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第八十九話 ぶつける気持ち

久々の投稿です!

「ミツキ、どうしたんだろう・・・・・・」


 ユイはスマホの画面を見ながら呟いた。

 あれから何度も着信を鳴らしているが、全く出る様子がない。

 いったいどこにいるのだろうか?



『如何なさいました?』


 突然、声を掛けられた。

 それもスマホからである。


「え、ああ・・・・・・別に大したことじゃ・・・・・・」

『着信履歴を確認しますと、同じ番号の連絡先に二十四回程』

「ちょちょちょちょ、ちょっと、勝手に見ないでよ!」

『いくら電話が通じないからといって、十秒も待たずに掛け直すのは非常識かと』

「うぅ・・・・・・」



 分かっている。

 分かっていますよ。

 やってしまった後で後悔してるよ。


「わたしはヤンデレ彼女かって・・・・・・」


 ユイはその場にへたり込んだ。



『・・・・・・一つ、質問宜しいでしょうか?』

「何よぉ・・・・・・」


 項垂れたまま力のない声を漏らす。


『ユイ様はミツキ様に恋をしているのですか?』

「・・・・・・・・・・は!?」


 ユイは顔を上げ、スマホの画面に覗き込む。



『電話を何度も掛けていることから、ユイ様がミツキ様に対して異常な執着をしていることが見受けられます。それは所謂歪んだ好意を持っているということなのでしょうか?』

「全っっっ然、違うから!あと人をヤンデレみたいに言うのやめて!わたしそんなんじゃないから、ただちょっと過保護なだけだから!」


 あれ?わたしいつも以上に大声を出しているような・・・・・・。

 というか、こんなに強く否定していると、逆に肯定していると思われているんじゃ・・・・・・。

 そもそも、AI相手になに向きになってんの?

 というか、心の中までパニックになってんだけどっ!



「そっちは連絡が付いたかい?」


 遠くの方から声が聞こえた。

 振り向くと、一人の少女がスマホを片手に立っていた。

 小柄な体格で、小学生と見間違えてしまう程幼い容姿。

 マキナだ。


「まあ、その様子だとダメだったみたいだね。最も彼のスマホのGPSを辿ってみたけど、どこにも見当たらなかったんだよね」

「え、それって・・・・・・」

「単にスマホを家に忘れた、という線は低いだろうね。何しろ今日みたいな日には絶対必需品になってくるものだし、そういった準備を怠る程間抜けじゃないだろうしね。多分彼の身に何かあったのかもしれない」

「そんな・・・・・・」


 薄々嫌な予感はしていたが、マキナの説明でそれが確信に近付いてしまった。



「ミツキ・・・・・・」


 ユイはマキナに背を向ける。


「待ちたまえ。彼の居場所も分からないのに、どうやって見つけるというんだ?」

「でも・・・・・・」

「彼だって魔術師の端くれだ。何かあったとしても、どうにかできる程の力はある。君やボクよりもね」

「・・・・・・」


 マキナの言っていることは正しい。

 だが、それでも不安を拭うことはできなかった。


「・・・・・・まあ、ボクなんかと一緒にいるよりも彼のもとにいた方が安心だよね」

「あ・・・・・・」


 その一言で、ユイはマキナに意識を向けた。


「とにかく、ボクたちはボクたちがすべきことをやっていこう。でないと、また被害者が増えてしまうからね」


 そう言って、振り返り歩き出した。

 ユイもまだ心に靄が掛かっている状態だったが、彼女の言うことは一理あると思い、後に付いていくことにした。


「・・・・・・」


 だが、完全に晴れた訳ではない。

 ミツキのこともそうだが、なによりマキナのことも気が掛かりだった。



 家を出る前、ミツキから「先に現場に向かってくれ。俺は後から行く」と言われ、渡されたマップデータをもとに例の住宅街に行った。

 当然マキナがいて、作戦に向けた準備を行っていた。

 出会ってすぐ気まずい雰囲気になると思ったが、予想外にも向こうから話し掛けてきたのだ。

 といっても、事務的な内容の打ち合わせをしているようなもので、世間話という程愉快な会話ではない。

 素っ気なさもあったし、距離すら感じた。

 特に先の一言で、本人も心の中では気にしていることも理解した。



 そして、今気まずい空気が二人の間を漂っている。

 マキナは話し掛けるどころか振り向く様子もなく、真っ直ぐ歩いている。

 元々そうだが、いったい何を考えているのか皆目見当がつかない。


 やっぱり自分から話し掛けた方がいいのだろうか?


