表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/140

第八十七話 最後の説得

 翌朝。

 俺は自分の部屋で電話を掛けていた。

 着信音が三、四回鳴ったところで相手が出る。


「何?」


 名乗ることもなく、素っ気ない態度で返事をしてきた。

 どこか眠たそうで、今まさに起きたばかりのようにも感じる。


「俺だ、ミツキだ」


 そう答えると、電話の向こうで盛大に溜息を吐くのが聞こえてきた。


「こんな朝早くから電話しないでくれ・・・・・・眠いんだ」


 そう言うと、大きな欠伸をする。


「いや朝早くって、もう十時過ぎてんだけど・・・・・・」


 部屋の壁に掛かっている時計を見ると、店のショーケースに並べられている時計と同じ時刻を差していた。


「休日の午前中はボクにとって寝ている時間帯なんだ。統制係の仕事は多忙だからね。それについさっき寝たばかりなんだよ」

「そ、そうか・・・・・・」


 なんだかコハナの気持ちが分かったような気がする。

 客観的立場になると、今のマキナの発言に少し異常性を感じてしまっている自分がいる。

 労いの言葉を掛けてしまいそうなくらい心配になっていた。

 流石に掛け直したほうがいいなと思い、通話を切ろうとした。


「まあいいさ。どの道ボクの方から連絡するつもりだったし、このまま会話を続けよう」

「え、あぁぁ・・・・・・大丈夫なのか?」

「ん?やけに心配性だね。何かあったのかい?」

「まあ、色々あってな」


 寝不足が原因だったか今となっては分からない。

 だが、もしあの時それが原因で倒れたのなら、他人事ではないと思ったのだ。


「ふーん、ま、いいか。あまり長話したくないからね。先に要件を伝えてくれ」


 そう言うと、再び欠伸がする。

 そんなに眠いなら時間をずらせよ。

 なんて思ったが、本人がそれでいいと言うなら仕方ない。



 俺は一呼吸置くと、改めて要件を伝えることにした。


「次の捜索の時、ユイも一緒に同行させようと思う」

「そうか、了解した。実はボクも同じことを相談しようと考えていた。詳しいことは後で訊こう」


 それじゃ、と電話を切ろうとした。


「いやちょっと待て!」


 だから俺は慌てて静止した。


「な、なんだい、急に、大声を出さないでくれ・・・・・・」


 狼狽えるマキナ。

 だが、困惑している俺は、それで気を回す程心に余裕を持てなかった。


「あっさり過ぎるだろ!あんだけうじうじしてたのに、心変わりが急すぎるわ!」


 若干声を荒げる俺。

 しかし、マキナは冷静で淡々と言葉を続けた。


「いったい何を勘違いしているんだい?ボクは今回の件で、彼女の能力も必要になってくると思ったから同行に賛成しただけなんだが」

「え、そうなのか?にしたって・・・・・・」


 あっさり事が進んでしまい、少し引っ掛かる部分はあったりする。

 散々距離を取っていた相手と一緒に行動することを提案されて、最初は渋ると思った。


「・・・・・・分かった、お前が良いっていうならそれ以上は何も言わない」


 だが、純粋に考えれば好都合であることには変わりない。

 正直、人命が掛かっていることに私人間での揉め事を挟むのにはまだ抵抗はあるが、ここまで来たらもう実行するしかない。

 最悪の場合、その場で俺がなんとかすればいい。



「その・・・・・・悪かったな。寝ている時に電話掛けて」

「ホントだよ。お陰で目が冴えてしまった。だからこのままこっちの要件も済ませようと思う」


 ここからは要約した話になるが、やはりあの時サラリーマンを殺害した者の正体は魔物だった。

 そして、一連の連続通り魔事件の犯人もそいつで間違いないようだ。

 しかも厄介なことに、魔力反応つまりその場に存在している時間が短く、触れるどころか視認することさえ叶わない相手なのだ。

 出現する時間帯は分かっているが、その場所までは特定できていない。

 一応、範囲は住宅街に絞られるが、それでも広すぎる。

