第7話 殺意
廊下からドタバタと足音が響いていた。
少し遅れてアスバ、ラトリーが到着する。2人は肩で息をしながら辺りを見渡す。
「多分王女様を取り押さえたら終わりですよね」
ラトリーの言葉に答えるように、ソルマは剣を抜き、2人と向き合った。2対1、ソルマが劣勢なのは明らかだ。
ソルマの顔はさらに強ばることになる。2人の後ろからバハトが復帰してくる。
「やめておけ。王女を取り押さえたところで、あの小僧に奪還されるだけだ」
しかしバハトの眼中にあるのはウシスのみであった。
速いもの、遅いもの、大きいもの、小さいもの、よく見えるもの、見にくいもの。リアとウシスの間には様々な魔法が飛んでいる。
けれども、その全てはウシスにより爆破され、撃ち落とされていく。
「いつまで続けるつもりなんだ?」
「そっちこそいつまで守りに徹するつもり?」
ウシスはため息を着く。次の瞬間、リアの目の前で爆発が起こる。
小さな彼女の体は容易く吹き飛ばされた。
倒れ込む彼女をの下で次の爆発は起きた。打ち上げられた途端、その先で更なる爆発が起き、撃ち落とされる。
リアは地に伏したまま、治癒魔法で回復を図る。だが、適性のないリアのそれでは怪我は一向に回復しない。
ただそれでも、時間をかけ、ゆっくりと痛みは収まり、体力も戻っていく。
「人を殺すのが怖いんでしょ?」
リアは声をふりしぼりウシスに訴えかける。
「お城に攻めるってのにわざわざ上から行って逃げ道を作るし、この前の盗賊団だって吹き飛ばして終わり。そして、今も私にトドメを刺さない」
「そうだとして、お前が俺に勝てるわけないだろ。勝てるって言うならこの場の全員でかかってきたって構わない」
ウシスは周囲の者たちに視線を向け、その中にいるバハトを見つけた。
「違うんだろ?誰も俺に勝てない。止められない。だから皆傍観するしかない」
ウシスは再びリアへと目を向ける。
「身の程を知れ。そして、お前も俺の行く道をただ見届けろ」
リアは言葉もなく、腰を落とし、両手を前に突き出す。
その手の前に火の玉が現れた。火の玉はどんどん膨れ上がる。大きく、大きく膨れ上がり、それは視線を遮り、リアの身体を隠すほどになる。
そしてついに放たれたそれは勢いよく進んでいく。
ウシスは仁王立ちだ。動く素振りも見せず、向かい来る火の玉に狙いを定める。
ウシスは強い。ゆえに目の前のそれを、リアの策を捉えた。
物はそれを保つ力よりも大きな力を加えれば壊れる。
ウシスにとって眼前の衰えを知らない火を撃ち落とすことは容易い。
けれども、それをリアが耐えられるかはわからない。
ウシスは、火の中で全身を焦がしながら、歯を食いしばるリアの姿を鮮明に捉えた。
『貴様からは殺意を感じない』
ウシスの脳裏にその言葉がよぎった。
続いて、目の前の障害を越えるための、短絡的な手段がよぎる。
リアの左腕から力が抜け、垂れていく。続いて両足もまた力が抜ける。
強化魔法を優先的に掛けられた頭、胴、右腕がかろうじて動く様子だ。
それでもリアの目はまっすぐにウシスを見据えている。
正面で、誰よりも近くで、誰よりも鮮明にウシスの目はその姿を捉えた。
火はウシスに直撃する。ウシスは無抵抗なまま突き飛ばされる。
火の中から現れたリアは彼の首に手を当て、そのまま2人は床に倒れ込む。
「動けば殺す」
「あぁ、そうか」
ウシスは動かず、そのまま魔法を発動する。
すると、リアの火傷が少しづつ治まっていく。ぐだりと垂れていた左手がピクりと動く。
「良かった。治癒魔法が間に合ったみたいだ」
「なんで」
「中まで焼けたら治せないからな」
「決着が着いたようだね」
アスバがそう声をかけた。彼は2人を覗き込み、そして騎士たちに指示を出す。
その後ろではソルマがバハトによって取り押さえられている。
ウシスは無抵抗に取り押さえられる。
始業の鐘が鳴り響く。
子供たちは席に着いている。入学し初めての授業に落ち着きのない様子の者も多い。
そして、ダルシャが授業を始める。黒板に文字を書きながら話していく。
最前列の席に座るウシスは文字が読めない。彼は必死に話を聞き、書かれた文字を解読しようと試みる。
けれどもそう簡単に読めるものでもない。
項垂れると、顎に首輪がぶつかる。咄嗟に顎をあげるも、何も起きない。
彼は安堵し、首輪をなぞりながら呟いた。
「まだ生きるのか」