 そう思い、ユイはふぅと息を吐くと、意を決して声を発しようとした。



「君は、ボクのことが怖いかい?」

「え・・・・・・」


 突然の問い掛けとその内容に、思わず出そうとした言葉を引っ込めてしまう。

 そして、言葉の意味を頭の中で理解していき、現れた答えを口にする。


「正直、分からない。まだ殺意があるのなら怖いと思うし、ないのなら怖がる理由はないと思ってる。今はどう思っているの?まだわたしのこと、憎んでるの?」


 すると、マキナは立ち止まり顔を向けると、俯いて首を振った。


「・・・・・・だったら安心かな。わたしはマキナのこと全然怖くないよ」


 ユイは微笑み、更に言葉を続けた。



「確かマキナがわたしを襲ったのって、わたしとミツキが仲良くしていたことに嫉妬したからだったよね?」


 聞くと、マキナは視線を逸らし怪訝そうな表情を浮かべた。


「ああ別に嫌味で言った訳じゃなくて・・・・・・その、ちょっと気持ちは分かるというか、まあ殺意剝き出しになることはないけど・・・・・・やっぱり自分は一人なのに他の人たちが仲良くしているのを見ていると、なんだか恨めしい気持ちになるというか、わたし昔そういう時期があったから、なんとなく分かるよ」


 すると意外と感じたのか、顔を上げ不思議そうに見つめてきた。

 だが、何か心当たりがあるような素振りを取ると、納得したようにコクコクと頷いた。


「え、何?もしかしてわたし、そういう片鱗みたいなのがあったの?」


 マキナは頷く。


「えぇぇ・・・・・・」


 素直に答えられると、少し傷付く。



「まあその、誰にだって嫉妬心を持っちゃうことあるし、それで酷いことしちゃう訳だしね。今回は度が過ぎただけって思ってるわ」


 一歩踏み出し、マキナに歩み寄る。


「気にしなくていいって言っても無理だと思うけど、それでもわたしはマキナとギスギスした関係のままは嫌。寧ろ仲良くなりたいと思ってる。だってあなたはわたしにとって大切な恩人だから」


 すると、マキナは少し驚いた表情を浮かべた。



 が、直後に暗くなり、複雑な顔になった。


「・・・・・・恩人って、頭可笑しいだろ?度が過ぎただけ?人殺しが?どうかしてるよ、君は。どんなに善行を積んだって、結局悪事を働いた過去は消えない。それにこれから何もしないなんて保証はない」


 声が震えていた。


「怖いんだよ。自分が何者なのかさえ分からない。自分の中に何があるのかも分からない。ボクが、ボクでなくなって、望んでないことをするんじゃないかって考えると、ボクは・・・・・・ボクは・・・・・・」


 頭を抱え怯え始める。


「でも・・・・・・ミツキに諭されて、少しは人並みくらいにはなろうって努力した。けど、普通じゃなかった時期があるから普通になれるのか分からない。そもそも普通が何なのか分からない。教えてくれよ、ユイ。ボクはどうやったら君みたいに変われるんだ?」


 縋るように問い掛ける。



 哀れだとは思えなかった。

 情けないとは思えなかった。

 否定することも、同情することもできなかった。

 ただ一言だけ言えることは、自分の中の奥深くに埋めていたものを無理矢理掘り起こされたような、そんな気分だった。

 それが今目の前にいる、そう錯覚させられている。

 不快感とは別で、複雑な気持ちになった。

 だからこそ掛けるべき言葉があると思った。

 今はその時であり、口を開こうとした。



「んっ」


 だが、それを遮るように突風が襲う。

 生暖かくじめじめした感覚が肌を舐めるように吹き付ける。

 不快感を覚えたが、それと同時に悪寒を感じた。

 遠くから歪んだ思考を含ませた眼差しで見られているような、嫌な感覚。

 それはなぜかマキナの方に向けられているような気がした。


「!」


 気が付いた時には、足が、手が動いていた。

 小さな身体を全ての体重を掛けて突き飛ばしていた。

 そして、直後に視界が真っ赤に染まった。



 顔が地面に付いている。

 だが、身体が思うように動かない。

 変わりにアスファルトの地面が赤黒く染まっていく。

 意識が薄れていき、全身から焼き付けるような熱さが伝わってくる。

 鼓膜からは悲鳴のような声が聴こえるが、何を言っているのかよく分からない。


 あぁ・・・・・・、警戒・・・・・・して・・・・・・たん、だ・・・・・・けど・・・・・・、これ・・・・・・ヤバ




















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