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17.快癒③ 日月と金と銀と

 荷袋の山を二人で次々と外へと出していく。その中に、特別小さい袋を認めたアルフレートがその中身をテーブルの上へと広げフィーナを呼んだ。


「君は、例えばこういった物はどう思う?」

「綺麗ですね……」


 数種類の金属の小片。フィーナはその中で明らかに輝きが違う金色の一枚を手に取りまじまじと見つめた。重量感のあるそれは同じ金色でも青銅とは色味が違う。


 丸く、ほとんど真円と言って良い形状で、おそらく太陽を(かたど)っているのだろう、意匠が施されている。


 裏側には有名な人物なのだろうか、男性の横顔が彫り込まれていた。側面の凹凸(おうとつ)もよくよく見てみると細密な文字だ。太陽を称える言葉が刻まれている。


「これは、お金? でしょうか? 金で作るものもあるんですね」

「普通は銀だな。君が持っているのはソールズ貨、で」


 そう言うとアルフレートは他の貨幣を順に指差していく。


「これがルナー、半ルナー、4分の1ルナー、ディー、青銅製のがティマだ」


 銀貨が四種に青銅貨が一種。ルナーはソールズと同じくらいの大きさだ。半ルナーは大きさはルナーと同じだが薄く、さらに二回りほど小さいのが4分の1ルナー。長方形のディーは大きさが小指の爪程しかない。同じく長方形のティマは親指の先から第一関節までくらいの大きさで真ん中に穴が開いている。


「へぇー、ずいぶんと沢山あるんですね。名前は……星、暦?」


「ああ。貨幣は、もともとルナーの一種類だけだったそうだ。銀は月を象徴する金属、ということから銀貨に月の名を当てたらしい。他の貨幣もルナーが基準になった――」


「太陽は一年周期。一年が10カ月で1ソールズ(太陽)は10ルナー(月)。一月が42日、そこから1ルナーが42ディー(日)。一日が20時間で、1ディーが20ティマ(時)だ」


「ああ数え方も同じなんですね。1ソールズが10ルナー、420ディー?」

「早いな」


「ふふ。だって月日の計算と同じでしょう。薬草を取るのにも畑の世話にも暦は大事じゃないですか。さ、あと少しです。荷物の残りを外に出してしまいましょう? 綺麗な物を見せて下さってありがとうございました。アルフレートさんがいなかったら多分一生見ることもなかったですよ」


 言いながら袋に硬貨を戻そうとするフィーナの手をアルフレートが止める。


「ああ……いや違う。君がその、こういった物を欲しくはないかと思ってだな。形のあるもので礼をしたいのだ。人里で、例えば山羊と交換するなら10頭分くらいにはなるぞ」


「お金を、ですか? 私が持っていても意味がないですよ。山から出るつもりがないですもの。それにアルフレートさんは帰ってから必要なんじゃないですか? 貰えないです」


「色々やりようはあるが、いやそうか、君は欲しいとは思わないか……」

 

 フィーナには遠慮をしている様子は一切見られなかった。彼女の生い立ちからある程度予想はしていたが金銭には興味がないようだ。また彼女の反応の薄さからするとどういう訳か家畜に関してもそれほど大きな価値は認めていないらしい。


 しかし金銭以外となるとやはり謝礼に困る。荷物の多くは旅の途中で処分してしまっていた。女性なら装身具などを贈ると喜ぶものだが手元に残っているのは形見の品ばかりで手放したくない。


「お礼と言うことでしたら、後で何か仕事でも手伝ってください。糸を紡いだり干し草を作ったり幾らでもやることはありますから」

「そうか分かった。草刈りならまかせてくれ。何度か宿代替わりに手伝ったことがある」


 返事をしつつ何か良いものは無いかとアルフレートは思案する。難問に思えたが、しかし荷物を運び終わり無くなっている物の確認作業を始めると、答えは意外と簡単に見つかりそうな気がしてきたのだった。


 思っていたよりも自分の持ち物の中にフィーナの興味を()く物が多いという事が判ったからである。

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