第六十五話 ビルド・マギー・ヘキサグラム
(ビルド・マギー・ヘキサグラム! 命令だ、起きろ! そしてナニーの言うことを聴き、嘘偽る事無くそれを実行しろ!)
念話で命令を頭に直接叩き込み、無理やり起こしてやる。
「うむぅぅ、何だぁ、夢か?」
ビルドは体の上の布団を退け、のそりと体を起こし、明るい部屋の中を見回し、大きな窓のところで首を止めた。
窓の外がまだ暗く、遠くに見える高い山の山頂がほんのり輪郭が分かる程度の時間だ、日が差し出すまで数時間の猶予がある。
「ふむ、まだ起きるには早いか」
「いえ、起きてやることがありますわよ」
ナニーは透明ローブを収納して、ビルドの前に姿を現した。
「何奴! ぬ? ナニーではないか! 何故生きておる!」
ビルドは怒鳴りつつ、枕元のベルを鳴らす。
鳴った途端に、ここに来るまでの間にあった部屋の人達が動き出す気配があった。
(セイラ、ラミエル、皆がここに来たら回復させるよ)
((任せて!))
ビルドはじっとナニーを品定めするような視線で、爪先から頭の先まで舐めるように睨め付ける。
「ふむ、あの薬なら教皇クラスの回復魔法でも毒は取り除けん筈だが、まあ良い、透明ローブでも使ったか、ナニー、お前の認証を消していなかったのは失敗であったな、ここまで来れたのだからな」
「その通りですわ、あの毒で私は死にましたもの、母に頂いた毒耐性の指輪を首に掛けていても、ほんの少し死を遠ざけただけでした。身の内から焼け爛れる痛みを抑える事も出来ませんでした」
「ふははははは! あのような安物ではそうか、ほぼ即死になる筈がしぶとかったのはそう言うことか、あの女も、お前の母だな、奴もお前の様な無能を産んだ罰として弱い毒を数年に渡り飲ませていたが、毒の回りが遅いとは思っておった。ナニー、お主に渡した後毒が回りだし、死んだと言うことだな。ふははははは!」
そんな事があったのか! ナニーは大丈夫か?
(うふふ、心配ありませんわ、創造神様に聞いておりますもの、母は私に毒が盛られる事を心配して、私にこの指輪を託してくれたのですから)
(そうなんだ、無理はするなよ)
(はい)
「して何故生き返っておる、その様な魔道具は聴いたことも無いが、あるなら渡してもらおうか、ナニー」
「うふふふ、安心して下さいませ、ナニーはちゃんと死にましたもの」
「ええい! ふざけておるのか! 今そこに居るではないか!」
身体中のゆるんだぶよぶよの身体を震わせビルドは唾を飛ばしながら怒鳴り付ける。
「うふふふ、ビルド、カール、デムーを怨み、その殺された私を不憫に思い、創造神様がホムンクルスとして再び生を授けてくれたのですわ」
「何ぃ! その様な事があるわけ無かろう! ふざけるのも大概にするのだ!」
目を見開き、頭の月間が切れるのではないかと思うほど赤くした顔は醜く歪み、ナニーに穴を空けようとするが如く睨め付ける。
カチャ
とととととと
「「お呼びでしょうか」」
部屋に入ってきたのは、ここに来る前に見た女性達六名。
それを見たビルドはその6人に命令を下す。
「遅い! ベルを鳴らせばすぐに来ぬか! 役立たず共が! さっさとそこの女を取り押さえ、生き返りの魔道具を探し出すのだ! クソッ、何故血を分けた者には魅了が効かんのだ!」
それでか、なんで魅了を使ってこないのかと思っていたが。
「「承りました」」
女性達がナニーに向き直り、取り押さえるため動き出した。
(セイラ、ラミエル、回復させるぞ!)
((行くわよ!))
((ハイエンドヒール!))
