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第八十四話 小話のきっかけ

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 翌日。

 いつも通りの朝を迎える。

 朝食を食べ、学校に登校し、いつものメンバーと他愛ない会話をしながら朝礼前の時間を楽しむ。

 眠い目を擦りながら午前の授業を受け、昼休みまで堪える。

 そして、それを知らせるチャイムが鳴ると、席を立ち上がり廊下に出た。



「・・・・・・」


 正直眠いから今すぐ寝たい気分だ。

 だが、それが叶わないのが現状である。

 なぜなら昨日、ユカリに言われたことが気掛かりで、頭から離れないからだ。



 重てぇっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!


 なんだか無理矢理自覚させられた気分だ。

 ユイを魔術師として戦う以上、認めた俺は彼女を守る義務が生じることになる。

 それは最初から分かっていたし、肝に銘じている。

 精神的な負荷にならないように配慮している。

 だが、いざ他人に言われるとドスンと圧し掛かるものを感じるようになる。

 ストレスが一気に蓄積されていくのだ。



「あぁ~~~、ヤバい。眩暈がする」


 寝不足によるものか、身体のバランスが上手く取れない。

 それどころか、ストレスで胃がキリキリしてきた。

 吐き気も・・・・・・。



 貧血でまともに立つことができず、壁に寄り掛かり座り込んでしまう。

 視界がぐにゃりと歪んで黒く見える。

 全然思考が回らない。

 このまま意識がプツンと切れてしまいそうだ。


「うぅぅぅ・・・・・・・・・・」


 呼吸が上手くできない。

 だから、声が出ない。

 周りに人がいないからなのか、声が全く聞こえない。


 これ・・・・・・マジでヤバいかも・・・・・・。


 そう頭に過った時だった。



「ちょっと、大丈夫?」


 声が聞こえた。

 それも最近どこかで聞いたことがある声だ。


「これ、買ったばかりで開けてないから飲んで」


 その一言で、誰かが飲み物を差し出してきたことを直感する。

 それを受取ろうと腕を持ち上げようとした。

 すると、柔らかい手が俺の手を添えて、ペットボトルを持たせてくれた。

 俺はすぐに口に持ってくると、味わうことなく一気に飲み干した。



「ぷはっ」


 これにより、途絶え掛けた意識が覚醒した。

 まだ体調は優れないが、それでも視界はまともに見えるようになっている。


「ありがと、助かった」


 顔を上げ、横で膝をついている少女に目を向けた。



「えっとぉ、確か・・・・・・」


 再稼働した脳で思い出そうとする。


「結城コハナよ。まさか忘れてないよね?」


 そう言って、コハナは丸い眼鏡をくいっと持ち上げた。


「ああ覚えてる覚えてる。マキナに紹介したこともちゃんと覚えてるよ」


 もちろん、それだけではない。

 マキナから相談を受ける時、絶対一回は『コハナ』の名前を口にしている。

 だから、嫌でも覚えるし、二人の仲が良好であることも十分伝わっている。

 今では惚気にすら聞こえてきている。



 そんなマキナの最愛の親友は、眉間に皺を寄せて顔を覗かせていた。


「それだけ達者に話せるなら、少しはマシになったってことでいいのかな?顔色はまだ悪いままだけど・・・・・・」


 コハナの冷静な分析は、ほぼ的中している。

 思考と会話ができる程には回復したが、まだ手足に力が入らない。

 眩暈や腹痛は大分マシになったが、それでも気分が悪いことには変わりなかった。



「光剣寺君だったかな?一つ聞いてもいい?」

「何?」

「あなたって昨日・・・・いや普段何時間寝ているの?」

「え?」


 予想していない問い掛けに、思わず間抜けな声が出てしまう。

 でもまさかと思い、答えることにした。


「・・・・・・い、一時間」


 すると、コハナは驚愕したように目を見開いて一瞬固まってしまう。

 そして、呆れたように盛大に溜息をつく。


「それは、まあ・・・・・・体調崩すのも頷けるわね」

「いやでも、いくら何でもそうとは限らないだろ?俺ちょっと前までは二時間くらいは寝てたぞ」

「それでよく体調崩さなかったわね。・・・・・・いや、生きているのが不思議だわ」

「・・・・・・まあ、タフなんだろうな、俺の身体」


 まあ、自分の生活リズムが異常な程狂っていることは自覚している。

 小学生の頃は遅くても十時前には寝ていたから、中学デビューで瞬く間に不健康になってしまった。

 因みにユイやその家族には気付かれていない・・・・・・と思う。



「とにかく、ストレスとかそういうのじゃねぇのかなって思う。最近いろいろあったしな」


 壁に身体を預けながら、ゆっくり立ち上がろうとした。

 が、途中で貧血の気配を感じたので、またその場に座り込んでしまう。

 「肩貸そうか?」と言われたが、これ以上迷惑を掛けたくなかったので拒否した。



「いろいろ・・・・・・もしかして、マキナちゃんのことだったりする?」


 心当たりがあったのだろう。

 探るような口調で聞いてきた。


「そう・・・・・・だな」


 俺が首肯すると、コハナは何かを確信したように話を切り出した。


「実は最近気になることがあって、マキナちゃんが教室から帰ってくる時暗い顔をしていることがあるの。どうしてって聞こうとしてもはぐらかされることがあって・・・・・・」



