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第八十八話 理不尽な疑念

久びりの投稿です!

結構長めになってしまいました・・・・・・。

 目を覚ますと、視界は真っ暗だった。

 もしかするとまだ夢の中にいるのかもしれない。

 だが、肌から伝わる冷たい感覚は妙にリアルだ。

 それに先程から手足の身動きが取れない。

 何かに縛られているようだ。

 よく見ると繊維のような模様が見える。


 これは、布?

 それも麻の生地か?


 察するに、これが現実なら俺は非常にマズイ状況に陥っている可能性が高い。

 それは視界が急に明るくなったことではっきりした。



 目を凝らし、周囲を確認する。

 辺りは殺風景で狭い空間が広がっていた。

 無機質なコンクリートの壁と天井。

 床、というより茶色い砂の地面。

 長テーブルの上を照らすデスクスタンドの照明。

 埃っぽく、ツンと鼻腔を刺激するような臭いがする。



 そんな場所にいるのは俺を含めて四人。

 両サイドに黒いローブを羽織った魔術師が二人立っている。

 そして、目の前にはグレーのスーツを着た中年の男性が座っていた。


「ようやく目が覚めたようだね、光剣寺ミツキ君」


 男は眼鏡をくいっと持ち上げて、胡散臭い笑みを浮かべていた。

 多分、というかこいつの仕業だな、これ。



 俺はパイプ椅子に縛り付けられている手足を動かそうとした。

 だが、縄で強く固定されているためかビクともしない。

 それどころか力が抜けていくような感覚すら感じる。

 まさか___。


「お、気付いたようだね。その縄は特殊な素材でできているんだ。何だと思うかい?」


 テーブルに乗り出し、目を輝かせて答えを催促してくる。


 いい年したおっさんが子供みたいに無邪気な態度をとっているのを見ると、結構引くもんなんだな・・・・・・。


 そんな皮肉を言いたいところだが、そんな気分になれなかった。

 なぜなら、今ここにいる連中に敵意を向けているからだ。

 俺は男の問い掛けに怒りを滲ませながら答えた。


「魔物、それも俺が以前戦ったフェンリルの紐だな」

「ご名答!流石は・・・・・・腐っていても魔術師の端くれ、といったところか」


 男は歓喜の声を上げたかと思えば、急に冷めた態度をとり始めた。



「俺に対する皮肉か?」

「猛獣を縛っておくには効果的だと思ってね。結果を言えば成功という訳さ」


 男が俺に向けている目。

 長い間向けられたものだからよく覚えている。

 人を人してみていない。

 そう、『化け物』を見る目だ。


「君みたいな獰猛な生き物と話すのだから、これくらいして当然でしょ?」


 さも当然のように淡々と言葉を発している。

 やはりいつ見ても聞いても、胸糞悪い気分だ。



 正直、こんな奴と口を利きたくないが、状況が状況なので話すほかない。

 溜息をつくと、ふんぞり返っている男に問うた。


「それで、俺をここに連れてきた目的は何だ?」


 少なくともロクでもないことなのは確かだろう。

 まともな奴なら、監禁なんて物騒な真似はしないのだから。



 男は頬杖をつくと、蔑むような目でこちらを見据えた。


「先日、山中で輸送中のトラックが何者かに襲撃されたことはご存じかい?」


 それは以前エリに事件の依頼を受けた際にも聞かされた話だった。

 まだ話の筋が見えなかったので、相手の様子を伺いながら黙って話を聞くことにした。



「それで三つの魔道具が強奪されてね。今協会内は犯人の捜索と上への対応でパニック状態になっているんだ。行政機関にはバレないようにあれこれ手を回しているけど時間の問題で、このままだと協会の信頼が失墜してしてしまう。これは非常にマズイ。いや~困った困った」

「・・・・・・それで?俺にどうしろと?」


 犯人捜しの手伝いをしろと言うのか、将又魔道具の奪還をしろと言うのか。

 そんな生温い考えが過ったが、違うような気がした。

 なんだか嫌な予感がする。

 案の定、的中することになった。



「君には犯人の、代役になってもらう」


 冷酷にも言い放たれた言葉。

 情けなんてものは一切なく、当然なことだと疑ってすらいない。

 だが、そんなに驚きはしなかった。

 寧ろ、いつものことで呆れてすらいる。

 だってこいつらは、()()()()()()()()()()()



「どの道バレてしまうことはほぼ確定事項な訳でね。信頼を落とすだけじゃなくて、協会総動員で犯人の捜索をしろなんて言い出す可能性だってある。そうなると魔物討伐の人員が減るし、他の業務の手が回らなくなって、組織として真面に機能しなくなってしまう。それは協会としても避けたいことだ」