女性達に向かって精神に効果のある回復魔法を全力で掛ける。
(ベリアルよ、あの呪いの元を吸い取るのじゃ! 私は過剰に摂取されとる麻薬を吸い取る! そりゃ!)
(行くよぉ~! 呪いよ私の元に集まれぇ~!)
ルキとベリアルが、回復魔法では取りきれない毒や麻薬、呪いを吸出して行ってくれる。
だが、麻薬の作用でなんとか動かしていた体は、その作用を失いその場に崩れ落ちる。
それを忍君達が倒れる先にベッドのマットを女性が倒れる先に設置して、ボフッと音を立て、床に叩き付けてしまう事を防いでくれた。
「ちぃ! 麻薬が効きすぎか! 何をしておるさっさと立ち上がり魔道具を奪い取るのだ!」
まだ回復しきれていないため、もぞもぞと動こうとするが、麻薬の切れた体は思うように動かず、そのマットの上で身をよじり蠢く事しか出来ない。
「どいつもこいつも、役立たずが! 自ら動かなくてはならんとは!」
ビルドは体の上の布団をはね除け、ベッドから降りようとする。限界までは行かないが、ほぼ体力を奪い、喚き散らした後だ、10残したHPは、5まで減っている。
細身の者ならそれだけあればなんとか動く事も出来たであろうが、ぶよぶよと肥え太った体では、ベッドの上の移動でさえ難しく、大きなキングサイズを超える大きさのベッドの中央から縁にさえ行くことが出来ない。
「クソッ! 介添えが居らんではないか!」
元々、1人では儘ならなかったのだな。
もぞもぞと動いていたが諦め、ナニーに向かって右手を差し向け、叫んだ。
「ダークバインド! ······ダークバインド!」
魔法名叫んで、右手を差し向けた格好で止まる。
出来る訳ない、スキルは搾取したのだから。
「な、何故だ! 何故魔法が出んのだ!」
「うふふふ、ステータスをご覧になれば分かりますわよ」
「何を、ステータス! 何だこのステータスは! レベルが1だと! 数値も体力の3以外が1ではないか! スキルも何も無い! 隠されている筈の称号が全て見えておるではないか!」
わたわたとして、自身の手を見つめ、呟く。
「不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い! 不味いではないか! これでは何も出来ないでは無いか!」
ビルドは先ほどまでの自信に満ち溢れた態度から、焦りの見える態度に変わる。
「クソッ、寝ている間に偽装の魔道具を盗んだのだな! 返せ! 返すのだ!」
「ビルド、命令です」
ついにナニーがビルドに命令を下す。
「貴様、王に向かって不敬極まりないぞ!」
「自身の罪の証拠を今から集めなさい、明日オシリス様がいらっしゃいますから、礼儀正しくお迎えして、嘘偽り無く自身の罪全ての告白と共に罪の証拠をオシリス様にお渡しして、ビルド、カール、デムーと共に民の前で公表し、民により断罪されなさい! 回復魔法!」
ビルドの体力が一般人レベルまで回復され、ビルドはベッドの上をズリズリと這い、ベッドから降りると、部屋にあった宝箱を開き小さな鞄を取り出す。
「あら、それが罪の全てが詰まったアイテムボックスですの?」
「そ、そうだ! ここなら誰も入れん! 一番安全な場所だ! 場所だったのだ! クソッ!」
「ほら、山頂に日が見えてきましたわよ、オシリス様がおいでになりますわ、命令、私がここに来た事はお喋りにはなりませんよう、それと裁かれるその時まで善き、良き事だけを行いなさい」
「くっ」
「では、もう逢うことはございませんので、さようならですわ」
「ま、待て! 助けるのだ! ナニー!」
ナニーは透明ローブを羽織り、姿を消した。
「ナニー!」
女性達は忍君達にも手伝ってもらい、見た時の部屋に戻し、ベッドに寝かせておいた。
読んでくれて本当にありがとうございます。
もうすぐ第一章が終わります。
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