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1つのゴールと始まりと

1ヶ月半の時間を掛けて婚約は白紙に戻った。これでもかなり早く結論が出たほうだ。年頃の娘の後の婚約に関わるから急がせたと父が言っていた。

婚約は解消という形であったが、殿下の有責で賠償金も出た。ついでに私の怪我の慰謝料も。


資産は国内有数と言われる我が家であるが、お父さまが吹っかけまくった結果、賠償金は大変な金額になった。ゼロの数間違えてないかと思ったものの、お父さまはホクホク顔だったので合っているようだ。

とんでもなく怒っていたお父さまは嫌がらせもしっかり行い、ひと段落したのか楽しそうに請求書を見せてくれた。相変わらずとんでもないな。規模にもよるが城一つは余裕で買えそうである。


暫くはさまざまな意味で噂の的になるだろうけど、もう断罪、追放などと言う憂き目には合わないだろう。

自己満足と言われようと、私はやりきったのだ。





卒業式を終えて暫くは春休み。春から初夏にかけて社交界の催しが始まる。どこもかしこも騒がしくなるこの時期は学園もお休みになる。


本来なら王都内のタウンハウスか、領地でゆっくり過ごす予定だった。それが崩れたのは、やはり先の騒動のせいだった。


元々、次年度から生徒会に所属する推薦状をもらっていた。基本的に生徒会役員は家柄や成績、素行などを加味して選ばれる。姉は王妃教育があるからと辞退したが、選ばれて辞退する者はほとんどいない。

