第三十六話 スタンピード
「え? そんなに沢山居るのですか?」
「ああ、この街を拠点としている者だけでな」
夕食の時、カウフマン伯爵様が教えてくれたのですが、あの転移者がリーダーのクランは26人だけではなかった。
この周辺の村や町にまで手をのばし、トラウト領にも支部があるそうだ。
「最近おとなしい盗賊に代わって街道を荒らし回っている様だ。クランのリーダーは捕らえたが根絶やしにするためには時間がかかるだろうな」
「まったく迷惑なクランを作ったもんですね」
「書簡にて各村や町にも手配をかけだのでな、時間はかかっても、逃げ道は無いので心配は要らん」
ドゴン ドゴン
「何事だ!」
「はっ、確認して参ります」
執事さんが部屋を出ようとした時1人の兵士がテラスから声を発しました。
「賊が入り込みました! ただいま交戦中です! 伯爵様と奥様は、奥の部屋に避難をして下さい!」
「うむ、兵達も気を付けるのだぞ!」
「はっ!」
「俺達も手伝います! その4人は一緒に避難させて下さい!」
「すまぬが任せた! その方ら一緒に避難だ、付いてくるのだ!」
4人は頷き、カウフマン伯爵達の後を追い、部屋の奥に消えた。
「よし、全員捕獲作戦だ! 行くぞ!」
「「はい!」」
庭に走り出て見かけた人は全て鑑定と搾取して回り、広大な屋敷の中は100名以上が入り込んでいた。
中にはテイマーもいて、数十匹の魔狼を庭に放したためそれの処理にも時間がかかった。
「ユウマ、変な匂いしない?」
「ああ、何の匂いだろ、鑑定! なっ! あかんやつやん! 魔物寄せて何考えてんのや!」
「え? 魔物寄せって? 鑑定! 駄目じゃないのこんなの!」
俺は近くに倒れている奴に奴隷の腕輪を嵌め、問い質す。
「命令や! 魔物寄せでなにするつもりや!」
「う、うぅ、この街を魔物に襲わせる計画だ、その騒ぎの内にリーダーを助け出す段取りだ」
「糞やな! どっから来る! 早く言え!」
「に、西の森からここまでずっと撒いてきた」
「くそっ! 忍君達はここの制圧を続けてくれ」
「はい!」
「セイラ、ナニー西に行くぞ! お母さんとフウも頼めるか」
「任せるにゃ!」
『うふふ。任せて』
「でも、今から間に合うの?」
『フウも大きくなりなさい』
「ほいっと!」
お母さんとフウは、本来の大きさに戻って、尻尾を俺達に巻き付け背中に乗せてくれた。
『行きますよ』
「落ちないでにゃ! ほいっと!」
俺はフウにしがみつき、セイラとナニーは、お母さんに落とされないようにこちらもしがみついている。
シュ
一瞬で加速し、次の瞬間には街壁を越え、遠くに見える森からあふれ出た魔物達の集団が、街道を真っ直ぐ街に向かってきている事が目に見えて分かった。
街道に降り立った俺達。
「お母さんとフウは魔物達が横に逃げないように追いたてて!」
「行くにゃ!」
『行きます!』
シュ シュ
既に街道から離れかけている魔物もいたが、ウインドエンペラーキャットの2匹が、両サイドに分かれ脇にそれる魔物達を街道の本道に戻すように追いたてる。
「俺が、搾取しまくるから2人は倒して収納していって!」
「任せて!」
「搾取!」
魔狼やコボルドなどの足の早い魔物からやって来る。次から次に向かってきては俺達に倒されていくのだが、既に1時間くらいは勢いもそのままで押し寄せてきている。
『殿は地龍、大きいです!』
お母さんの念話を聞き、先を見ると森の木より高い位置に顔があるデカいトカゲ、地龍がズシンズシンと地響きを響かせながら2匹やって来た。
「デカっ! 搾取!」
2発の玉は何の障害もなく地龍に吸い込まれ、セイラとナニーのウインドアローで眉間を撃ち抜かれ、その場に沈んだ。
「ほお。あの地龍を倒せるとはな、我輩の従魔達が急に一方向に駆け出したと思えば、貴様も転移者ではないか」