 やはりユイとのいざこざによる影響はここでも出ているようだ。

 まったく、どこまでも世話の焼ける女だな。

 人のことは言えないが___。


「マキナちゃんが光剣寺君に会いに行って戻ってくる時がそうだから、もしかすると何か知ってるかなって思ったんだけど、どうなのかな?」


 そう聞いてくる彼女の表情は本当に心配している様子だった。



 それもそうだ。

 親しい人が悲しんだり落ち込んだりしているのに、何も思わないことなんてあり得ない。

 現にユイも俺のことを気に掛けて話し掛けていたし、逆の立場になってもそうだったから。


「そうだな、あいつが俺に会いに行く時、ユイと鉢合わせるといつも気まずい感じになっちまうんだよな。でも、それには理由がある」


 俺が知る限りのマキナの動向を話した。



 魔術師のこと。

 過去に監禁生活を強いられたこと。

 魔術協会の統制係であること。

 マキナがユイを殺そうとしたこと。

 大半の内容を伏せることになったが、なんとか話の大本を伝えるように努力した。



 そして、全てを話し終えると、コハナは思いつめたような様子になりながら口を開き始めた。


「つまり、マキナちゃんはユイっていう子にとって、恩人でもあり加害者でもあるということなのね・・・・・・」

「まあそういうことだな。とにかく、あいつとユイの仲が少しでもマシになるくらいにしねぇとなぁ。いろいろ面倒なんだよ。正直見てるこっちが気まずくなる」


 それに近い内にあの二人が共闘する可能性だってある。

 ギスギスして連携がとれないのも問題だ。


「早ぇところなんとかしねぇと・・・・・・」


 ある程度力が入るようになったので、俺は再度立ち上がり、礼を言って保健室に向かおうとした。



「多分だけど、あなたが何かしようとしても何も変わらないと思う」


 その一言で俺は足を止めた。


「それに、和解したからといって、そんな急に関係が修復されることなんてあり得ないわ」


 確かにその通りだ。

 俺も同じことを考えている。

 だが、何も進展していないのが現状だ。

 いろいろ考えたが、どうもいい案が思いつかない。


「じゃあどうすればいい?」


 問い掛けると、コハナは自分の考えを話し始めた。



「それはあの二人が決めることね。あなたは関わりがあるだろうけど、わたしはどこまでいっても部外者であることに変わりないし、言っていることも全て無責任な発言になってしまう。でもきっかけくらいは与えてあげたい、そう思っているわ」


 きっかけ、か___。


「そのきっかけとやらが全然思いつかなかったんだが」

「本当にそうなのかな?」


 反論しようとしたが、途中で言葉を遮られてしまった。


「過去に助けて助けられたことがあって、傷ついて傷つけられたことだってある。でも、話を聞いている限り()()()()()()()ではないと思うんだけど、どうなの?」

「・・・・・・それは」


 一部情報を伏せて気付かれないように話したつもりだが、勘づかれてしまったようだ。

 とはいえ、それ以上のことは話せない。



 どうすれば、と口籠っていると、コハナはふーと溜息を吐いた。


「話せない事情があるのね。分かった、これ以上の詮索はしないでおくわ」

「え、おぉ・・・・・・ありが」

「でも、あまり手段を選んでばかりいるのは良くないと思う。時間を掛ければ掛ける程、余計に拗れてしまうことだってあるからね。少しでも良い方向に向くように舵を取ることが大切だから」

「・・・・・・」


 身に覚えがあり過ぎる発言だ。

 実際に拗れた経験があるから、自然と危機感を覚えてしまう。



「本当はわたしも協力したいけど、ユイって子のこと何も知らないし、事情を知っているあなたの方が適任だと思う」

「結局俺一人でどうにかしなきゃいけねぇのかよ・・・・・・」

「一応マキナちゃんと話そうと思うけど、やっぱり直接二人に関わりのあるあなたの方が」

「分かった分かった、まあとにかく、ちょっと頭を整理させてくれ。でないとまた再発しそうだ・・・・・・」


 俺は食道から込み上げてきた吐き気を抑え、再び歩を動かそうとする。

 取り敢えず、まずはトイレに行った方がいいな。

 「大丈夫?」と付き添おうとしてくれたが断った。



 それから午後の授業の間、俺は保健室で休むことになった。

 しばらく頭痛と腹痛と吐き気で気がどうにかなりそうだったが、放課後になってある程度回復した。

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