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夜明けの魔法使い  作者: 鈴輪
序章
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第1話 白髪の子供

 1台の馬車が数名の護衛の騎士を引き連れ王都を発った。馬車は野を越え山を越え、国の外れにあるスリス村を目指していた。

 馬車の中では修道服を着た女、ラトリーが落ち着かない様子で窓の外を見ていた。


「何も起きなければ良いのですが……」


 彼女はポツリと呟いた。それを聞いた御者は笑い飛ばすように答える。


「心配などいりません。なにせ護衛たちを率いるはかの『武人』です。魔獣だろうと山賊だろうと、この馬車を止めることはできませんよ」

「……そうですね」


 ラトリーは生返事をしつつ、外を眺め続けた。

 窓から見える景色が流れていく。岩山を抜け、木々を見送り、草地を抜け、また木々のが見える。


 やがて、代わり映えのない木々の奥から太鼓を叩く音が聞こえてきた。その自然界に似つかわしくない音楽は目的地が近づいたことを知らせる。

 しかし流れていた景色は止まってしまう。


「何があったのですか」

「……」


 ラトリーの問いに御者が返答を躊躇っていると外での会話が聞こえてくる。


「貴様が"魔人殺し"で間違いないな?」


 その言葉が聞こえてから、御者は少しずつ落ち着きを取り戻し、そして話し出す。


「"魔人殺し"が現れました」

「彼とは面識があります。まずは私が話しましょう」


 ラトリーが腰をあげようとすると外から爆発音が聞こえてくる。そして御者は変化した外の状況を伝える。


「……バハト様と"魔人殺し"が交戦し始めました」

「どうしてですか?!討伐対象でなく護衛対象ですよ!」


 ラトリーが外に出ようと扉を開けると、行く手は護衛のはずの騎士によって塞がれていた。


「申し訳ありません。これもバハト様からの指示でして」



 馬車の前方ではボロボロの服を着た子供が行く手を遮るように立っていた。意匠の凝った鎧の騎士が子供に語りかける。


「白髪の子供、聞いていた通りの姿だ。貴様が"魔人殺し"で間違いないな?」

「ああ、そうだ。それで俺に何か用か?」

「その前に1つ手合わせ願おうか」

「なんでだよ。とっとと要件を話せよ」


 騎士は子供の言葉に耳を貸さず剣を構える。一方で子供には動く様子はない。しかし、その目は騎士を見据えている。


「俺は"武人"バハト。貴様の実力を見せてもらう」

「俺は"魔人殺し"のウシス。……潰す」


 先に動いたのはバハトだ。全身に魔力を流し、強化した彼は瞬く間にウシスとの距離を詰める。しかし……


「爆ぜろ」


 ウシスの言葉と同時に2人の間で小さな爆発が起こる。咄嗟に後ずさるバハトの後方で更に爆発が起こる。

 バハトは肉体をさらに強化し、更なる速度で爆発の間を脱する。

 そのままウシスの背後に回る。そして、ウシスが振り向くよりも早く剣を振り被る。

 けれども、それも新たな爆発に阻まれる。


 バハトが辺りを見渡せば、爆発は自身の付近だけではなくウシスを囲うように複数起きているのが見える。

 範囲攻撃、それはウシスがバハトの動きを捉えられないと判断した証だ。


 速度を保ちウシスの周囲を回るように撹乱するバハトに対して、爆発はウシスを中心とした一定の範囲内で無作為に起こるようになり、その数は次第に増えていく。

 爆発に移動を阻まれ速度を落としながらも、バハトは周囲を観察する。


 そして再びウシスの背後に回ると、目の前の爆発が収まると同時にウシス目掛けて一直線に爆発の合間を走り出す。そのまま間合いに捉えた。


「爆ぜろ」


 再び放たれたウシスの言葉と同時に一際大きな爆発がバハトを包み込んだ。


「俺の勝ちだ」


 ウシスは勝利を宣言し、悠々と振り返ると、


「は?」


 爆煙の中からウシスへと向けて剣が振り下ろされている。

 彼は身がすくみ、動くことが出来なかった。

 しかし剣が彼に届くことはなく、散ってゆく煙の中でバハトは剣を鞘に収めた。


「この程度か」

「は?」


 見下す様子のバハトに対して、ウシスは抗議する。


「お前、俺の攻撃に当たったよな」

「貴様からは殺意を感じない。そんな貴様のそれを攻撃とは呼べないな」

「たかが手合わせで殺意を込めるやつなんて居ないだろ」


 ウシスは不平を述べるもその返答は外野の騎士たちから帰ってきた。


「戦うのであれば手合わせだろうと殺す気で望むものだ!」

「手を抜くなど相手にも戦いそのものにも失礼だろう!」

「大人しく負けを認めたらどうなんだ!」


「わかったよ。加減は終わりだ。全員前出ろ、まとめて吹き飛ばしてやるよ」


 騎士たちの言葉に反発したウシスは次の戦いに向け騎士たちの動きを観察する。騎士たちも剣を抜きウシスを囲うように陣形を組む。


「まぁまぁ、皆さん落ち着いて下さい。無用な争いなんてやめましょうよ」


 馬車から降りてきたラトリーは彼らの間に割って入り、ウシスの前までやってくる。


「ラトリー、そいつらの仲間なのか……」

「あんな大人げない連中ほっておきましょう。ね?」

「仲間じゃないのか」

「仲間じゃないです」

「……だったら一緒に来るなよ、不用心だろ」


 ラトリーは呆れ返るウシスを捕まえ、馬車に連れ込んだ。

 そうして再び馬車は進み出した。

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