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奇妙な友情

揉め事が長引くのは気がひけるので早めに更新していきます。

いきなり蹴破るように扉が開いた。王族専用のこの部屋に入る人物は限られている。

生徒会室から来たし、あいつかと呆れた。


ノックをするように言い付けていたのに。

まあもうノックがどうのこうの言うつもりはなくなっていたが、約束が破られたのは初めてだった。やれやれ。


それでも、内心は嬉しく思いながらも顔を上げた。決して恋愛感情などではない。

俺が初めて愛したのはアザリアだけだし、もし復縁できなかったとしても暫くは彼女だけでいたい。

惚れた腫れたで壊れるような関係にはしたくなかった。

現時点で王族から弾き出された自分に近寄ってくるような物好きは貴重なのだから。


苦言でも呈そうかと思い、見つめて止まる。彼女はぶつかるようにして部屋に入った瞬間、糸が切れたように力がフッと抜けてへたり込んだ。

何かあったのかと驚いて立ち上がる。

髪の毛は乱れ、自分の体を抱き締めるように縮こまった。彼女に乱暴を働くような命知らずな輩は学園にはいないはずだが。慎重に様子を伺う。


真っ青な顔で手を握り締めて、それでも唇は笑みを描こうとして失敗したのだろう。その矛盾の末歪んだ表情になった彼女は言った。


「…平穏な婚約解消の仕方、教えてください」

「はあ??!」


友人の一大事だ。

平民ということにはなっているが、万が一の状況のために私兵を動かす心算を立てていて止まる。


(こいつ今なんて言った?)


突飛な言葉に目を見開く。冗談ではない雰囲気だし、彼女に限って悪戯にそんなことをするとは思えない。姉の件で1番奮闘していたのは彼女だから。


一体何があった。

彼女の側に膝をつき、項垂れた彼女の顔を覗き込む。

なるべく優しい声で問い掛けた。


「どうした?」

「好きな人が…できた」


数秒の沈黙ののち、優しさをぶん投げた。


「はあ!?? どういうことだ。相手は? 俺と同じ過ち繰り返すのか?」


歴史は繰り返されると言うけど、笑えない答えに肩を掴んで強請る。

襲われたわけではないことに安堵しつつ、自分のことは棚に上げておくことにした。ついこの前まで惚気ていた癖に、移ろい早過ぎだろう。


「冷静に考えろ。ウィリアムよりいい奴なんてそうそういないだろうが!!!」

「それ、あなたにだけは言われたくないけど、違う…」

「違わない!」

「いや、違うの! 

「違わねえよ!!!」


違う違わないの攻防をぶった斬って彼女は叫んだ。


「私はウィルが好き!!」

「じゃあ?」

「お姉さまが好きになったって」

「はあ!??」


ちょっと待て。落ち着け。彼女を両手で制しながら、片手で頭を抱える。彼女の言葉に引き摺られる。


「お姉さまがウィルを好きなのか、ウィルがお姉さまを好きなのか、どっちだ?」

「両方」


ローズに好きな人ができたなら本来は喜ばしいことだ。俺との婚約が解消されてから、彼女は姉が良い人と結ばれることを願っていた。


ウィリアムがローズを好き?


理解できない展開で頭が痛い。口がカラカラと渇いてきた。


こいつが勘違いしているだけなんじゃないだろうか?




そんなわけないだろうと反論しようとして、息を呑んだ。

彼女の歪んだ顔はぐしゃりと寄ったのち、崩壊した。涙が止めどなく流れ落ちる。

時折しゃくり上げる声はするが、さめざめと泣かれるのが1番胸を抉ることを知った。



(嘘だろ…)



幼い頃からの知り合いだけど泣いた姿を初めてみた。元婚約者の妹だから、自分の妹のように思っていた時期もあった。


暖炉の前で静かに泣く彼女を立ち上がらせて移動する。手を引かれるままソファに腰を下ろしたのを見て、どうすればいいか戸惑う。

兄弟はいるものの、全てが男兄弟。みんなプライドが高く、泣くのを見られるのが嫌いなので慰めた覚えなど幼少期以来ない。

元婚約者のローズはまず泣かない子だった。アザリアも泣くような弱い所を見せてくれる子ではなかった。



どうしたらいいのか!!



女性の泣き止ませ方も分からないとは何とも情けない。俺も泣きたくなって来た。

ただ男の世界で度々聞く、抱きしめるとか、甘い言葉を囁くとか、キスをするとか、そういう方法がそぐわないというのはわかっていた。

彼女には婚約者がいて、自分は彼女を口説くわけではないから。


ハンカチを渡して、後ろを向く。分からないなりに考えた。目一杯泣かせてやろうと。

俺の視線は邪魔なはずだ。背中にコツンと当たった。頭をついたのだろうか。寄り掛かるように力を掛けられる。しゃくりあげる振動が伝わってきた。

じんわり温かくて、1人じゃないということが伝わればいいと思った。

誰もが自分から離れて行った時、俺はこうして欲しかったから。

彼女の存在に励まされた時があったから。1人にはさせたくない。


机の上のリモコンを手に取る。仕事中にBGMで音楽を掛けていた。ゆったり落ち着く音楽を好んでいれてある。

沈黙よりもマシかと思い、スイッチをオンにした。


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