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09 生活費

ふう。と息を吐いて屋根裏の窓から夜空を見上げる。

夜空に浮かんだ月はオレンジ色に傾いた黄色で、見慣れたものよりは大きかった。

この世界にきてはじめての夜。

あのあとフラウが手配してくれた食材や食器などが届けられた。

日常生活を送るうえで必要そうなものをかたっぱしから。

中には出来上がった料理も含まれていて、その点はとても助かった。


ふう。物憂げに漏れるため息とともに庭に視線を落とす。

月明かりをあびる庭に建つ一軒の小ぶりな家。あのとき、なぜかそっちにも荷物が運ばれていた。


そして。


ハウスを命じられたウォレスはその家に帰ったのだ。

たしかにこの世界では距離の意味はないのかもしれないけど・・・

まだ悪い人がいないと決まったわけではないので、いざとなったら助けにはなると思うし・・・ま、いっか。番犬がわりに。うっ!なに今の考えは!?・・・・・うん、わたしったら疲れてるんだね、今日はもう寝よう。

寝室に戻り、ベッドに潜り込む。短い時間だけど夕方まで干してパンパンした布団は気持ちよかった。



翌朝、美味しそうな匂いで目が覚める。また料理を宅配してくれたのかと眠い目をこすって起き上がり、玄関まで行こうとして・・・キッチン前で立ち止まる。立ち止まらざるをえなかった。


・・・ウォレス。


なんでいるの?とかはもう聞かない。ウォレスだし。少し考えてこの世界で鍵は意味がないのでは?と思う。鍵がわりの魔法があるならいいけど・・・わたしには使えないから意味ないし。

背中を向け、ふんふんと鼻歌を歌いながら手際よく料理している赤茶の毛色を見つめる。

たしかにフラウが面倒みるといってくれたけど、そのお金はどこから出てるのかはっきりしないうちはなるべく控えたい。もし下手でも料理ができるウォレスがいれば、この世界の料理を知らないわたしはフラウにたからなくても済むかもしれない。あ、でも食材はフラウもちか。あと、ウォレスにたかるのはやめよう。なんか怖いから。

うーん、どうにか収入を得なければと思うも、わたしにはお金になりそうな特技に心あたりはないし。はあ、あとでフラウに相談しよう。うん、そうしよう。


ウォレスと一緒に食べた朝食はウォレスお手製の野菜たっぷりのスープと丁度いい焼き加減の魚と丸いふわふわパンだった。・・・とても、恐ろしく美味しかった。騎士なのになんでだ?





「おはよ、フラウ。」

「ああ、おはよう。」


朝食後、ウォレスに一瞬で連れてきてもらったのは昨日の部屋だった。たぶん。

フラウは大きな机の上を静かに片付けるとイスから立ち上がる。きっと仕事中だったんだ。ごめんね?机をまわりこんだフラウが近づいてくるのに合わせてわたしも近寄った。


「昨日ウォレスから聞いたが、ミナモは名だったのだな。悪かった。」


すっと下げようとする頭を慌ててやめさせる。


「あ!みなもでいいよ!それにいまさら姓で呼ばれるなんて、なんかちょっと・・・」

「・・・そうか、わかった。」


そう言ってかすかに笑ったフラウは年相応に見えて可愛かった。これを間近で鑑賞できるなんて し あ わ せ。


「今日はなんの用だ?さっそくあの館で足りないものでもあったのか?」


腕を組んで「ほぼ網羅したはずなんだが・・・」と呟き首を傾げるフラウに頭を振る。


「わたしの面倒みてくれてるのはありがたいんだけど、そのお金ってやっぱり・・・税金?」


そう聞くとフラウはちょっと驚いたようにわずかに目を見開いて、片手を顎にそえると思案するように視線を少し下げる。


「あー、そうであるといえるし、そうでないともいえる。あれは税金のごく一部をある条件で民に投資し、そのうち成功したものからのみ割合に応じて返還されてできる余剰分だ。こうして増やしてさらに民に投資していくもので、ん?そうすると投資という点であながちミナモも例外ではないな・・・異界ゆえの何かないか?」


良いこと思いついた!みたいにフラウにキラキラした目を向けられる。


「あ、う・・・ごめん。それはわたしも考えたんだけど、そういうの今はちょっと思いつかなくて・・・」

「ふむ。ではミナモがあの館に住んでいる間は、あそこの管理人として国が雇おう。どうだ?」


フラウったらナイスアイディーア!と思ったけど、はたと気づいた。


「でもそれじゃ誰かの仕事を横取りしてしまうんじゃないのかな?手入れしてたって言ってたし、ほら、その管理人さんとか・・・」

「いや、それなら心配ない。手入れしていたといっても、手入れの度にメイドの中から都合のついたものを何人か向かわせて、それに手当てを出していただけだ。手入れの内容は軽い掃除と補修部位の発見くらいで、彼らには普段の仕事があり給金も相応に支払われている。だいたい管理人自体いない。よってこの仕事が必要なものは特にいないぞ。」


フラウにここまで言ってもらえたなら少しだけ甘えてもいいかな。できるだけでいいんだけど。


「うーん、じゃあお給料がわりに食材と少しの生活費くらいで、雇ってもらえる?」


ここでのお給料がどれくらいなのか見当もつかなかったので、ちらっとフラウの様子を見ながらこれだけあればたぶん生きていけると思ったものを口にした。


「まあ、お前がそういうならそうしよう。ただし、不足があれば遠慮なく言ってこい。」


そう言ったフラウが机に向かいしゃらしゃらと何か書いていく。

最後にしゅっとペンを走らせると、一通り読み直してこちらに向ける。


「確認しろ。」


わたしは紙を覗き込んで・・・少しだけ固まった。




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