今現在、学園に所属する中で身分が最上位だから仕方ないものの、来年第二王子が入学するまでは絶対に手放してはくれないだろう。

会長なんて身に余る。


新学期が始まってから今の生徒会について仕事を教わっていく予定だった。

ただそれも先の騒動で頓挫した。

王子殿下の側近が与していたために、生徒会役員も解任されたのだ。そのせいで一期繰り上がって生徒会役員に任命されたという経緯がある。

尻拭いをするために色々と奔走し、入学式の準備にも追われることになった。

やらかした後の挨拶回りはさすがに緊張した。

私には同情の声が多かったが、でしゃばった点は否めないので肩身が狭かった。


そう言った経緯で、卒業パーティーの数日後には学園に戻ることになったのだ。

仕事が次々と舞い込んで、慣れないためにかなり時間を有してしまった。

敢えて言い訳するなら、そのせいで姉とすれ違うことになったのだと思う。

本当に百害あって一理なしだ。




王立学園は中等部と高等部に分かれている。

上流階級や中流階級、最近は一部の優秀な労働者階級も入学が認められている。


中等部を卒業することで貴族は一人前だと認められる。卒業を持って一般知識や規律、行儀作法を収めた証になるのだ。ここで他家に嫁ぐ娘や、就職するものも少なくない。


高等部に進学するのは、さらに高等教育を受けられる余裕のある者だ。高官に就きたい者、爵位を継ぐ者、実家の手伝いをしたい者、専門分野を極めたい者。

大体が自分の執務と兼任していることが多く、フレキシブルに授業が組めると人気がある。


姉も、殿下も中等部を卒業したら、進学予定はなかった。正式に王太子、王太子妃となり、実践的に動く予定だったから。

あの騒動があって、高等部に入学することに決まったのだ。

勿論急遽、入学試験を受けることになった。まあ卒業試験を上位で通過した2人には訳無いことだったが。



姉には婚約の申込みは殺到しているものの、色々な相手と会ってゆっくり進めるようで今は考えたくないと言っていた。

王妃教育がなくなって、どこかと婚姻を結ぶ前に領地経営を学びたいと訴えたと聞いている。孤児院に通いながら、経営も携わるつもりのようだ。

高等部のカリキュラムを楽しそうに組んでいる姿が印象的だった。

子供が好きだからと柔らかい笑みを浮かべていた。お姉さまが子供好きって初めて知ったわ。

最近は余裕が出てきたのか雰囲気も丸くなっている。

年は姉が私の2つ上で、弟は私の3つ下だ。姉と弟は5歳離れているので、弟にとって姉は物心つく頃から殿下の婚約者だった。

姉はピリピリしていて近寄りづらさがあったようだ。お姉ちゃん、お姉ちゃんと私の後ろをついて回る姿はとても可愛らしかった。

姉弟が話す機会も以前よりもずっと増えた。

私が仲介しないと会話すら続かなかった時代が嘘のように感じる。

姉も弟も家にいるから、今となっては私よりも仲がいいんじゃないかと思ってしまう。

喜ばしいことだけどちょっとジェラシー。



殿下は帝王学や心理学を学び直すとともに、優秀な人材の発掘を掲げているとのこと。

厳しく叱責され、謹慎。謹慎明けにはあちこちに謝罪に周り、期限を設けてそれまでは王族から一旦籍を外す。

平民と同じ扱いになるようだ。

王族としての権利は享受できなくなり、学生として必要なもの以外の金銭的援助も受けられなくなる。


彼が口先ばかりでなく、きちんと罪に向き合ったことから執行猶予が付いたらしい。

学生を終えるまでに認められるような功績を挙げたら復籍も考えるようだ。

その功績によっては一代限りの叙爵にもなり得るし、反対に問題を犯した場合は平民のままになるらしい。

賠償金は王家は肩代わりをするつもりはないようで、今まで持っていた資産から差し引かれ、足りない分は随時払っていかなくてはならない。

人によっては軽い罪だと思う人もいるだろうし、とんでもなく重い罪だという者もいるだろう。そこまで軽い罪ではないと私は思う。

誰からも慕われた彼が四面楚歌の環境で一から関係を築いていくのはかなり大変に違いない。

幼少期から特定のものとしか関わらせなかったことを反省し、他の者と交友させたいという思惑もあると聞いた。

あれから文通が続いている王妃さまご本人から伺った話だ。



冤罪を作り出して姉を嵌めようとした主犯格の2人は卒業まであと1年あったが学園を辞め、実家で鍛え直されていると聞いた。貴族としての立身出世は絶望的だ。

積極的に肯定はしなかったものの、諌めることはなく追従していた1人は学園を休学し、他の国に武者修行に出るらしい。



アゼリア嬢の罪は、周囲から正しい情報を集めることができず偏った意見を鵜呑みにしてしまったこと。学生だから失敗で済むが、大人になればすぐ進退に影響する。

彼女が自分の意志で冤罪を作り出したわけではなく、利用された面が強いこと、学園での出来事でまだ1年生だったことが考慮された。

1年次の単位が無効になり、再教育が課せられた。合格すれば次年度進級が認められるが、不合格ならそのまま退学となる。

これが社会での出来事だったら男爵令嬢は問答無用で平民落ちにもなっただろうが、学生としての恩恵を受ける形となった。

つまり、学内の校則で処分が決められたのだ。父も姉も彼女のことを民事で訴える気はなかったようでそれ以上の罰を受けることはなかった。お父さまがお姉さまに話を通してくださったのかもしれない。


まだ学生の私では教育者として不適格なので、幼少期にお世話になった家庭教師に依頼した。とんでもなく厳しいが、理不尽はしない方で評判は折り紙付きなので、頑張ってほしい。


私の侍女として雇うことに決めた際、お父さまにもきちんと話を通してある。

反対された時の説得問答もちゃんと考えておいたが、おそらく私の考えていたことなどお見通しだった。将来を見据えて長い目で見た時に利益になるだろうと伝えれば、推定ではなく利益にしなさいと念を押された。

さすがに侯爵家に入れるには時期尚早なので、学園での付き人として雇用契約を交わした。





学園の生徒の権利で、やむを得ない事情があれば社会貢献度、課題、試験成績を鑑みて単位を取得出来るシステムがある。

若くして爵位を継がなければならなかった私の婚約者のような例で使用されることがたまにある。

それを私は、アゼリア様の身に危険が迫っており、学園内での不和を防ぐためとの名目で、生徒会役員の推薦状と共に提出した。

成績は前提として、条件を満たす何らかの貢献をすれば考えるとの回答をいただいた。

こちらに面倒を押し付ける対応に呆れはしたが、好機だと思っておこう。

生徒会の補佐と、いくつかボランティアを探しておこう。彼女の来歴が生かせて、将来の幅が広げられそうなもの。

婚約者に助言してもらえるように手紙を書こう。


「リアは授業に出たい?」


敬称はいらないと懇願され、愛称で呼んだらキラキラした目で見られた。気分は悪くないものの、本当に大丈夫かしらこの子。私の問いに少し考えて首を振る。


「無理しなくていいのよ。出たければ方法を考えるから」

「いいえ。別に卒業出来れば構いません」


未練もなく言い切ったのに少し不安を覚える。そんな私に気付いたのか、慌てて続けた。


「元々庶民育ちの男爵令嬢ということではぶられていたので友人はほとんどいませんでしたし、数少ない友人も殿下の一件で全員離れていきましたので」


全く問題ないです、といい笑顔で言い切られた。問題しかないのではと思ったが、言えるわけもない。

人の噂も七十五日。ほとぼりが冷めるまではどうしようもないのだけど。


「やりたいことはなかったの? ほら学園祭できゃあきゃあ言いながら練り歩いたり、試験終わりに王都で遊んだり、週末にパジャマパーティーしたり」


私の言葉に目をぱちくりさせる。そんな庶民的なことをとでも思っているのかもしれない。まあ去年の私は、肩書きが重すぎてできるわけも無かったというのが実際のところだ。


「したいって思ってもいいでしょう?」


彼女が何も言ってくれないので、拗ねたような物言いになってしまう。


「何というか…意外過ぎました」

「まあイメージには合わないわよね」

「だいぶ」


正直者が、と内心でぼやく。

入学してから姉の派閥が他の派閥に負けてるのに気付いてやる気出しちゃったのがいけないんだけど。周りの女の子たちも友達というよりも畏怖や尊敬って感じで居た堪れない。

仲良くしている子たちもいるけれど、パジャマパーティーなんて言い出せるわけもない。あの子たちのキラキラした視線を裏切ることなんて出来ない。


何度王都の通りを馬車で通り過ぎる時に楽しそうに歩く学園の生徒を見て焦がれたものか。


姉が婚約者から外れたことで、私にも付いていた影がいなくなった。護衛の手間が掛かるし、姉の評判にも関わるかと思い、いちおう気を遣っていた。束の間の自由を満喫するなら今しかないが、相手がやりたくないなら無理に誘うことは出来ない。


「あなたが嫌なら諦めるわ」

「嫌じゃないです! 私も入学前は薔薇色の学園生活を夢見ていたので!!」


「なら、決まり! 仕事終わったら計画立てましょう?」


喜んで、と勇ましく返事をした彼女は仕事に戻った。下手な人に任せるよりよっぽどミスは少ないし早く終わるから重宝している。


早速その日の夜に第一回パジャマパーティーを開催し、とても盛り上がったことだけ述べておくことにする。

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

スイレンとウィリアムの婚約のわだかまりがあった経緯もいつか入れたいと思っております!

もし可能でしたら、いいね押していただけたら励みになります!よろしくお願いします!

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