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もう一度魔王様に会いたい  作者: んまい棒
プロローグ
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プロローグ「大鎌と呼ばれた男」

初投稿です。よろしくお願いします。

 血の染み込んだ地面、肉が焼かれた匂い、ほんの数分前まで生きていた仲間達。

 見渡す限り、あるのは仲間の死体の山。


 仲間達は精鋭だったはずだった。総勢50人程の幾多の戦場を共にした猛者達だった。

 対する敵は4人のみ。すでに壊滅と言っていいほどの被害。それでも敵はこちらを殲滅しようと追撃の手は緩めない。


 相手は女神の加護を得た勇者が率いる4人。消耗はしているが致命傷は無い。


 とうとう最後の仲間が切り倒される。背には魔王様一人を残した城。

 残されたのは2m近い体格の屈強な男が一人。紫の瞳を輝かせ、黒い肌に血管を浮かせている。背丈ほどもある大鎌を持ち、仲間がいなくなっても尚闘争心に火を灯す。


 大鎌の男にとっては絶望的な状況。しかし、戦場で生まれ戦場で生きてきた男に取ってはこれ以上の無いほど興奮する状況。

 無意識に口角を上げ、長年戦場を共にしてきた大鎌を握りなおし、癖でくるりと一回転させる。


『よくぞここまでたどり着いた、勇者共よ。ここまでの奮闘、見事であった』

『チープなセリフを言いやがって! 魔王軍最強の戦士とでも言うつもりか?』

『自ら名乗ったことはないが、そうだな、我は最強と謳われる男だ。しかし、仲間は全滅。魔王軍の残りは我しかいない。であれば! 敢えて言わせてもらおう! 我は魔王軍最強の戦士、通り名は大鎌! 貴様の名前を聞こう』

『……私は、創世の女神エーファ様の加護を受けた勇者、桐生だ! 世界の安寧を取り戻すために、魔王を倒しに来た!』


 すでに仲間を刻んできたであろう剣を突き出して口上に乗ってくる勇者。恐らくその剣は聖剣と伝えられている物だろう。純白の剣身には血の一滴も残っていない。

 勇者の後ろに控えているのは聖女、魔法使い、騎士の3人。散った仲間達からの噂によれば、聖女には復活の奇跡が備わっているらしい。


 魔王軍最強と謳われた自分でも、こいつら4人を相手にしては勝算は極わずかだろう。理解のできない魔法と剣戟によって散った仲間達を見てきた。


 しかし、ここで諦めては魔王様に顔向けできない。少しでも傷を残さなければ、こいつらであれば本当に魔王様を倒してしまうかもしれない。


『貴様らの話は聞いている。残すは我のみではあるが、魔王軍の者としてただでここを通すわけにはいかぬ。貴様に決闘を申し込む』


 親指に傷を付けて血を流し、勇者に向けて拳を突き出す。


 これまでの勇者達の道程で散った仲間もいた。その過程で得た情報によれば、勇者は何故か我々の言語を理解しており、何故か挑まれた決闘には全て乗ってきたという。であれば、今回も乗ってくるはずだ。


「駄目よユウジ! こいつを倒したら目の前には魔王がいるのよ。ここで消耗は無意味よ!」

「わかってるよアンジュ。でも、今までも受けてきた。最後の最後に受けないなんて、格好がつかないだろう? あいつの最後の望みだ。叶えてやろう」

 案の定乗ってきた。こちらを見る勇者の瞳は殺意を感じない程澄んでいた。

 恐らく、自分が負けるなんてことは微塵も思ってないのだろう。


 負ければ終わり、勝って殺したとしても、残りの仲間も殺さなければならない。特に、聖女が一番厄介だ。


 仲間は全滅、決闘に勝利しても終わらない。それでも、この危機的な状況に高揚している自分がいる。

 ここまで絶望的な状況は何十年ぶりだろうか。100年近く戦場で生きてきて常に勝利を渇望し、気付けば対等に渡り合える相手はいなくなっていた。


 勇者も親指から血を出して拳を突き出してきた。

 決闘をするのに必要な事は互いの同意だけ。この行為はただの風習だ。そんなものにまで付き合ってくれるとは、なんともまぁ高潔なのだろうか。


『私の名は桐生裕二! 貴様を倒し、魔王を倒す者だ!』

『我らに名前は無い。しかし、通り名は大鎌だ。来るがいい勇者キリュウ! 最後の関門として、我を乗り越えてみろ!』


 互いに名乗りをあげての決戦の開始。


 勇者は聖剣を振り、女神から授かった加護による幾多の魔法。

 対するこちらは長年付き添ってくれたただの大鎌と、風の魔法のみ。

 武器だけならリーチの差はある。魔法だけの強者であれば何度も相対してきた。しかし、勇者は魔法も剣も巧み。

 となれば、勝機は経験の差だけだろう。所詮は十数年しか生きていない若造だ。耐えて、耐えて相手の隙を誘い出し、渾身の一撃を食らわせて殺せばいい。


 時間にしてたかが10数分程度だろう。しかし、これまでの仲間の犠牲によって消耗していた勇者の動きは鈍くなっていた。


 そして、詰めるのか、距離を取るのかの一瞬の判断が鈍った勇者の隙を見逃さなかった。

 この一振りに己の人生をかけて、勇者の左肩に切っ先を突き立てた。


『勝機!』

『……ッ! ぐあぁ!』


 間違いなく渾身の一振りだった。しかし、女神の加護というのは体も丈夫にしてくれるのだろうか。

 振るった大鎌は体を割ることはなく、腕を落としただけだった。


 己の全力と仲間50人の命を捧げて、勇者に与えられた傷は腕一本のみ。

 そして、今の自分は大振りにしたせいで体勢を戻すのはままならない。


『ぐうぅぅ! <女神様の裁定>!』


 痛みを堪えた勇者の聖剣から放たれる神聖な光の一撃。光り輝いた剣身に脳天から裁断された。


 最後に不甲斐ない結果を魔王様に謝りたかった。退屈な日々ではあったが、魔王様に仕えていたのは生涯の誇りであった。魔王様の作る世界をこの目で見たかった。


「魔王様……申し訳……ござ…………」


 全身を光に包まれた大鎌の男は、痛みを感じる間もなく消滅した。


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