 つまり、いつどこで誰の目の前に現れるか分からないのである。



「いや、それほぼ詰みだろ」


 話を聞いている限りでは、全然攻略の糸口が見えてこない。


「そうとも限らないさ」


 だが、マキナ自身は何か策があるようで、その点に関して詳しく説明をし始めた。


「実はあの住宅街にその答えがあって、それが大気にあるようだ」

「随分限定的な条件だな」

「ああ、君が家に帰宅してからのことだ。奇跡的に魔物が出現してから消滅するまでの記録映像を録画することに成功してね。後で確認すると、体組織が霧散しているように見えたんだ。まるで空気中に溶けるようにね。だから大気中にある分子を調べてみたんだ」

「結果は?」

「過去に出現した魔物の細胞と同じ性質の微粒子が検出されたよ。恐らく、あの魔物は分子レベルで身体を分散させることで、大気中に溶け込むことができる性質を持っているようだ」

「な・・・・・・に」


 俺はマキナの説明で全てを理解することができた。

 分子レベルということは、大きいもので十ナノメートルつまり一億分の一メートルだ。

 人の肉眼では視認することができな極めて小さいもの。

 それが無数に散らばっているのだから見つけられるはずがないのだ。


「正体が分かっても倒せる確率は極めて低いってことか・・・・・・」

「そうだね。だから、奴が再度身体を再構成するタイミングを見計らって倒すしかないね」


 結論から言ってしまえばそうだが、それが非常に困難なことでもある。



「いや確かにそうだが、まずどこに現れるのかが分からないだろ?ただでさえ目に見えない敵だ。現れるまで住宅街一帯を総動員で監視する訳にはいかないだろ?」

「確かに現実的ではないし、そんな頭の悪い方法じゃ出てくるものも出てこないだろうね。分散している状態でも意識がある可能性だって十分にある訳だし、目立つ行動を避けることも懸命だね」

「じゃあ、お前が考える策ってのは何だ?」

「察しが悪いね、最初から言っているじゃないか。()()()()()()()()()()()()()()って」

「!?」


 ここでパズルのピースが全て揃った。

 不確かで掛けているピースの埋め合わせ、それを満たすための代わりとなるもの。

 いつどこに現れるか分からないのなら、あらかじめ予測をしてしまえばいい。

 それを可能にしているのがユイの『瞬間転移』と『未来観測』だ。

 確かに神出鬼没の相手なら有効かもしれない。

 だが、納得はしていなかった。



「他力本願だな」

「解決策としてはそれが近道だと思っただけだよ」


 確かに下手に時間を掛けるよりかはいいかもしれない。

 もし他の魔術師相手なら助力を求めていただろう。

 だが____。


「生憎、あいつの能力は万能じゃない。まだ発展途上で完璧に扱うことはできないし、能力自体にも制限があるぞ」


 そう言うと、唸り声のような音が聞こえた。


「リスク付きか・・・・・・まあ、それ程のことをしないと勝つどころか戦うことすらできない相手ということになるね」


 口ではそう言っているが、その声色から緊張感のようなものを感じた。


「とにかく、今話したこと俺からユイに伝えておく。ここでいろいろ話しても埒が明かねぇからな」

「確かにそうだね。一応こっちでも調べてみようと思う。分かったら連絡するよ」


 それから短い会話をして、通話を切った。



 そして、肩の力が抜けた反動で、ベッドに寝そべった。


「取り敢えず、第一関門は突破ってところか・・・・・・」


 意外とあっさりしていたが、問題はここからだ。

 魔物を討伐するという役目もあり、マキナの心境変化を予測することが困難である以上、どう転ぶか分からない。

 だが、信じると決めたからには、その意思を最後まで突き通すしかない。



 俺はベッドから起き上がり、部屋を出た。

 ユイに今話したことを伝えるために。

 限られた時間の中で自分にできることをするために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