ん? また転移者か? 鑑定! ······はぁぁ、『大量殺人計画者』ね、こいつにも搾取! 流石にイノシシ、ビッグボアに座っているからしんどいなぁくらいかな。落ちては来ないし。
「あ? なぜ我輩のキングが座ってしまうのだ? いや、それどころではないな、貴様はレベル1で生活魔法しかスキルが無いくせに我輩でもテイム出来なかった地龍をって、はぁ、急に体調が」
俺は素早く奴隷の腕輪を嵌め命令する。
「命令だ、そのままビッグボアにしがみついていろ」
一応ビッグボアも仕留めておく。
地龍が倒れた後にやっと、あふれ出る魔物の数が減り、一時間ほどでポツポツになり、さらに一時間後に魔物が森から出てこなくなった。
遠くに見える地龍の背中、ここからでもいけるかな? 収納! よし2匹とも収納し終わり。ふぅ、何とか一息つけたな。
「お疲れにゃ~」
そう言うとフウは小さくなりフードに戻ってきた。
『この魔物寄せの匂い浄化出来ませんか? 私達でもムズムズしますので』
「セイラ、この魔物寄せって浄化出来る?」
「ん~、分かりませんが、ほいっと! うんうん。出来そうね。私とユウマさんは出来そうですが、ナニーさんは無理っぽいですね、こんなところで本職との違いが出ちゃいましたね」
「おお! 出来るなら良いか、さっさと終わらせてしまおう」
「は~い♪」
「私は街道のデコボコを直しておきますわね」
「頼むよ、魔物があれだけ走り回ったからガタガタだもんな、あはは······」
フウは俺と、お母さんはセイラとナニーを乗せて分かれ、匂いのあるところを地道に浄化して回り、森の手前まで終わったのは、日が登り始める少し前だった。
「ふあぁ。終わりましたねぇ~」
「ふあぁ。物凄く眠いよ」
「今日は出発するのは止めておきましょう。こんなに眠くては運転するユウマさんは辛いですわ」
「あはは。それはありがたいな。よし、ぼちぼち帰るか」
街道を歩き街に向かう、日が登り始めた時、街道の先から馬が走ってくるのが見えた。
「10騎ほどいるね騎士さんが、それと忍君達も」
「まあ。馬を連れてきてくれたなら馬車を出せますわね」
「このまま歩くのかと思ってたから神様に見えますよ」
「セイラ、流石に神様は言い過ぎだ、忍様とテルース様とお呼びしよう」
「うふふ。それはそれでどうかと思いますわよ」
「お~い! お疲れ様で~っす!」
元気な忍君だな、運転は忍君に任せよう。
「お疲れ様、冗談抜きで眠いよ」
「あはは、一晩中ですか?」
「ああ、森の魔物はほとんど居なくなったよ、冒険者の方達には悪い事したな」
「ですね~、そうだ、街道の途中にビッグボアとその上に1人転移者が乗っかってましたよ。ヤバい称号があったので今頃牢屋ですが」
「あ、忘れてた♪」
「うふふ。そう言えば放っておいたままですわね」
「おい貴様、少し話を聞かせろ」
今まで黙って聞いていた騎士さんが馬上から話しかけてきた。
「ん? 何ですか?」
(何こいつら、忍君の友達?)
(違・い・ま・す! 途中の分かれ道の所で会って、勝手に付いてきたクランメンバーですよ!)
(うぷぷっ、態々捕まりに来てくれたのかな? ぷぷっ)
(ついでに僕達って錬金術を持ってなかったでしょ? ちょうど良いかなぁ~って)
(ナイスよ忍君! 朝食のウインナー2本プラスしてあげるわ!)
(パンも焼きたてを差し上げ召すわよ♪)
(くふふふ。よし、搾取!)
「貴様がスタンピードを止めぇぇ、なんだ、力が入らん」
「俺もだぁ、なんだぁ、これはぁ」
「忍君、手伝ってってか、頼むよ、流石にしんどいよ」
「了解。テルースも手伝って」
「は~い♪」
奴隷の腕輪を嵌め、馬から下ろし馬車の天井に12人を縛りつけて、2頭で引く馬車を14頭で交代させながら街に向かいお昼過ぎに到着した。