 バカみたいに長い前置きだ。

 ホントこいつムカつく。


「そこで誰かに犯人を演じてもらうことで、仮にバレたとしても既に犯人は捕らえて魔道具も無事回収したことになり、無駄な人員を削減しなくて済むという訳だ。もちろん、真犯人の捜索は裏で行うけどね」


 ああ、やっぱりこいつクズだな。


 周りにいる奴らは直立したまま何も反応しないが、恐らく賛同しているのだろう。

 なんだかサイコパスに見えてきた。


「で?何で俺が濡れ衣を被る必要がある?」


 なんとなく予想は付くが、一応聞いておくことにした。


「他の魔術師は優秀は人材で可哀そうだ。だから君に頼んだんだよ。慣れているだろ?こういう汚れ仕事は。人の役に立つ仕事を与えてやったんだから寧ろ感謝してもらいたいくらいだよ」


 狭い個室が反響するくらい大きい高笑いをする。



 そのふざけた面をぶん殴って歪ませてやりたいと思った。

 だが、今は椅子に縛られていることがあり叶わない。

 心底屈辱だった。


「俺がそれを引き受けると思ってんのか?」

「人の役に立ちたいと思わないのかい?」

「少なくともてめぇらにとっちゃぁ都合いいことだよな。だけど、俺にとっちゃ何の得にもならねぇ」

「う~ん、そうなると残念だね。君が担当している見習い魔術師の対応も見直す必要が出てくるかもしれない」

「てめぇ・・・・・・」


 とんだクズ野郎だ。

 協会の奴らはこういうのしかいないのか?

 フードを被った魔術師に視線を向けるが、表情が見えない。

 男の言ったことを容認しているように感じた。

 だとしたら、どいつもこいつも腐ってるな。



 男は勝ち誇ったように笑みを浮かべ、顔を近付けてくる。


「引き受けてくれるかい?」

「・・・・・・」


 俺は言葉を発するのを止めた。

 こいつとはまともな会話はできないと思ったのもそうだが、どうしようもないと諦めたという方が強かった。

 現状魔術を使えず、力尽くで脱出しようにも手足が拘束されてほぼ不可能だ。

 ここで濡れ衣を着ることを了承すれば解放してくれるかもしれないが、最悪殺される危険性もある。

 だが、今の俺に選ぶ権利は皆無だった。

 理不尽で、最低最悪で、どうしようもない地獄(げんじつ)

