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無能力令嬢

 『シンシエスタ王国』

 その昔、能力者と呼ばれた若者数人によって築かれた小さな国だった。互いの能力を用いて国を発展させ、幾多の戦争を勝ち抜いた。その結果、王国の経済産業は著しく発展し、他国に引けを取らないほどの豊かな国へと変貌していった。

 その裏で、能力を持つ者と持たぬ者で待遇が大きく変わり、同じ貴族家系であっても貧富の差が激しかった。能力を持つ者は物資や医療が安価で利用でき、成就や婚姻が自由にできた。一方で、能力を持たぬ者に対して奴隷同然の扱いで一生を過ごさなければいけないのだった。


 能力者の一人、『ウィリアム・ガージェスト』は若者達の中では能力は飛び抜けて優秀で、国の発展に大きく貢献し、数多くの能力者一族を世に送り出してきた偉大な人物として名が知れ渡ることになった―――






 それから数百年の時が経った18☓☓年。ガージェスト家の一族の一人、『クラウス・ガージェスト』伯爵とその妻『ミラ・ガージェスト』伯爵夫人との間に第二子となる女児が誕生した。上の子を含め、クラウスとミラの子は全員女児であるが一族では珍しいことではなく、跡継ぎにしてもいずれ他の一族の者から婿入りすればよいことなので大した問題ではなかった。

 父親似の宝石のように綺麗な水色の瞳と母親似の絹のように美しい薄ピンク色の髪をした我が子を、二人は『エミリア』と名付け大切に育てた。

 

 しかし、二人にとって最悪な事態が起こってしまった。

 エミリアが五歳の誕生日の日。

 国の規則で、齢五つの小児は全員『スピリアス・チェック』という能力の有無を調べる適性検査が行われる。そこで能力アリとなれば将来は約束されたと見なされる。仮に能力ナシとなった場合でも、後天的に能力が開花する例も珍しくないため、能力アリの可能性が1%でもある者は齢十歳まで結果が延期される。


 しかし、エミリアの結果は『無能力 能力アリの可能性0%』だったのだ。

 貴族一の能力者一族として名のあるガージェスト家で無能力の者が存在するとなったら大きなスキャンダルとなる。


 その日以来、エミリアの生活が一変した。

 寝室は屋敷の奥の屋根裏部屋に移動させられ、屋敷では居ない者扱いされ、外部との接触は一切なし。食事は一日一回、パンと冷めたスープ等の残飯。エミリアが少しでも音を立てたりすれば叱責され、暴力を振るわれる。侍女達からは『無能力令嬢』と陰口を叩かれるようになった。

 今まで両親の愛を一心に受けてきたエミリアにとって今の生活は地獄そのものだった。ただ能力がないというだけでどうしてこんな想いをしなければいけないのか。エミリアは国や両親を恨むようになった。


 そんなエミリアにとって唯一の拠り所があった。







 コンコンコンッ


 深夜過ぎ。屋根裏部屋の扉を小さくノックする音が三回聞こえた。エミリアはこのノックの意味が分かっていた。


 「エミリア、私よ」

 「ソフィアお姉様」


 ノックの主はエミリアの姉『ソフィア・ガージェスト』、能力持ちだ。

 エミリアより六歳上のソフィアは、父親似の銀色の美しい髪に水色の瞳、母親似の端正な顔立ちで周りから『絶世の美人』との評判だ。温厚な性格で侍女達にも分け隔てなく優しく接していて、まさに国中の女性達の憧れの的だった。


 そんなソフィアは無能力とはいえ、実の妹にも例外なく優しかった。

 昼間はエミリアと接触することは禁止されているが、両親や侍女達が寝静まった頃を見計らってこっそりエミリアに会いに行っていた。昼間こっそり残しておいた料理やオヤツのクッキー、エミリアが好きそうな絵本などを差し入れとして持って行った。


 「あら、エミリア。この傷…」

 「…実は、昼間侍女達に…」

 「まぁ!なんてひどいことを」

 

 ソフィアはエミリアの腕にアザが出来ていることに気づく。

 エミリアは時々侍女達からサンドバッグのように暴力を振るわれることがよくあった。侍女達の中には能力持ちもいて、力を使って両親の目を欺くことも容易ではないのだ。

 

 「大丈夫よエミリア。任せて」


 ソフィアはそういうとエミリアの右腕に出来たアザに手をかざした。すると、ソフィアの手から青白く光る丸い玉が現れ、その光がアザを包み込んだ。光が消えるのと同時にアザも一緒に消えていた。


 「終わったわ、エミリア」

 「わぁ、ありがとうお姉様」

 

 これがソフィアの能力『Healer(ヒーラー)』である。あらゆる痛み(精神面も含めて)を癒すことが出来るのである。


 「…お姉様、どうして私だけ能力がないんですか?お父様もお母様もお姉様も皆能力があるのに…」

 「エミリア…」

 

 ソフィアはどう返していいかわからなかった。能力を持ち両親から愛されて育てられた自分に対し、無能力というだけで両親から虐げられて侍女達からも馬鹿にされる妹。慰めや同情は逆効果だと思った。


 「…ねぇ、エミリア。一緒にこの国出ましょう」

 「えっ……」

 

 ソフィアの突然の提案にエミリアは困惑した。


 「私は学院を卒業したら隣国の医療の職に携わろうと思ってますの。そしてあなたはこの屋敷を抜け出して、私と一緒に暮らすの。いい考えだと思いません?」

 「この屋敷を…抜け出す…?」


 エミリアはこれからのこととか全く想像していなかった。このまま誰にも愛されず、一生この中で過ごすかどこかの国に嫁入りさせられしまうのか。侍女達が噂していた言葉を鵜呑みして絶望していたからだ。 

 でも、姉のソフィアだけは見捨てようとはしなかった。むしろ王国を離れ、自分と一緒に暮らそうと手を差し伸べてくれた。


 「…お姉様。…私も…お姉様と一緒に…いたい」

 「うん。…だからエミリア、私が学院を卒業するまでもう少し辛抱して欲しい。私が絶対ここから出してあげるから」

 「〜〜〜お姉様ぁ!!」


 エミリアはソフィアに抱きつき、わんわん泣き出した。ソフィアはただ黙ってエミリアの頭を撫でる。



 絶望しかないと思っていた人生。それでも微かにある希望のために、エミリアは今日もこの狭い屋根裏部屋で生きていこう強く思った。






 しかし。エミリアが十歳になる半年前に…








 ソフィアは…亡くなってしまったのだ…。


初めまして、美界と申します。

初めてのファンタジー作品でございます。

ファンタジーとミステリーを掛け合わせた作品となっております。

宜しければ、閲覧ご感想いただければと思います。

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