第五十一話 カール・ヘキサグラム Ⅰ
持ち運びハウスをしまい、透明ローブを羽織り、空に飛び上がる。
(岩山に行くよ)
((はい))
飛翔で岩山方面に飛ぶと黒い布で周りを囲み、火の明かりをなるべく出さないように工夫された陣地が見えてくる。
上から見ると丸分かりなんだが、大が1張り、小3張りのテントが張られ、夜の見張りは2名1組で4組8名が、木に足場を付け四方の闇を各々が見つめている。
(あの大きなテントだよなぁ、それか、小さいが豪華そうなテントか?)
(今ならまだ夜も早い時間ですから、大きいテントが有力だと思いますわよ)
(そう言えばそうだよな、降りてなんとか潜り込みたいところだな、よし、一旦降りるよ)
((はい!))
大きなテントの出入口前に降り立ち、中の様子を窺う。
大きなテントは直径10メートル程あり、中々のデかさだ。
(モンゴルの遊牧民が使っていたゲルに似てますね)
(ああ! 俺もどっかで見たことあるような気がしてたけど、思い出せなかった、セイラありがとう、スッキリしたよ)
(うふふ、よくわかりませんが、ほらほら中で喋り始めましたよ)
『よし、報告を始めよ』
ちょうど、報告会の様だな、よし皆と頷き合い聞き耳をたてる事にする。
『はっ! チェルノーゼム方面、動きはありません』
『よし、そのまま監視を続けよ』
『はっ!』
『国境砦方面、馬車が1台、見えていた人数は3名、森を出て軍本体と接触しました。特に変わった動きは無く、御者台に少年1名、少女1名、途中小窓から顔を出した少女は、馬車の屋根に上がったのですが、その後は特に動きはありませんでした』
『ふむ。運良くスタンピード作戦を抜けたと言うことか。ふふっ、3人だけでも罪の無い者が助かって良かったよ、あの様な作戦は、いや、止めておこう。よし、次だ』
『はっ! 軍隊本陣方面ですが、先ほどの馬車が本陣にて一時停車、馬車の中を調べた様です、その後すぐに王都方面に動き出しましたので、能力的にも低い者達だった様です』
『ほお、それは良かった。この戦争に使えるとなれば奴隷の腕輪を嵌められていただろうからな、あのドワーフ達の商隊と、エルフ達の冒険者パーティーの様にな』
『はっ! あの者達は罪も何も無い者達です、アポローン侯爵様、進言をして助ける事は出来ないのでありますか?』
『うむ、そうしたいのは山々だが、オシリス様が今回のスタンピードを退け、御旗を掲げて頂ければだが、いや、必ず退け王都へ向かうだろう。私達は数こそ少ないがその場に合流する、それまでは本陣の動きを止める情報を上げ続けねばならんぞ、良いな!』
『『はっ!』』
『よし、続けよ』
『はっ! 午前王都方面よりの補給物資の馬車団が本陣に到着しました、そのまま本陣へ合流とみられます。先ほどの少年少女の乗った馬車は本陣より王都方面へ向かいました。夕闇が迫り視認不可まで追いましたが、先の夜営地で夜営をする見込みです、特に魔物に襲われるなどはありませんでした、以上!』
『ふむ、あの一帯は魔物の生息地とは離れておるから、今宵は大丈夫であろう、どこに向かうかは分からんが、旅の安全を祈ろう』
(ほお、良い奴らの様じゃな)
(ああ、ここはこのままおいておこう、その本陣に向かうか)
(うふふ。アポローン侯爵さんがここに来ていましたのね、幼い頃に甘いお菓子を頂いた記憶が沢山ありますわ、この方は武人、剣聖と呼ばれる達人ですのよ)
(おお~剣聖、何かカッコいい響きですね♪)
(ラミエルは大聖女だろ、それもカッコいいぞ)
(はへ? にゅふふは、照れますよユウマさんたらぁ~♪)
(私も進化して大聖女ですぅ、あははは♪)
(ん? それを言うなら私なんぞ、悪魔で大聖女じゃ!)
(うふふ。そろそろ行きませんか、本陣の方も報告会をしているでしょうし)
そうだな、ここの人達の様な者もいるかと知れないしな。
(よし、行こう飛翔!)
((飛翔!))
素早く飛び立ち、本陣のある篝火が見える方向にスピードをあげ飛ぶと、数秒で本陣の上空へ到着した。
建ち並ぶテントの中で直径が20メートル以上ありそうな大きなテントがあり、今まさに人が集まりだしているところだった。
(よし、俺達も中に潜り込めるぞ、行こう!)
((はい!))
大きく広げられた入口から人の波に乗り、中に入り込む事が出来た。
中央に丸い大きなテーブルと椅子が置かれていて、ひい、ふう、みい······12人が座れる椅子があり、1つの席は一際豪奢な椅子があり、まだ誰も座っていない。
あそこがこの軍の指揮官が座る椅子だろうな。
11名が椅子に座り、残りの従者達は鎧を着込み、テントの端の方にバラけて中央を囲むように陣取り、直立不動になる。
雑談を繰り返す者達や、この報告会の資料に目を通す者、各々が好きに時間を潰していた。
「カール殿下がお越しになります。皆様ご起立を」
その声に合わせ座っていた者達は立ち上がり、入口の方に向き直る。
(カール殿下ってナニー!)
(ええ。兄ですわ、こんなに早く会えるなんて。うふふ。奴隷の腕輪を私が嵌めてもよろしくて)
((もちろんです!))
(ナニーしか適任はいないよ、頑張ってね)
(うふふ、ありがとうございます)
そして見計らった様に、カール殿下が護衛を引き連れテントに入ってくる。
すると今まで直立不動にしていた者達は片膝をつき、お迎えの格好になる。
周りの護衛達はそのまま直立不動だ。
カール殿下は20歳くらいだろうか、年齢が読めないほど太り、額に汗で張り付いた金髪、頭頂部は髪の毛が薄くなりバーコード状態、大きめの杖をつきながら豪奢な椅子に向かい、ズズンと音が鳴ったような幻聴が聞こえるほどだ。
「うむ。席に着くが良い」
「「はっ!」」
皆が席に座り、始まる体制になり、カール殿下から声が発せられる。
「よし、報告を聞こうか」
「はっ! 王都からの補給物資が馬車で16台届きました」
「よし順調だな、毎日途切れず来てもらわねばならん。よし、次だ!」
「はっ! 街道を行き来する者がおりました、砦方面からでしたが、少年1名、少女2名の冒険者と思われますが、レベルも3と低く、スキルも生活魔法のみでしたので捕らえず、通行させました、以上!」
「なんだその糞は、そんな者を捕まえようと食料の無駄だ、その判断褒めてつかわす、良くやった」
「はっ! ありがたき幸せ!」
「次だ」
「はっ! 岩山山頂の見張りについて報告します」
「アポローン侯爵からの報告です、チェルノーゼム王国方面動き無し、国境砦も煙などは上がっていないとの事です! 以上!」
「ふむ、予定では昨夜スタンピード作戦が行われているはずだが、先日の雨のせいで入門が遅れている可能性が高いと言っていたが、どうじゃ?」
国境砦の報告が始まるようです。
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