 受け入れるしかないと思い、俺は口を開こうとした。



 全身を介して、衝撃を感じた。

 照明が揺れ、チカチカと点滅する。

 その一連の出来事に違和感を覚えたのは、俺だけではなかった。

 地震かと思ったが、不自然な揺れ方をしている。

 それどころか、地面から物音がして、次第に大きくなっていく。


 ドンッ


 地面から巨大な何かが飛び出し、砂埃が舞い上がる。

 それが晴れると、巨大な花の蕾が露になった。

 これに俺は既視感を覚えていた。



 巨大な花弁がゆっくり開くと、中に一人の少女が立っていた。

 埃っぽい個室には似つかわしくない赤褐色のロングドレス。

 体型は引き締まっており、出ているところは出ている。

 特に胸が。

 長くシルクのような髪を下ろし、顔は人形のようで、端正な顔立ちで童顔だ。

 道行く人が見ればその美貌で見惚れてしまうかもしれない。



 だが、俺は違う。

 そもそもここ最近、異性を異性として見たことがないというのもあるが、彼女の場合はそれ以前の問題だ。

 良い意味でも悪い意味でも。

 というか、今更こいつに女性としての魅力を感じることはない。

 断じて。


「お前、結構その登場のし方気に入ってたりする?」


 相変わらずの奇怪な登場方法に呆れていると、


「意図していた訳ではありませんが、自分のアイデンティティになり掛けていることは自覚していますね。嫌ではありませんが」


 と、返答した。

 彼女の名前は、早乙女エリ。

 学校でのギャルの印象が強いが、一応財閥の令嬢であり俺の上司だ。



「それにしても、随分勝手なことをやってくれましたわね」


 丁寧な口調で喋っているが、明らかにご機嫌斜めであることは察した。

 宝石のように透き通った眼には、静かな怒りの炎を燃やしており、俺以外の人物たちを一瞥する。


「早乙女・・・・・・、エリ・・・・・・」


 男がそう呟いているのが聞こえた。

 様子を見ると、先程までの余裕はなく顰めた顔になっていた。


「あら、上司に対して呼び捨てとは、覚悟は宜しくて?」


 にこやかな表情を浮かべているが、半ば本気であることは伝わった。

 それは男自身も感じたようで、口角を上げて不細工な笑顔を作る。


「これこれはエリ主任、お会いできて光栄です。こんな小汚い場所で持て成しもできず申し訳ございません。それで、どのような要件で?」


 手の平を重ねて、ごまをすり始めた。

 調子のいい奴だな、絶対こいつ嫌われているな。



 エリはそんな男の態度に顔色変えず、淡々と答える。


「大したことではありませんわ。ただ、そこにいる『彼』を迎えに来ただけです」


 俺と目が合うと、「ね」と微笑みかけてきた。

 ちょっと背筋が凍った。



「え、あ、ちょっとそれは・・・・・・」


 狼狽える男。

 しかし、エリは追い打ちを立てるように容赦のない言葉を投げる。


「何ですか、彼に用事があるのですか?わたくしに許可なく、彼の貴重な時間を取ってまでやらなければならない程重要事項なのですか?だとすれば、今ここでわたくしが納得できる説明をして下さい」

「・・・・・・」


 高圧的な態度に男は口籠ってしまった。

 流石、最高主任。

 覇気が違うな。


「少し彼とお話がしたいので、退出していただけますか?」


 エリがそう言うと、その場にいた三人は顔を見合わせ、不機嫌そうに出ていった。

 もちろん、俺の魔道具や貴重品を全て置いていっている。



「さて、と。時間が押してるから早めに終わらせるわよ」


 三人が部屋から完全にいなくなると、エリは俺の後ろに回り込んで縛っている紐を解き始めた。

 口調はギャルモードに切り替わる。


「何で助けた?」

「部下が不当な扱いを受けているのが見過ごせなかったから、ただそれだけよ。別に捕まったのがあんたであろうがなかろうが関係ないけどね」


 腕と上半身が解放され、俺は足元の紐を解く。


「お前は俺のこと、化け物って思わないのか?」

「バカね。あんたを化け物っていうなら、あたしたちがいつも戦っている奴らはなんて表現したらいいの?少なくともあんたはただの生意気なクソガキ程度としか見てないわ」

「・・・・・・そうかよ」


 なんだか全然嬉しいと思わないというか、複雑な気分だ。

 だが、少し気持ちが楽なった気がする。



 紐が解け、立ち上がると軽く背伸びをしようとした。


「あんた自身はどう思ってんの?」


 突然の問い掛けに少し驚いてしまった。

 差し出されたヘルメスの魔道具を受け取り、首にぶら下げる。

 それから考えたが答えが見つからず、頭を掻きいた。


「分かんねぇ、けど自分がそうなっちまうのは嫌だと思ってる。特にユイを傷付けちまうことが一番・・・・・・」


 言い掛けて、俺はあることを思い出した。


「そうだ!向こうの状況はどうなってんだよ。あれから時間はどのくらい経った!」

「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ。あと、問題ないわ。ユイちゃんとマキナは一緒にいるし、時間も今から行けば、十分間に合うわ」


 それを聞くと、俺は机に置いてある魔道具と貴重品を手に取り、脱兎の如く部屋から飛び出した。



 狭い通路を駆け、最後に扉を開けて広い場所に出る。

 体育館並みの広さで、周りには何も置いてない殺風景な場所。

 それと相変わらず埃っぽい。

 結局どこかは分からなかった。



 周りを見回して出入口を見つけたので、そこまで走り出そうとした時だった。

 出入口の方から強い風が流れ込んできたのだ。

 俺は咄嗟に足を止め、顔を腕で覆い隠す。

 鼻腔を擽る潮の香り。


 海が近くにあるのか?


 そう頭に過った直後だった。



 出入口の向こうから男の悲鳴が聞こえたのだ。

 まさかと思い再び駆け出し、建物から出る。


「!?」


 俺は目の前にいる存在に釘付けになってしまった。



 規格外の大きさで蛇のような長い胴体。

 ぬめり気のある鱗のような表皮。

 魚のような背びれ。

 その顔は鬼をも恐怖する凶悪が形相。

 不揃いの牙が並ぶ大きな口を動かし、ドロドロした赤黒い液体を零していた。

 周りに光が灯っているためその全貌ははっきり確認できる。

 だから、そいつが何を喰っているのかも嫌でも理解できてしまった。


「なんてことを・・・・・・」


 俺は液体が零れた先を見た瞬間、思わず目を逸らしてしまった。

 後から追ってきたエリも、この悲惨な光景を見て戦慄した。


「ウソ・・・・・・でしょ」


 流石のエリも、こればかりは平静を保てなかったようだ。



 魔物は俺たちの存在に気が付いたようで、こちらに鋭い眼光を光らせた。

 次の獲物はお前たちだと言っているように感じる。


「エリ」


 俺は首にぶら下げている魔道具を強く握りしめた。


「早めに終わらせるぞ」

如何だったでしょうか?

次回は場面が変わってあの二人に焦点を当てた話になります。

お楽しみに!

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