真実が視える令嬢
ラティによって五年ぶりに部屋の外に出されたエミリア。引っ張られる髪の痛みと、これから何が起こるのかわからない恐怖でいっぱいだった。
ラティが着いたのは、両親の部屋の前だった。
ラティが扉を開けると、エミリアを中に投げ飛ばした。
「きゃあっ!!」
勢い良く床に倒れ込むエミリア。目の前には両親のクラウスとミラが立っていた。後ろには、サラを含めた侍女数人と執事がいる。
ソフィアの突然の死で憔悴して、五年ぶりに見る両親の顔はだいぶ老け込んでいた。
「お父様…お母様…」
ソフィアが亡くなってから話す機会が無くなったため、エミリアの声は掠れていた。
突然ミラがエミリアを睨みつけると、エミリアに近づいた。そして、
パンッ!!
エミリアの頬を思い切り叩いた。
「お前だな!!私の宝石を盗んだのは!!」
「宝…石…?」
エミリアは何のことだかさっぱりわからなかった。
「ラティが報告したんだ!お前がミラの部屋から宝石を盗んだとな!!」
ミラの隣りにいるクラウスがそう叱責し、エミリアはラティの方を見た。嫌な顔でほくそ笑むラティ。その表情を見て、エミリアは確信した。
(ラティ…私に罪を擦りつけるなんて…)
エミリアは言葉が出なかった。
ラティが犯人だ。そう思い切り叫びたかった。でも証拠はない。
エミリアが知っているのは、コンパクトに映った場面のみだ。言ったところで信用してもらえる保証などなかった。ラティの隣りにいるサラや他の使用人は皆、ラティに口止めされたのであろうか誰も意見する者はいない。
「いくら無能力とはいえ、娘に違いはないから側に置いてたものの…盗みを働く者はもう娘ではない!!明朝一番にお前を牢獄刑に処す!!」
『牢獄刑』つまり牢屋に入れられるのだ。エミリアは真っ青になる。
(無実の罪を着せられた上に牢獄なんて…)
「ま、待ってくださいお父様!!それだけは」
「口答えするんじゃありません!!」
再びミラからの平手打ちを喰らうエミリア。二発の平手打ちで、両頬は赤く腫れ上がっていた。
「ソフィアが亡くなって唯一の娘が無能力の盗人なんて…この一族の恥さらしが!!」
ミラは容赦なく平手打ちを繰り返した。何度も受ける痛みにエミリアは耐えるしかなかった。と同時に、自分の運命を恨んだ。
(なんで私ばっかりこんな目に…。ただ普通に生きたかっただけなのに。お父様とお母様、そしてソフィアお姉様と一緒に笑って過ごしたかっただけなのに…。なんで私、生まれてきたんだろう…?)
叩かれ続けてボロボロになるエミリア。もう彼女には立ち上がる力すら残っていなかった。
どうせこれから牢獄生活で一生苦しむくらいなら、いっそ今楽になった方が…。
エミリアの意識が遠のき始めた。その時、
『エミリア』
エミリアの脳裏に、ソフィアの声が木霊した。
『エミリア。あなたの人生はまだこれからです、諦めてはいけません。私はいつでもあなたの味方です。あなたに渡したお守りがある限り、私はあなたの側で見守ってますよ』
久しぶりに聞くソフィアの声。温かくて優しい声は、あの頃と変わらない。
(そうだ。私はまだ死んじゃいけない!お姉様の…ソフィアお姉様の死の真相を知るまでは…生きなくちゃいけない!強く…強くなるんだエミリア!!)
パシッ
何度目かの平手打ちをしようとしたミラの右腕を、エミリアは目にも止まらぬ速さで跳ね除けた。
あまりに突然のことに、クラウスやミラ、ラティも呆然としていた。
「…お父様、私犯人がわかりますわ」
エミリアは迷わなかった。形振り構わず、コンパクトで見た真実を洗い浚い告発しようと。
「そ、それは本当か…エミリア?」
「お、お前!!命乞いしたいからとデタラメを」
「黙ってくださいお母様!!」
クラウスはともかく、犬のようにキャンキャン吠るミラにイラついたエミリアは、強い口調で黙らせた。さっきまでの弱気なエミリアはもういない。
「犯人は………ラティですわ」
エミリアはラティを指差した。皆の注目がラティに集中する。一斉に向けられた視線にラティは動揺する。
「エ、エミリア様…何の御冗談で…」
「あら、あなたの口から『エミリア様』と呼ばれるなんて。いつもみたいに『無能力令嬢』とおっしゃってくださいな」
「なっ…!」
エミリアの告発に動揺するラティ。エミリアは続けて話した。
「ラティの部屋を調べてください。何処かに今まで盗んだ宝石、そしてそれを売った商人のリストが書かれた手帳が出てくるはずです」
「…っ!おい、ロイド。至急ラティの部屋を調べろ!」
「かしこまりました、旦那様」
クラウスの指示により、執事のロイドが駆け足で侍女達の寮に向かった。
さすがのミラも、さっきまでエミリアに向けていた怒りの矛先がラティに向く。
「ラティ…お前」
「ち、違います奥様。これは何かの間違いで」
「『年増の老いぼれ夫人』でしょ、ラティ。」
ラティの弁解も虚しく、エミリアは追い討ちをかける。ミラの顔に青筋が立つ。ラティは影で言っていた暴言が明るみになり、顔がどんどん青くなる。
「サラ。あなたもそう聞いたわよね?」
「……はい、私もそう聞きました」
状況を察したのか、サラはラティを寝返った。他の侍女もサラに続くように頷いた。味方の裏切りにラティは動揺を隠しきれなかった。
「お母様に対してずいぶんな言いようでしたよね。お母様より自分の方が若くてお父様に釣り合うとか、私を殺してその罪をお母様に擦りつければ自分が伯爵夫人の後釜になれるとか」
止まらない暴露にエミリアはだんだんおかしくなってクスクス笑いながら話す。部屋の空気はどんどん悪くなる一方だった。ラティはその空気に耐えきれず、エミリアの胸ぐらを掴んだ。
「あんた!自分が伯爵の娘だからっていい気になってんじゃないよ!あんま調子乗ってるとどうなるか分かってんの!?」
「…えぇ、分かってますわ。私はどうなろうがどう言われようが構いません。ですが…ソフィアお姉様まで悪く言うのは許しませんわ。お姉様を『クソガキ』と影で言ったことも、二年前お姉様のドレスをズタズタにしたことも」
「…っ!なんでそんなことまで」
「私には…視えるんですから…」
エミリアの目が鋭く光る。恐れを知らぬ、自信に溢れている目をしていた。
ラティにはもう反論する気力は残っていなかった。次第にエミリアの胸ぐらを掴む手は離れ、ラティはその場に崩れ落ちる。
「なんで…なんであんたみたいな無能力に…」
ラティは自分の悪行が明るみになった絶望から精神は崩壊寸前でガタガタ震えていた。
その後エミリアの証言どおり、ロイドがラティの部屋から盗まれた宝石と商人のリストが書かれた手帳を見つけた。ラティはそのまま解雇、しばらくして牢獄刑に科せられ収監されたのであった―――
エミリアは決意した。
(私からお姉様を奪った者が許せない!絶対犯人を見つけて、必ず裁きを受けさせる…!!)




