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映し出された真実


 その日は朝からバタバタと騒がしかった。

 エミリアは物音で目を覚まし、扉をほんの少し開けると二人の侍女が話していた。



 ソフィア様が亡くなった―――と。



 「お姉様が…亡くなった…?」


 エミリアは頭が真っ白になる。

 エミリアは信じられなかった。昨日も会いに来てくれたソフィア。いつもと変わらず優しいソフィア。能力で傷を癒してくれたソフィア。




 「…うっ…お姉様…ソフィアお姉様ーー!!」


 エミリアは膝から崩れ落ち、泣き崩れた。涙が溢れて止まらない、叫ばずにはいられなかった。

 

 (なんでなんでなんで!!なんでなのよ、お姉様!!学院を卒業したら屋敷を出て、一緒に暮らそうって!約束したのに…!!)


 エミリアは体中の水分が無くなるんじゃないかというくらい泣き続けた―――





 それからガージェスト家は慌ただしかった。ソフィアの葬祭の儀や後継者問題などで連日話し合いが行われていたため、エミリアの一日一回の食事すら忘れ去られていた。

 何日も食事が与えられなかったエミリア。元々一日一回の食事の生活で痩せていたが、それすらも無くなったため日に日に痩せ細っていった。

 エミリアは以前ソフィアが差し入れとして持ってきてくれたパンや飴を少しずつ食べながら生き長らえていた。しかし、このまま食事が与えられなければ、命が尽きるのも時間の問題だった。


 (このまま死んだら、お姉様に会えるかな…?)


 唯一の拠り所だった姉も居なくなり、エミリアにはもう生きる理由も無くなってしまった。いっそこのまま死ねば、あの世の世界で姉に会えるかもしれない。そう思うと、エミリアの意識は薄れていく―――



 その時だった。エミリアが埃被った棚にもたれ掛かった時、棚から何かが落ちてエミリアの前に転がり止まった。

 金色の丸いコンパクトミラー。蓋の部分にはピンクと水色の薔薇の形をした石が施されていた。

 

 (あ、これ……)


 このコンパクトは、ソフィアが貰ったものだ。

 ソフィアが亡くなる前日。突然ソフィアがエミリアに渡したのだ。

 

 『お姉様…これは?』

 『これをエミリアにあげますわ。これはエミリアを守ってくれるお守りのようなものです。大事に持っていてくださいね』


 そういって、ソフィアは屋根裏部屋をあとにしたのだ。




 エミリアはなんとなしにコンパクトを開けた。

 鏡に映るエミリアの顔はひどいものだった。ボサボサの髪、肌は血色が悪くボロボロ、着ているワンピースも一度も変えたことはなくボロボロで汚れている。こんな狭い場所に追いやられ、ろくに食事も与えられなければ当然の姿だ。


 すると、突然鏡が強い光を放ち、エミリアは眩しさで目を背けた。一瞬眩しかった光が消えると、エミリアは再び鏡を覗いた。

 すると鏡にはエミリアの姿は映らなかった。

 映っているのは亡くなったはずのソフィアと、ソフィアの世話係の侍女長『ラティ・カルローザ』だ。ラティはソフィアの髪をブラシで梳かし、金色の髪飾りを付けていた。


 『いかがですか、お嬢様』

 『素敵だわ。いつもありがとう、ラティ』

 『いえいえ。いってらっしゃいませ、お嬢様』

 

 ソフィアが立ち上がり離れると、コンパクトには映らなくなった。どうやらこのコンパクトに映っているのは、ソフィアの鏡台だとエミリアは気づいた。

 すると、


 『あ〜〜〜ホントだるっ!毎日毎日クソガキの世話とか!お給金良くなかったらやってらんないよ!!』


 ラティは鏡台の椅子に勢いよく腰掛けると、先ほどとは打って変わって暴言と愚痴をこぼした。ラティは一番面倒を見てくれて優しい人だとソフィアから聞いていたから、エミリアは驚きを隠せなかった。

 

 『あ、そうだ!』


 何か閃いたラティは、クローゼットの中からソフィアのドレスを取り出した。ソフィアがお気に入りと言っていた青いロングドレスだ。

 すると、ラティは持っていたハサミでドレスを思い切り引き裂き、容赦なくズタズタにしていく。エミリアはその光景に息を飲んだ。


 『あ〜スッキリした。結構派手にやっちゃったけど、またあの無能力令嬢のせいにすれば大丈夫だろ』


 ラティはハサミを床に落とすと、部屋から出て行った。


 (…これ…あの時の…)


 エミリアには覚えがあった。

 二年前。ソフィアの誕生日に着ようとしていたドレスが誰かにズタズタに切り刻まれる事件が起こった。犯人探しが始まり、結局エミリアが犯人扱いされて母親にムチで打たれる仕置きを受けたのだ。その時エミリアを犯人に仕立て上げたのが、ラティだった。


 (もしかして、ラティの仕業…?)


 鏡の場面が変わり、今度は両親の寝室が映る。ラティは侍女の『サラ・デューガス』と一緒に部屋の掃除をしていた。サラがベッドメイクをしている間、ラティは母親の宝石棚を掃除…ではなく、引き出しを開けて中の宝石類を物色し、気に入ったものをポケットに閉まった。ラティは嫌がらせだけでなく、窃盗までしていたのだ。


 『ちょっとラティさん。また奥様の宝石を…』

 『大丈夫だって!こんだけあるんだから、ひとつやふたつなくなったくらい気づかないって。あの年増の老いぼれ夫人はwww』


 ラティは他の侍女がいてもお構いなしに暴言や悪行を働いていた。もう日常茶飯事なのか、サラは苦笑いするだけで止めようとはしなかった。


 『だいたいあんな年寄りより私の方旦那様に釣り合うと思うんだよね。私の方が若いし綺麗だし』

 『まぁ…奥様もお綺麗だと思うけどね…』

 『いっそのことあの無能力令嬢殺しちゃおうかな。んで、その罪を奥様に擦りつけて憔悴している旦那様に取り入れれば…私も伯爵夫人になっちゃったりしてwww』

 『まぁ、恐ろしい人…』


 一通りの掃除が終わると、二人は部屋を出て行った。


 (ラティ…とんだ悪女だわ…)


 エミリアはもうドン引きしていた。人間、表と裏でこんなにも態度が変わるものなのかと不信になりそうだった。


 また場面が変わった。今度は先ほどと向きが違って横向きのラティの姿が映った。部屋の家具からして、ラティ達侍女の寮らしい。

 ラティはベッドに寝っ転がって何やら手帳を眺めていた。ページをめくる度、ラティはふふっと笑っていた。

 

 『さすが伯爵家であって持っている物も一流ね。思ってたより高く売れたわ』

 

 ラティが寝返りを打つと、手帳の中身が見えた。エミリアは目を凝らしてよーく見ると、名前と金額が書かれていた。話から推測して、ラティは盗んだ宝石類を商人に売っているようだ。


 (こんなのお父様達に知られたら、確実にクビだわ…いや、下手をすれば牢屋行きになる可能性も…)


 

 バンッ!!!


 突然、屋根裏部屋の扉が勢い良く開いた。エミリアはびっくりしてコンパクトをポケットにしまった。扉を開けたのは、ラティだった。

 ラティは鬼のような形相でエミリアを睨むと、いきなり髪を掴んだ。


 「痛っ!!」

 「さっさと来なさい!!」


 エミリアは何が起こっているのかわからないまま、屋根裏部屋から引きずり出されたのだった―――

 

 

 

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