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18.快癒④ 荷物整理

 結論から言えば紛失、破損したものは無かった。アルフレートが失ったのは焼失したテントと食料の一部くらいである。ただし確認作業は難航した。原因はフィーナの好奇心にある。


「これは何ですか?」「あれは?」「それは?」「どんな時に使うんですか?」「どうやって?」「触ってもいいですか?」「外では皆持っているんですか?」


 アルフレートが荷物の一つについてなんとなしに解説してからというもの、フィーナは敷物の上に広げられた他の道具類についても片端から質問をするようになっていた。


前々から気になってはいたそうだが、勝手に袋の中身を見るどころか見せて貰えるか聞くのも良くないと思って我慢していたらしい。


 彼女は物言いこそ落ち着いていたが言葉の数も勢いも明らかに普段と違った。何より表情が輝いている。おかげでアルフレートは作業を度々中断することになったが悪い気はしなかった。


装飾の美しいものにも彼女の関心は向かったが、その中心は実用の道具にあるようだった。


 荷物を確認していくアルフレートの横で、フィーナは長剣の刃紋を不思議そうに撫でながらその出来方の説明に聞き入り、鉄の鍋はあれこれひっくり返してはこちらも指先で撫でたり叩いたりし、


真鍮(しんちゅう)製の携帯四分儀(しぶんぎ)を山頂や森に向け、透明ガラスの砂時計や水平器をくるりくるりと回転させ、


水に浮かべた磁鉄十字のペンダントトップをコンパスと一緒に手に持って、北を確認したかと思えば今度は右に左にと体ごと回って十字と磁針と美しいおさげを揺り動かし、黒檀(こくだん)の算盤を弾いたり白磁の様な腕の上で転がしたりし、


望遠鏡であちらこちらと眺めた挙句、作業中のアルフレートの顔の観察を始め、目測を誤ってそのままぶつかり涙目で苦情を言ってきたり、真鍮やクルミ材の定規をメモリにずれがあるはずだと合わせてみたり、


かと思えば今度は四分儀が本当に105等分されているか確かめるつもりなのか定規で1グラート(420グラート=360度)ずつメモリを測っていったりした。


「あ! それ! 全部鉄ですか? 3本もありますけど」

「これか? そうだな鉄、というか鋼だが」


 そして今彼女の興味は鞘から出された3本のナイフに移っている。2本が同じ(こしら)えで、そのうちの1本をアルフレートがフィーナに渡した。


 職人に1本5ルナー半で造らせた片刃のナイフは刃渡り1.5ケント(1ケント≒10㎝)。手の平程の刃は大きすぎず小さすぎず、厚みが十分にあるので調理などの軽作業や解体だけでなく戦闘にも耐えられる。


「これも、あの剣と同じで(しま)模様があるんですね。やっぱり良い物なんですか?」

「職人を探して造らせた良品だ。残りの1本はそこらの店で買った量産品だが」

「それでそっちのは縞が無いんですね」


「ああ。人前で使うならその方が目立たなくて良い」

「へぇー」


 アルフレートの方に刃を向けないようにだろう、フィーナが横を向いてナイフを空中で前後させる。枝を削って焚きつけでも作るような動きだ。その次はまな板の上で何か切るようにナイフを振り出した。使い心地が気になる様である。


「昼食の時にでも使ってみるか?」

「良いんですか!?」


 ぱっと華やぐフィーナにアルフレートは苦笑する。


「今更だな。他の物もさんざん触っていただろうに。遠慮は無用だ」

「ありがとうございます!」


 これか望遠鏡か、今のところ望遠鏡の方が好感触だったようにも思うが昼には何を贈るか決められるだろう。きっと喜んでもらえるはずである。

単位は日本式の4桁区切り。しかしメートル法はやっぱり便利ですね。

1ルナーは6、7万円くらいで考えています。

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