第2話 魔人殺し
「こうして会うのは3年ぶりですね。変わらない様子で安心しました」
「3年変わりない子供は不安に思えよ」
「まぁ、そうですね」
「そっちは背が伸びたな」
馬車の中でウシスとラトリーの雑談は続く。そうして間もなく一行はスリス村にたどり着いた。
馬車が村に近づくと、村人たちが出迎えに来た。その先頭に立った鮮やかな服を着た少女がこわばった顔で呟く。
「ウシスがやられた……?」
「やられてない!」
「やられたろ」
「負けを認めろ」
「うるせぇ!」
ウシスが馬車から飛び出し、一行が友好的であるのを示したことで、村人たちはそれぞれの作業に戻る。
ラトリーは騎士たちの一部を引連れ、村人の案内に応じ村長の家に導かれる。一方でバハトを含む数名の騎士は馬車の周りから村人の様子を伺っている。
村人たちは楽器を演奏し、踊るものや、祭壇の前に供物を運ぶものがいる。
「ふむ、この村は原初神信仰が根強いようだな」
「そうなのか」
「なぜ貴様が知らない」
バハトの呟きに近くにいたウシスが答えた。
そちらに目をやれば、ウシスと先程先頭に立っていたの少女が佇んでいる。
「貴様らも手伝ってきたらどうだ?子供にもできることはあるだろう」
「手伝ってる。余所者の見張りだ」
「私はウシスの見張りです」
「それはいらないだろ。リアは手伝ってこいよ」
「いるからやってるんでしょ。無駄に戦って負けてきたじゃない」
「負けてないし、発端はそいつだし」
「はいはい」
「はぁ?」
子供の喧嘩を他所に大人たちはそれぞれの役割を果たしていた。演奏とともに供物が順に焚べられていく。
しばらく時間が経つと楽器隊は捌け、祭壇の火は弱められた。
その頃、村長との話し合いを終えたラトリーが合流する。
「どうだった?」
「ウシスくんの引渡しは簡単に了承を得られました。ただ、気がかりなことに事前に送った文書が不達だったようです」
「不達……事故か獣であれば良いが、そうでないなら復路を狙われるかもしれんな」
「ええ、警戒をしましょう。では……」
ラトリーはウシスとリアの方へ目を向ける。
「シャァー!……ん?」
「グルルゥ!……?」
「さぁ、こちらに」
そのまま2人の手を引き、祭壇の下まで連れていく。その周囲を囲うように続々と村人が集まってくる。
「では、神託の儀を始めます。これは原初の神々が我らに……」
「長ーい」
「聞き飽きたー」
「適正とその度合いを伝えます。ウシスくん、前に」
「え、省略できるの……」
ウシスは自分たちの要求が受け入れられたことに動揺しながらも前に出る。
祭壇の前でラトリーは彼の頭に手をかざす。
村人たちが固唾を飲み、騎士たちが好奇の眼差しを向けるなか、彼は得意げに立っている。
「ウシスくんの適性は…1級火魔法使いです」
「やはり最上級の適正か!」
「ただの早熟ではない……か」
「国王の召集を受けるだけのことはあったようだな」
各々が反応をするなか、ウシスは騎士たちの方に向き直り告げた。
「謝れよ。侮辱したこと」
ばつの悪い騎士たちを代表してバハトが前に出る。ウシスもまた前に出て、2人が向き合う形となった。
「確かに貴様には才能がある。だが、」
「特級魔法使いだと!」
バハトの言葉は1人の村人の声に阻まれてしまう。その声に続き村人たち、騎士たちもまた騒ぎ立てる。
「当代3人目の特級だ!」
「全ての属性に適正があるだと!」
「『神技』はどうなんだ!」
ウシスたちが祭壇の方を見れば、そこではリアが胴上げをされ、高く舞い上がっていた。
「特……級……?」
「特級とは一般的な魔法の適性とは関係なく、特殊な能力、『神技』を持つもののことだ」
「知ってるよ!そうじゃなくて!」
困惑するウシスはそのまま続けた。
「あいつは今まで『神技』らしい力は見せてこなかった。……いや、やたら魔法の覚えが早かったな」
