配達…学校の帰り道…
「小説家になろう公式企画 夏のホラー2023」 参加作品(短編小説)です。
「わーい」「やったー」
元気な子どもたちの喜ぶ声。
「そうか…もう夏休みなんだ」
バイクで配達に向かう途中、小学校の前で信号機が赤になった。ランドセルを背負って、
片手に手提げカバンを持った下校中の子どもたちが、手を上げて横断歩道を渡っている。
みんな笑顔で本当に嬉しそうだ。
上級生と黄色のカバーにワッペンを着けた一年生。
同じ青いランドセルを背負った二人の男の子と目が合った。
仲良く丁寧にお辞儀をするその姿を見守った。
全員が渡り終えるのを見届けて、変わった青信号。僕は、バイクを発進させた。
その日の深夜…子どもの声で目が覚めた。
「怖いよ…痛いよ…」「助けて…助けて…」
両親は、もうすでに眠っている。
「誰?」
「怖いよ…痛いよ…」「助けて…助けて…」
部屋中に響く泣き声。
翌朝、眠い目をこすりながら仕事に向かった。
大切な荷物を届ける…
大変な時もあるけれどやりがいがある。
「ただいま」
「お帰り」
帰宅後は夕食を食べて、しばらくしてから入浴。
「早めに寝よう」
ところが、その日も…その次の日も…
「怖いよ…痛いよ…」「助けて…助けて…」
聞こえ続ける泣き声…
「3日連続…さすがに寝不足だ」
それでも、仕事は待ってくれない。
「ありがとうございました」
今日もお客様の笑顔のために…
公園のベンチに座り、お弁当を素早く食べて次の配達先へ。
【児童養護施設 スマイルホームなかよし園】
「こんにちは。お荷物のお届けです」
可愛い子供たちの声が聞こえる。
「はい」
しばらくすると、そこには園長先生の姿が…
冷たく冷えた缶ジュースを手に
「いつも配達ご苦労様。良ければ…どうぞ」
「いえ…」
「暑いから…ぜひ」
「ありがとうございます。いただきます」
その時、僕の足元に小さなボールが転がって来た。
「お兄さん、ごめんなさい」
「大丈夫!大丈夫!あっ、君は…」
走って来たのは、横断歩道を渡っていた男の子だった。
手には硬式用のグローブ。
青いゴムボール…
一瞬、戸惑う僕に
「弟が怖がりだから…」
「なるほど。弟くんは?」
「向こうにいるよ」
「そうなんだ」
「ありがとう。じゃあ、またね」
男の子は、大きく手を振っている。
「ごめんなさいね。お仕事中に」
「いえいえ。そうだ…」
ある事を思い出した僕は、その場で園長先生にお願いをした。
「僕、明日休みなんですけど…ここに来ても良いですか?」
「ええ、もちろん」
翌日…
「こんにちは」
「はいはい」
「お邪魔します。園長先生、昨日はご馳走様でした」
「いえいえ」
「野球が得意なので…今日は一緒に遊べたらと思って」
「あら,嬉しい!きっと喜ぶと思うわ」
「僕、弟がいて…六年生の時に弟が一年生だったんです。
でも、病気で…」
「まあ、あの子と同じ!」
「えっ?」
「少し待っててね」
数分後…
「こんにちは。お兄さん、今日はどうしたの?」
「一緒にキャッチボールをしよう!」
「えっ、良いの?やった~」
「それと…プレゼント!」
「ボクにくれるの?開けても良い?」
「もちろん!」
「わあ~野球のボールだ!お兄さん、ありがとう!」
それから、お友達も大勢参加して夕方まで楽しく遊んだ…
「今日はありがとう!」
「凄く楽しかった!また、遊んでくれる?」
「良いよ!」
「ボールありがとう!大切にするね。もう1つは…弟に」
「きっと喜ぶね」
「ボク、頑張ってプロ野球選手になるのが夢なんだ」
「応援してるよ!頑張れ!」
「ありがとう!」
「またね」
「うん!お兄さん、バイバ~イ」
その日以降、泣き声は…聞こえなくなった…
最後までお読みいただきありがとうございました。