11 魔族の国
一応のつもりで驚いてみたが実感はわかなかった。
フラウが嘘や冗談を言ってるんじゃないことはわかってる。
ただ、魔族の国って言われても思い当たるものが何もなかっただけ。
ふと思い返してみれば、緑の館に向かうときに感じたのは平和だった。
大通りでは子供たちがきゃっきゃとはしゃいでいて、通りに並んだお店では買い物カゴを持ったお母さんが野菜を買ってた。住宅街に入れば奥さま方が笑顔で井戸端会議をしてたし、高い塀にあった小さな門にいた門番さんはにこやかで、ウォレスをちら見してた人たちは頬を染めた普通の女の子たちに見えたから。
角とか翼もないし尻尾もない耳も尖ってない。笑った口から牙が見えたこともなかった。
わたしが出会ったのは、美形率が高めな気がするだけの普通の人々だった。
少しのんびりした気配に気づいたのかフラウが視線だけを戻してきた。上目遣いで。
うん。やっぱり美少年の上目遣いは良いね。
それをこんなにじっくり鑑賞できるなんてこの世界はなんて素晴らしいんだ!
・・・できることなら帰りたいけどこのまま永住してもいいかもしれない。
「やはり、恐ろしいか?」
ぎゅっと拳に力を入れたフラウが苦しそうに言う。
「・・・えっと、何が?」
間近でフラウの肌理の細かい肌を鑑賞していた視線を彼の目に向ける。
もしかして魔力のこと?わたしには無いから?
フラウたちが魔力があるだけの人間にしか見えないから何て答えていいのか迷う。
ふっと自嘲するようにほほえんだフラウはとても大人びて見えた。
「・・・我ら、魔族がだ。」
「え?何で?」
べつに酷いことされた覚えもないし住むとこだって貸してくれるしご飯だって面倒みてくれるのに?人間だってあんまりいないと思うよ?そう思ってちょっと過去を思い出して頭を振った。
今のところ怖がる理由をさっぱり思いつかないよ。
「それ、は・・・今まで攻めてきた人間がそうだったからだが・・・」
わずかに眉間にしわを寄せ、困惑気味に体を引いたフラウの両肩をがっしりと掴む。
「魔族が暇つぶしに人間を襲ってるとか人間を食べてるとかしてないならわたしは怖くなんてないよ。むしろ好きだよ。大好きだよ。」
フラウの顔が。
覗き込むようにして熱心に言った言葉に、一瞬ぽかんとしたフラウの顔が瞬く間にピンク色に染まった。なんかわかんないけどこの顔も良いと思う。ということで“心のアルバム異世界編”に一枚追加する。
その間もじっと見つめあっていたフラウとの間に、すっと一枚の紙が差し込まれた。
それはさっきフラウが何かを書いた紙で、リーフェスさんのせいで失くした紙だった。
「改めて自己紹介したほうがいいんじゃないですか?」
声はウォレスだったのに、紙を持つ手はリーフェスさんのものだった。
なんでだ。