の裾は膝まであり、その下には白いズボンとベージュのブーツがのぞいていた。
そしてその腰にある剣の柄と鞘を見てさらにファンタジー感がアップする。
「いいえ、後ろに立っていた俺が悪いんです。気にしないでください。」
その言葉にゆっくり頭を上げると、にこっと笑って片手を差し出す彼にわたしも笑顔で片手を差し出した。
「はじめまして、ウォレス=マーノスです。こんな素敵な方にお会いできて光栄です。」
「笠鷺みなもです。こちらこそよろしくお願いします。」
ぎゅっと手を握って、さらににこにこと笑うウォレスさんは爽やかだった。
次の言葉を口にするまでは。
「俺、ご主人の下僕に立候補してもいいですよね?フラウス殿下?」
・・・うんん?
何かいま耳慣れない言葉が聞こえたような・・・気のせいか。うん。
なぜか引き攣る頬でフラウを見れば、やる気なさげに頷いていた。
「ああ、元々お前に頼むつもりだったしな。住まいは南区の緑の館をつかうといい。」
どうやらお家をゲットしたようだが一つ大きな問題が・・・
気にしたら負けだ。うん。
どこかぼんやりしているとフラウに「承知しました」と答えたウォレスさんが、いまだ繋いだままの手をもう片方の手で包み込んだ。
「このウォレス=マーノス、ご主人によろこんでいただけるよう身も心も精一杯尽くしてお仕えしますね!」