「確か3年前に逝去した特級も同様のことが言われていた。その者は魔力が見える『神技』だった」
「たしかに魔力が見えていたら効率的な運用ができるだろうな」
「どうであれ王都に連れて行き、『神技』を検証することになるだろう」
「そいつは無理だろうな」
祭壇に集まる人の輪を見ればウシスの真意は一目瞭然だった。
平静を取り戻した騎士たちが輪を離れ、村人たちのみ残されたそこでは、リアのことを称え音楽を奏で踊り周るのが見える。
翌朝ウシスは出発の準備を整えた馬車の中から村を見ていた。ちょうどリアが見送られている。
「いってきます!」
召集の説得はウシスの考えとは裏腹に難航することはなかった。
村人たちは抵抗したものの、リアが今と同じ言葉を一度宣言したのだ。それで話はカタがついた。
リアが馬車に乗り込み、馬車は動き始める。次第に村は木々に隠され、見えなくなった。
そして、子供たちが変わらない景色に飽きたのを見計らいラトリーが2人の今後について話し出した。
「おふたりには王立の魔法学校に入学し、3年間お勉強してもらいます」
「3年も?」
「魔法なら教わらなくても使えるし」
「でもそういう指示なんですよ。何考えているんでしょうね。」
「かかれ!」
その号令に続き、雄叫びが聞こえてきた。
ウシスが外に出ようとするもラトリーに捕まり、馬車の床に押さえつけられる。
号令が、無数の足音が、金属のぶつかる音が次々と聞こえてくる。
ラトリーが窓から様子を伺い、ウシスたちに状況を伝える。
「盗賊団に襲われているようです」
「ウシス倒してきて」
「おう」
「待ってください!」
ウシスはラトリーの手から抜け出し、勢いよく扉を開け、周囲を確認する。
馬車を囲うよう騎士たちは陣取り、盗賊は攻めあぐねている。
そして扉を開けた一瞬、騎士も盗賊もウシスに目を取られた。だが、その中でバハトだけが背を向け戦い続けている。
そうしてウシスはそっと扉を閉じ、馬車の中で姿勢を低くする。
「戻ってくだ……え、なんなんですか」
「まだ謝られてなかったの思い出した」
「えぇ」
困惑するラトリーの隙をつき、リアが窓から外の様子を伺う。
変わらず騎士は盗賊の侵入を防いでいるが 、突如陣形に乱れが生じた。
1人の騎士の体に矢が発生したのだ。その怪現象は続け様に別の騎士を襲う。
そしてリアだけがその真実を捉えた。
「透明なのがいる」
「え」
「このままだと負けるかも」
「そんな!?」
「ウシス」
「奴らが許しを乞い、助けを求めたらな」
「後で私からも言い聞かせますから……」
意地を張るウシスに2人が手を焼く間も、騎士たちは徐々に押し込まれている。
「ねぇウシス、ウシスは何がすごいの?」
「?暴力」
「それを彼らは知ってる?」
「それは、……?」
「じゃあ今見せつけてやろうよ」
「確かに」
ウシスは再び勢いよく扉を開ける。そして外に飛び出す。すると、ウシスの足元で小さな爆発が起こり、その勢いで馬車の屋根に飛び乗った。
次の瞬間、騎士たちの足元で爆発が起こる。強化魔法の掛けられたそれらの体が傷つくことはないが、浮き上がった。
続けざまに爆発が起こり騎士たちが高く高く打ち上げられる。
「特等席で見せてやる」
ウシスはおもむろに手を天に掲げ、その存在を主張する。
盗賊の放った矢も魔法もウシスを目前に爆破され撃ち落とされる。
「爆ぜろ」
馬車の周囲が爆炎に飲み込まれる。
炎が消え、煙が散っていく。ようやく騎士たちは着地した。
その場所は木々が吹き飛び、大地をえぐられ、爆発痕の外縁に盗賊たちが倒れている。
その中心で無傷の馬車の上に小さな人影がある。
「愚かな凡人ども!目を覚まし、そして讃えろ!お前たちの前にいるのは“魔人殺し”のウシスだ!」




